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第4話 従魔の暴走が配信されてました

<三人称視点>


 時は少しさかのぼり。


「「「うわああああああああああ!」」」


 イレギュラー発生直後、集団が逃げてきた。

 ありえない強さのサイクロプスが出たとのこと。

 その様子に、ある青年は目を見開く。


(イレギュラーだって!?)


 青年の名はアキラ。

 ガタイは強そうではないが、彼はあるスキルを持っていた。


(僕の出番だ!)


 アキラはすーっと姿を消す。

 スキル【隠れ身】である。

 S級の探索者ですら、この状態のアキラに気づくことは難しい。


 姿を消したアキラは、カメラを使って配信を始める。

 チャンネル名は『緊急のアキラ』。

 彼は、“戦場カメラマン”のような配信スタイルをしていた。


「はい今、緊急で配信を回しているんですけども!」


《お》

《アキラが始まったか》

《緊急なら見ます》


「『青玉ダンジョン』でイレギュラーが発生したとのことです!」


《まじかよ緊急じゃん》

《速報から来ました》

《掲示板から来ました》

《緊急はアキラに限るな》


 青玉ダンジョンは、カナタ達が探索しているダンジョンだ。


 アキラは活動方針に従い、集団と逆行する。

 【隠れ身】と慣れた動きで、逃げる者を邪魔することはない。

 ただ、万人受けする配信ではないのは確かだ。


《またコ○キ配信かよ》

《野次馬でお金稼げていいね^^》

《今日もドサ周りですか》


「……」


 何十、何百と書かれたコメントだ。

 このスタイルを貫くのは、もちろん金のためでもある。

 しかし、アキラにはしっかりした想いもあった。


 数年前、彼はイレギュラーで父を失う。

 その時、対処法があれば父は助かったかもしれない。

 そんな思いから、アキラはこの活動を始めた。


 イレギュラーという誰もが逃げ出す事態で、少しでも記録を残すために。

 記録を残すことで、少しでも対処法を伝えるために。

 その強い信念を持って、アキラは戦場カメラマンをしていた。


「今回はどんな記録が──って、なんじゃこりゃああああああ!?」


 しかし、飛び込んできた光景は、その信念をいとも簡単にへし折った。


 火と氷。

 階層を二分する超常的な力。

 まるで“終末”のような光景が広がっていた。


『ココネちゃん、遠慮はいらないのよ?』

『あなたも(おとろ)えたのではないですか?』


 炎を(つかさど)朱雀(すざく)女。

 氷を操る竜少女。

 神話の魔物にも思える者同士が、激しく戦っていた。


《なんだこれ!?》

《これが今回のイレギュラーか?》

《イレギュラーにも程があるだろ!?》

《バカ、違えよ!》

《こんなの聞いた事ねえって!》

《こんな魔物が存在していいのか?》

《ありえねえだろ》

《終末じゃん……》

《S級の魔物か?》

《いや、S級で収まるか……?》


 数秒映ったのみで、コメント欄は大混乱。

 イレギュラーを見慣れているであろう彼の視聴者ですら、この反応だ。

 よっぽどの事態と言える。


 当然、アキラも腰を抜かしていた。


「な、ななな、なにごと……!?」


 来る途中、イレギュラーは異常個体のサイクロプスだと耳にしていた。

 しかし、そのサイクロプスは──


(瞬殺されてるうー!?)


 その辺で丸焦げになっていた。

 考える間でもなく、ルーゼリアと呼ばれる者に倒されたのだろう。

 

《イレギュラーって結局何だったの》

《掲示板ではサイクロプスって情報あるぞ》

《てことは、あの黒焦げが!?》

《多分そうだろ……》

《じゃあ、あの二人は……?》

《それ以上の何かってこと?》

《やばすぎだろ》

《なあアキラ、フェイク映像なんだろ?》

《偽ものだって言ってくれ》


 異常個体のサイクロプスを瞬殺した女。

 それと拮抗(きっこう)する少女。

 化け物としか表しようのない者たちが、戦いを繰り広げていた。


「こ、ここ……」


 かつて、何度もイレギュラーの現場に(おもむ)いたアキラ。

 魔物とは直接戦わなくても、記録に収めるという大仕事をしてきた。

 その意地でも動かない彼の体は──即座に動いた。 


「これは無理だあああああああ!」


 アキラは抜けた腰を必死に動かそうとする。

 その瞬間だった。

 さらなる“化け物”が現れたのは。


『二人ともやめろー!』


──ザンッ!!


「……ッ!?」


 世界を二分していた火と氷。

 それが一瞬で消滅した。

 近くにいた少年の一刀によって。


《は?》

《え!?》

《何が起こった?》

《火と氷が消えた?》

《てか空間が斬れた?》

《あの少年がやったのか……?》


 そして、今まで戦っていた二人は少年にくっつく。

 まるで少年を(あが)めるように。


『主様!』

『カナタ君!』


「あ、主様のカナタ君……?」


 アキラにはもう正常な判断能力は無い。

 彼の頭には、ただ一つの方程式が浮かんだ。

 『二人の女<カナタ』と。


 アキラは叫びながら逃げ出した。


「ま、魔王だああああ! うわあああああ!」


《あのカナタって奴が黒幕かよ!》

《あんな優しそうな顔して!?》

《人は見た目によらないって言うが……》

《二人より強いのか!?》

《あの二人を従えてんの……?》

《やばすぎるだろ》

《魔王だ》

《間違いない》

《あの二人を使って何をする気なんだ》

《そりゃ世界征服だろ》


 こんな流れはいざ知らず。

 カナタはふと後方を振り返った。


『ん? 今何かいた?』

『うふふっ。きっと気のせいよ』


 だが、ルーゼリアの視線は明らかにアキラを追っている。

 どこまで芝居だったかは、彼女のみが知る。


 こうして、戦場カメラマンのアキラによって、カナタと従魔二人の恐ろしい姿が世間に晒されてしまった。

 この映像は『切り抜き』や『掲示板』で話題となり、大きな注目を集める。

 結果、話題が話題を呼び、徐々に尾ひれがつき、カナタは噂されていく。


 災厄級の従魔を従える“魔王”であると──。

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