第53話 最強の四天王
「お前を倒してチェックメイトだ」
深淵ダンジョン、最下層付近。
カナタは前方に剣を向けた。
目の前に佇んでいるのは、一人の魔人だ。
「ほう。またも相まみえるか」
長い金髪に、魔人を象徴するような褐色の肌。
三メートル以上もの巨躯には、ムキムキの筋肉質が備わっている。
黒に染まった翼を生やす様は、まさに覇王のごとく。
魔人の名は、ゼブル。
最後にして“最強”の四天王だ。
その勇ましい姿に、カナタは懐かしさを覚える。
「……変わらないな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
《なんだあいつは!?》
《やばいクソ強そう》
《体デケエなおい!》
《オーラえっぐ》
《今までの魔人と明らかに違えな》
《でもカナタ君なら!》
《頼むぞ魔王様!》
そのオーラは画面超しにも伝わるほど。
それでも、カナタは立ち止まるわけにはいかない。
何としても魔王の復活を阻止するべく、すぐに攻撃へ移った。
「いくぞ──【重力操作】!」
カナタは前進しながら“重力場”を形成する。
相手の重力は極限まで大きく、自分の重力は皆無に。
弱体化と強化を併せ持った五つ目の能力だ。
しかし、ゼブルは難なく動いた。
「ぬるい──【絶無の波紋】」
「ぐっ……!?」
ゼブルは腕を組んだまま、辺りに衝撃波を放出した。
それに吹き飛ばされる形で、カナタは元の位置に戻る。
カナタは体勢を整えながら苦笑いを浮かべた。
「やっぱそうなるか」
「当然だ」
今のは【絶無の波紋】。
周囲に衝撃波を放出し、全ての能力を打ち消す技だ。
カナタの【重力操作】は無効化されたのだ。
「我に恐れをなすか? 旧き敵よ」
「まさか」
そう答えるも、カナタは脅威を感じていた。
ゼブルは今までの魔人とは訳が違う。
加えて、以前戦った時とはカナタの条件も異なっていた。
(前は七つ持ってたからな……)
異世界でゼブルと対峙したのは、『七つの能力』が揃った状態の時。
規格外の能力をさらに二つ所持していた。
それでようやく勝てた相手に、今回は五つで挑まなければならない。
前回の戦いより困難にはなるのは間違いない。
それでも、カナタは仕掛け続ける。
「言い訳するつもりはないけどな! ──【共奏】!」
「む」
カナタは味方の能力を借りる【共奏】を発動。
それぞれの手に“氷”と“炎”を宿した。
「【氷炎爆撃】ぁ!」
──ボガアッ!!
カナタは相反する性質を同時に放つ。
二つは密接に絡まり合い、爆撃がゼブルに向かった。
なお、ネーミングセンスはご愛敬。
「効かぬ──【絶無の波紋】」
しかし、爆撃はゼブルの衝撃波に簡単に打ち消される。
ただしそれでも構わない。
これは単なる時間稼ぎだ。
「おらあああっ!」
「……!」
爆撃に身を隠し、カナタは剣を振るっていた。
気がつけば、四方八方に【空間断絶】の斬撃が飛び交っている。
滅茶苦茶に放っているように見えるが、【超感覚】で全ての軌道を計算済みだ。
《く、くる!》
《これはまさか!》
《マイミイ姉妹の時の!》
《きたあああああああ!》
《うおおおいけえええ!》
「くらいやがれ」
【反射領域】も組み合わせ、やがて斬撃がまとまり始める。
すると、数十もの巨大な斬撃が一斉にゼブルに向かった。
「【空間断絶・集約】」
──ドガガガガガアッ!!
