第26話 最も敵にしたくない相手
「主様、ココネがアタリを引いたみたいです」
ココネが視線を向けた先には──ガルドル。
異世界魔王軍の四天王の一人であり、この騒動の大将だ。
ゆっくり姿を見せたガルドルは、ココネと対峙した。
「それはこちらのセリフだが?」
「そうでございますか」
異世界四天王 VS カナタの従魔。
ここは激しい戦場になると予想された。
ならばと、ココネは近くのロメンに声をかける。
「邪魔だから消えてください」
「……!」
カナタ以外には、基本的に言葉がきついココネ。
だが、ココネを信仰するロメンは、都合よく解釈した。
これは“照れているだけ”だと。
「ココネたそ! か、感謝いたしますっ!」
「……本当に邪魔だったんですけど」
ロメンは深く頭を下げながら、戦場から遠ざかって行く。
ココネは言葉の通りだったが、まあいいかと再びガルドルに向き直った。
すると、ガルドルはフッと笑う。
「用は済んだか?」
「元から知らない人ですが」
「では──こうしてもいいんだな?」
「……!」
ガルドルは、走り去るロメンに紫のオーラを放つ。
まだ攻撃範囲内なのだろう。
ココネはとっさに間に入った。
「くっ、【氷壁】……!」
「ココネたそ……!」
「早く行って!」
「は、はい!」
ココネが攻撃を防いだことで、なんとかロメンは逃げ切った。
ガルドルは再び笑いを上げる。
「はっはっは! やはり知り合いなのではないか!」
「……本当に知りませんけど。ただ、一般人が巻き込まれたら主様が悲しむと思っただけです」
どこまでも存在を知られていないロメンであった。
また、今の攻撃でココネは確信を得る。
(やはり、主様の【共奏】を持っていましたか)
失った勇者カナタのスキル【共奏】。
能力やスキルを仲間と共有することができる。
どのレベルの能力まで共有できるかは、【共奏】の熟練度による。
今の攻撃は、とあるA級魔物の遠距離攻撃だ。
便利な場面のため、共有したのだろう。
「魔物を地上に侵攻できたのも、【共奏】の効果ですね」
「ほう、ここまでの情報だけで理解するとは」
四天王ガルドルは人型のため、地上への耐性を持っていた。
その耐性を魔物たちに共有し、地上へ侵攻させたのだ。
それほどに【共奏】は強力なスキルである。
すると、今度はガルドルの目が紫に光った。
「ならばこれはどうだ? ──【催眠眼】」
「……!」
放ったのは“催眠系スキル”だ。
目が合った者を制御することができる。
魔物から共有したのだろう。
ただし、ココネに効くはずもない。
「今さらそんなものが通じるとでも?」
「ふははは! さすがはあの勇者カナタの従魔だ」
「ココネは主様さえいれば、何もいりません」
催眠系スキルは、心の隙に付けこむものだ。
精神力が弱いと、簡単に思考を制御されてしまう。
だが、ココネは言葉通り“主様が全て”。
その想いは、催眠などはねのけた。
対して、ガルドルは“あるカード”を切る。
「じゃあ、その主様は本当にお前を好んでいるのか?」
「……あ、当たり前です!」
「ほう、大した自信だな」
古傷をえぐるというカードを。
「元奴隷のお前をか?」
「……っ!」
★
紅蓮ダンジョン、南入口付近。
「片付いたな」
「ええ、カナタちゃんっ」
カナタとミカママは、一息つく。
たった今、侵攻した魔物を全て殲滅したのだ。
あまりに速い解決に、人的被害は防がれた。
すると、東方面からも声が聞こえてくる。
「カナタくーん!」
「カナタ様ぁっ!」
「お」
合流したのは、ルーゼリアとエルヴィだ。
ルーゼリアは赤い羽根を広げ、エルヴィは魔物をスケボーにして向かってくる。
東入口付近も解決したのだろう。
続いているカナタの配信も大反響だ。
《うおおおお魔王軍最強!》
《まじで全滅させやがった》
《さすがに早すぎだろ……w》
《絶望さんは消え去った》
《お姉さん達も余裕かよ!》
《エルヴィの移動方法えぐいww》
《魔王軍本当にありがとう;;》
カナタは合流したルーゼリア達に声をかける。
「さすがだな、二人とも」
「ふふん。お姉さんだもんっ」
「……でも、いなかったんだな?」
「そうだね」
魔物が侵攻したのは、紅蓮ダンジョンの東・南・西の入口だ。
その内、四天王ガルドルはどこかにいると予想していた。
二か所は解決したため、残るは西入口付近となる。
「奴はココネの場所にいる。急ぐぞ」
「ええ!」「あは!」「そうね」
三方向に別れる直前、カナタは組分けをした。
だが、従魔四人とも「カナタと組みたい」と駄々をこねまくったため、仕方なくその場の立ち位置で決めたのだ。
これが、“最も敵にしたくない相手”を生むとは知らず──。
「見えたぞ!」
少し進んだ先に、紅蓮ダンジョンの東入口が見える。
だが、魔物の侵攻は止まっていた。
魔物の軍勢が凍り付いていたのだ。
そんな芸当ができる者は、一人しかいない。
「さすがだな、ココネ!」
ココネが勝ったのだと、カナタは思った。
だが、その瞬間──カナタの【超感覚】が何かを察知する。
「……! 全員防御!」
「「「……ッ!?」」」
東入口方面から、とてつもない攻撃を感知。
カナタと共に、従魔三人も防御壁を展開した。
しかし、カナタ達は衝撃を吸収し切れない。
「ぐうっ……!?」
「きゃあっ!」
ルーゼリアの炎、エルヴィの血の結界、ミカママの波動。
三つが重なった結界が、押し負ける勢いだ。
ふぶいてきたのは、氷。
(こ、この技……!)
