第50話 いざ決戦へ
「どうも皆さん、カナタです! 今緊急で配信を回しているんですけども!」
カナタは浮遊カメラを起動し、配信を開始した。
しかし、背景がすでに普通じゃない。
「いま空から降ってます!」
ここは深淵ダンジョンの上空。
カナタ達は、ぼふんぼふんと雲を突き抜けている。
今まさに【重力操作】で速度を調整しながら落下しているところだ。
《は!?》
《なんでそうなる!?》
《まじで緊急でワロタwww》
《かつてない緊急》
《え、これ今始まったよね!?》
《だから道のりを配信しろてww》
深淵ダンジョンに潜るのは、二回目。
前回は瘴気に阻まれて進めなかった。
それを装備で対策し、いよいよ本攻略というわけだ。
「ロメンさんの装備も機能していそうです!」
また、カメラは他にも複数用意している。
従魔たちがそれぞれ配信をするためだ。
「ココネちゃんねる開始しました」
「お姉さんも始めたわよ」
「わたしも開始っ!」
「ミカママのよしよしチャンネル、起動したわ~」
《一気に通知きた!》
《うわあどれを見ればいいんだ!》
《なんでそれぞれで配信?》
《別れて攻略するとなったら便利じゃん》
《ミカママいくわ》
《集まってる内はカナタ君でいいな》
それから、もう一つ。
ヴァレリアが完全体となって帰ってきた。
「待たせたな、体は戻った」
ヴァレリアはキリッと鋭い眼差しを浮かばせる。
長く伸びたサラサラの金髪は後ろで結び、再会した時のような姿だ。
ミカの成長促進によってロリを卒業し、ヴァレリアは完全復活した。
《師匠復活!!》
《強い師匠戻ってきたああ!》
《おかえりなさい》
《あの姿も良かったけど(ボソっ)》
《ロリ師匠が恋しい泣》
《本人的にはこれが一番なんだろうけど》
《ここを攻略するなら必要な戦力だよな》
これで戦力は整ったと言って良いだろう。
それぞれ準備をしながら、カナタ達は雲が浮かぶ層を抜ける。
すると、地上の異変に気づいた。
「またあんな数の魔物が!?」
前回、真っ直ぐ降りた地点の魔物は一掃したはず。
しかし、同じ場所にまたも多くの魔物が見える。
あの巨体の数々がここまで早く湧くのは、今までのダンジョンでは考えられない。
すると、地中から濁った色の波動が飛んでくる。
「「「……ッ!?」」」
全員腕でガードしたが、波動自体にダメージは無い。
しかし、体を通過する時に強い不快感を覚えた。
カナタは感じたことをそのまま口にする。
「今のは、魔王の鼓動だ」
「「「!」」」
地中にある魔王の魂が、鼓動しているのだ。
鼓動の度にダンジョン全域に波動をもたらしている。
さらに、波動は地上にも影響を与えていた。
「「「グオオオオオッ!!」」」
「「「……!」」」
波動が通り過ぎた地上から、巨大な魔物が多数発生する。
魔王の魂による波動は、負のエネルギーの塊。
カナタ達にとっては毒だが、魔物にとっては生命の源だ。
魔物が湧く速度が異常に速いのは、これが原因だろう。
この現象を前に、ココネが声を張る。
「主様、急がなければ!」
「ああ!」
前回の鼓動は、カナタしか感じ取れないほどに小さかった。
それが大きくなっているということは、復活が近い証拠だ。
カナタは【重力操作】を使い、多少無理をしてでも早く地表に向かう。
その中で、ふとルーゼリアが口を開いた。
「じゃあお姉さんは地上に残るわ」
「ちょっ、あんたこの人数を一人で止める気!?」
「ええ。どうせ誰かが残らないといけないでしょ」
「だからって……!」
それにはエルヴィが慌てて声をかける。