斬撃の嵐がゼブルを襲う。
同時に瓦礫もまき散らされ、ゼブルの視界を遮った。
対して、ゼブルはまたも【絶無の波紋】を発動する。
「フン」
それにより、一瞬で斬撃や瓦礫が消え去った。
《これもダメなのかよ!?》
《あれ強すぎだろ!?》
《カナタ君の技が効いてない!?》
《嘘だろ……》
《フンチート技やん!》
《フンやめてね》
《フン禁止しろ!》
《こんなことなかったのに!》
しかし、ゼブルはカナタの姿を見失う。
「む」
ゼブルは気配を察知し、上に視線を移した。
そこから【重力操作】を用いたカナタが、凄まじい速さで迫ってきている。
【空間断絶・集約】すらも陽動だったわけだ。
いくつも能力を重ね合わせ、カナタはようやく間合いに入った。
「うおおおお!」
「ほう」
カナタの剣と、ゼブルの腕。
二つが交わり、ガキィンッと甲高い音が鳴り響く。
両者の力は拮抗し、辺りに激しい衝撃が走った。
二つの力がじりじりと押し合う中、カナタはニッと笑う。
「なんで【絶無の波紋】を使わなかったんだ?」
「フッ、こざかしい!」
「ぐっ!」
ゼブルの腕に押し返され、カナタは後方に着地。
ダメージは与えられなかったが、一つ情報を得ることができた。
「【絶無の波紋】のクールタイムは二秒ってところか」
「……!」
今の攻防で、ゼブルは三度目の【絶無の波紋】を発動できなかった。
カナタを視認してから使えば間に合うはずだったのにだ。
つまり、再発動には二秒かかると判明した。
どれだけ打ち消しても、カナタは一手ずつ詰めてくる。
その強さにゼブルは嗤った。
「フハハハ! さすがだな、腐っても同胞を殺っただけはある」
「そりゃどうも」
しかし、ゼブルは大して余裕を崩さない。
カナタを褒めるものの、それだけでは及ばないと理解しているのだ。
「だが、見抜いたところでどうなる。我の防御は破れぬ」
「……ムキムキすぎんだろ」
カナタは能力をいくつも使い、ようやく間合いに入り込める。
それで得られる時間がたったの二秒だ。
しかも、同じ能力の組み合わせは通用しないだろう。
加えて、そもそもゼブル自体が堅い。
接近することで、強靭な肉体の攻撃をもらうリスクまであるのだ。
(回数制限も特に無さそうだしな……)
考えれば考える程、前回勝利したカナタが化け物だ。
しかし、今は能力が足りない。
それでも策はある。
「ま、前回はそっちの魔界で戦ってやったからな。今回はうちの現代ってことで」
「何の話だ?」
「こっちには文明の利器ってのがあってね」
「む?」
カナタは浮遊カメラを指差す。
チラっと覗いたコメント欄に他地点の様子が書かれていたのだ。
《大丈夫だぞカナタ君!》
《もう少し持ち堪えろ!》
《みんなやってくるはずだ!》
《【朗報】西地点、勝ち》
《おい奴らが来るぞ!》
《大軍勢が到着する!》
「聞こえてくるだろ? もうすぐ着くはずだ」
「……!」
カナタとゼブルは耳を澄ます。
すると、聞こえてきたのだ。
上から大行進してくる音が。
ドドドド──ドガアアアアアアアッ!!
「ほらな」
「……!」
爆発のような音と共に、派手に壁がぶっ壊れる。
すると、見覚えのある者が姿を現した。
「お待たせ、カナタちゃん!」
「遅れたな!」
ミカとヴァレリアだ。
《きたあああああああ!!》
《ママー!》
《お師匠も!》
《激アツ演出ー!!》
《待ってました!》
《負けるわけねえよな!》
《ママが負けるわけないんだよなあ》
すると、カナタは安心したように左右に首を振る。
「いや、ちょうどだよ」
対して、ゼブルは目を見開いていた。
「なっ、あれは……!」
現れたのはミカとヴァレリアだけでない。
その後方に大量の魔人がいたのだ。
参謀とその仲間達である。
「「「「ママ様あーーー!」」」
ミカが“下僕”を連れて駆けつけた──。