まさかと思ったカナタは、攻撃が止むとゆっくり顔を上げる。
「コ、ココネ……?」
「……」
宙から姿を現したのは、ココネ。
彼女が刃を向けてきたのだった。
《ココネちゃん!?》
《今のはココネたんがやったのか!?》
《なんでだよ!》
《どうしちまったんだ!》
《そこにいるのは主様だぞ!?》
コメント欄はもちろん、カナタも動揺していた。
「何してるんだ、ココネ!」
「……」
「──!」
しかし、ココネの瞳を見て気づく。
今のココネに心はない。
すると、ココネの後方からもう一人が姿を現した。
「ごきげんよう」
「お前は……!」
浮いた椅子に乗ったまま登場したのは、四天王ガルドルだ。
一度殺した相手のため、存在は半信半疑だった。
だが、実際に目にしてカナタは確信に至る。
(間違いない。あのガルドルだ……)
カナタの歯を食いしばった表情に、ガルドルは口角を上げた。
「ふははは! まさか貴様にそんな顔をさせられるとはなあ!」
「……っ」
「よっぽどこの従魔がお気に入りらしいな」
「おい!」
ガルドルはココネのあごをそっと撫でる。
だが、ココネはぴくりとも動かない。
ほぼ反射的にカナタは声を荒げた。
「それ以上、ココネに触れるな……!」
その怒りのままに【空間断絶】を放つ。
しかし、ガルドルはパチンと指を鳴らした。
「おっと。ココネ」
「はい」
「……!?」
すると、ココネが間に入った。
カナタの攻撃から、身を挺してガルドルを守ったのだ。
《ココネちゃん!!》
《嘘だ、嘘だと言ってくれ……》
《悪夢じゃねえか》
《うわああああああ!!》
《俺たちのココネたんが……》
《お願いだからドッキリだと言ってくれえ!》
だが、それには周りも黙っていない。
「あらココネ。お姉さんガッカリよ」
「……」
「多少はあなたのこと、認めてたのにね!」
ルーゼリアが炎を放つ。
エルヴィとミカママも続いた。
「カナタ様に手を出すなら、わたしが黙ってないからぁ!」
「ココちゃん、おイタが過ぎるわよ」
従魔三人が容赦のない一斉攻撃を放った。
そこらの軍勢など吹き飛ぶレベルである。
しかし、ココネには届かない。
「【永久凍土】」
「「「……!」」」
ココネは氷の分厚い壁を張り、一斉攻撃を防いだ。
三人を合わせた火力に引けを取らない、圧倒的な力だ。
この光景に、カナタは下唇を噛む。
(ココネ……っ)
普段はあまり感情を見せず、おとなしめのココネ。
だが、カナタは分かっていた。
潜在能力は従魔で最も高いと。
性格ゆえに、常に100%を出せるわけじゃない。
しかし、全力を解放できた暁には、従魔では一番強いだろう。
もしかしたら、勇者時代のカナタを唯一倒せる可能性を持つほど、高いポテンシャルを秘めている。
ココネは“最も敵にしたくない相手”だ。
《ココネちゃん、強すぎないか……?》
《これが本当の実力なのか……》
《なあ嘘だろ……》
《魔物侵攻が止まったと思ったのに……》
《こんなのってねえよ!》
《魔王様も本気で斬れねえよ……!》
今まで散々、地獄絵図を見せてきたココネ。
カナタの下についていたから冗談で済んだものの、こうなれば話が違う。
敵に回った時の恐ろしさは、計り知れない。
その上、ガルドル自身もいる。
「ふははは! ぼーっとしてていいのか!」
ガルドルはコオオオと力を溜めた。
手を向ける方向は、ダンジョン街だ。
「このまま絶望を味わえ──」
「断絶」
「……!」
しかし、その攻撃は真っ二つに斬られた。
防いだのはカナタだ。
カナタはそのまま静かに周りへ告げる。
「ルーゼリア、エルヴィ、ミカ。ガルドルを頼めるか」
「「「……!」」」
それには従魔三人も素直にうなずいた。
というより、従魔たちも理解したのだ。
今のカナタは何を言っても止まらないと。
それほどに、カナタは怒りに満ちていた。
「ココネは俺が止める」
そうして、カナタはココネに向き直る。
「クオンカナタ、排除します」
「……そうか。不安を突かれたんだな」
しかし、怒りはあくまでガルドルへ向けてのみ。
氷の槍を向けてくるココネには、ただ真剣に向き合った。
「ごめん、俺が悪かった」
かつての約束を胸に。
「もう二度と君を一人にはしない」