普段なら言わないだろうが、ここの魔物は格が違う。
どれもA級は下らず、S級もゴロゴロといる魔境なのだ。
しかし、カナタはルーゼリアに答えた。
「わかった、頼む」
「カナタ様!?」
「ルーゼリアの言う通りだ。ここで誰かが魔物を食い止めていなければ、俺たちの後を追って侵入してくる。それは避けたい」
リーダーとしての判断なのだろう。
だが、カナタは無責任なわけではない。
「それに、力を試したいんだろ? ルーゼリア」
「あら。なんのことかしら」
「ははっ、誤魔化すのもルーゼリアらしいな」
カナタは、ルーゼリアが陰で特訓を行っていたのを知っていた。
ルーゼリアはこう見えて人一倍負けず嫌いだ。
ココネが一番の潜在能力を持つことは認めても、実力では負けたくなかった。
日々こっそり出かけては、能力に磨きをかけていたのだ。
だが、カナタ達と一緒に行動する限り、その成果を発揮する場が無かった。
ルーゼリアは全力で暴れられる機会を待っていたのだ。
地上に近づいたところで、ルーゼリアは両手を広げる。
「【地獄の業火】」
「「「ギャオオッ!?」」」
その瞬間、世界が一変した。
辺りは炎に包まれ、地表からはマグマが噴き出す。
ルーゼリア自身も炎の両翼を生やし、火の化身のごとく姿に変わる。
パワーアップした本気形態だ。
《うおおおお!?》
《なんだこの火力!?》
《地獄絵図じゃねえか!》
《やばすぎんだろ……!》
《まだ力を隠してたのか!?》
《いや明らかに火力上がってるって!》
《裏で努力してたのか!》
すると、ルーゼリアは真下に炎の隙間を作る。
「カナタ君、今の内に」
「ああ──【空間断絶】!」
カナタはそこに剣を振るい、大きな穴を作り出す。
地下にダンジョンが続くことを確認して、全員で一斉に飛び込んだ。
不敵な笑みを浮かべるルーゼリアを残して。
「さあ、あとはお姉さんと遊びましょ♡」
「「「ギャオオッ!!」」」
ルーゼリアはさらに火力を上げる──。
★
「さて、どうするか」
地中に進んだカナタ達は、一度足を止める。
辺りは、一面の岩壁。
ダンジョンの壁を掘り進めたような景色で、特に初見感はない。
ただし、所々に穴が空いているようだ。
そう様子を探っている時、カナタ達は気配を察知した。
「「「──!」」」
だが、振り向いた方向はそれぞれ違う。
大きな気配は複数あったのだ。
顔を見合わせたカナタ達は、意思を合致させる。
「それぞれ別れよう。俺はこのまま下へ行く」
カナタは魔王の魂がある可能性が一番高い下へ。
「ではココネは左側へ行きます」
「わたしもそっち行こうかなあ」
ココネとエルヴィは西へ。
「じゃ、私はこっちね」
「ワタシも付いていこう」
残ったミカとヴァレリアが東へ進む。
ここからは魔族の警戒もしなければならない。
気配があった方向はどこも疎かには出来ないのだ。
さすがのチームワークで迅速に方向が決まり、カナタはうなずく。
「全員、健闘を祈る」
「「「はい!」」」
カナタ達は三方向に別れて調査を開始した。
★
「あら、懐かしい顔だわ」
ふとミカがつぶやく
壁を破壊しながら進み、大きな空間に出たところだ。
視線の先には、マントを羽織った巨体がいる。
「ぬおっ!?」
異世界魔王軍の参謀だ。
彼の背後には、邪悪な色をしたゲートも見える。
あそこから世界を渡ってきたのだろう。
すると、ヴァレリアは剣を構えながら尋ねる。
「知り合いか? ミカ」
「ええ。ちょっとね」
深淵ダンジョンを進んで少し。
早くも異世界と現代の魔王軍がぶつかろうとしていた──。




