第22話 新事務所設立!
<カナタ視点>
「この度、私魔王は──新しい事務所を作りました!」
俺が両手を広げると、カメラが引きで捉えてくれる。
配信画面には、事務所全体が映し出されているだろう。
「こちらが事務所になります!」
黒と赤を基調にした、小洒落た三階建てテナントビル。
入口はダンジョン産素材の鉄格子だ。
横側には謎の紋章風デザイン、上部は尖塔になっていた。
ここは、ある人の所有施設を改造させてもらったんだ。
イメージは魔王城。(怒られない程度に)
そして──。
「事務所名は『魔王軍』です!」
《新事務所きたあああ!!》
《うおおおおおおお!!》
《おめでとうございます!!》
《忙しそうにしてると思ったら!》
《やっぱどっかに収まる器じゃないよな》
《噂にはなってたけど!》
《見た目が魔王城じゃねえかwww》
《ガチで魔王の覇道歩んでる》
《魔王軍バンザーイ!》
《建物も事務所名も物騒すぎて草》
「名前が物騒なのはそうですね。俺も色々考えたんですけど……」
新しく事務所を作るんだ、俺も張り切って提案していた。
『ニュー時代』とか『黒炎焦ラグナロク』とか。
でも却下された。
普段は全肯定してくれる従魔たちでさえ。
まあ、それほど“魔王”を気に入ってくれているのかな。
俺のネーミングセンスがダサいってことはないだろ。
なんて思いつつ、説明をしながら事務所内へ入っていく。
「今時の事務所なので、探索ギルドも兼ねています。協会から恩恵も受けられますね」
これは事務所設立の申請をする際、協会の人から懇願されたんだ。
『お願いだからギルドも兼ねてください。どうか手をお貸しください』って。
始めからそのつもりだったけど、土下座までされてちょっと大げさだったな。
ついでに、ようやく狭い家ともおさらばできた。
すごくお世話になったけどね。
ありがとう大家さん。
そうして、事務所内への扉を開ける。
「中もすごく綺麗になってて──は!?」
だが、俺は思わず声を上げてしまう。
入ってすぐの壁が、とんでもないことになっていたんだ。
『主様ラブ』や『喧嘩募集』などの装飾。
あとは、特に上手くもない俺の似顔絵(?)がクレヨンで書かれていた。
俺は近くの従魔三人に目を移す。
「誰だよ、これやったの」
「「「しーん……」」」
「しらばっくれてる!? 言っとくけどバレバレたからな!?」
犯人は100%こいつらだ。
《早速荒らされてるじゃんwww》
《お誕生日会の装飾みたい笑》
《保育園児の落書きで草》
《従魔さんさあ……w》
《自分たちの事務所だからってww》
《新事務所でテンション上がっちゃった?》
《いきなりやってくれるわww》
《ここ聖地化しそう》
でも、今は配信中だ。
俺は気を取り直して、もう少し進んだ。
「コホン。続いてオフィスです。奥まではちょっと見せられませんが、こんな感じ。……よかった、ここは荒らされてない」
《ほっとしてんじゃねえかw》
《よかったで草》
《従魔のお目付け役いるだろこれ》
《そんなの誰がなりたがるんだよ》
《それ一番のブラック役職だろw》
「とにかく、今日からこの『魔王軍』で活動していきます。皆さん応援よろしくお願いします!」
《応援してるぞー!!》
《¥5000 設立記念です!》
《¥1000 魔王様おめでとう》
《¥3000 これからの活躍も期待!》
《¥4000 グッズ展開希望です!!》
《¥50000 ココネちゃんの絵買い取るお^^》
「皆さんこんなに! ありがとうございます……!」
俺はスパチャに感謝しながら、『配信ルーム』へ場所を移す。
ここは自由に配信ができる部屋。
ダンジョン産素材で完全防音となっていて、スペースも広い。
これからの雑談などは、この配信ルームで行うつもりだ。
「では、質問などはありますか?」
《現状の配信者はカナタ君だけですか?》
「……! フッ、聞かれると思ってました」
ドンピシャな質問に、思わずかっこつけた口調になってしまう。
俺はそのまま部屋の隅に視線を移した。
配信の画角に入っていない場所だ。
「実は、もう何人かメンバーがいます」
《えええ!?》
《まじかよ!?》
《あれ、あの噂本当なんじゃ……》
俺は手招きをすると、考えてきた演出をした。
「では登場してもらいましょう。どうぞ!」
「配下の皆さん、こんにちは! 音羽リラです!」
《うわあリラちゃん!?》
《本物じゃねえか!!》
《リラちゃんきたあああ!!》
《先日退所してたから!》
《ありえねえって言われてたのに!》
《まじかよ本当に実現すんのかよ!》
一人目のメンバーはリラさん。
リラさんはニコっと笑うと、簡潔に言葉を添えた。
「前事務所とは色々ありましたが、心機一転、こちらでも頑張ります!」
《うおおおまじか!》
《応援してるぞ!》
《リラ速報からきました》
《SNSから来たけどまじでいる!?》
《従魔がいるのにようやるw》
《新事務所発表でコラボ叶うの嬉しい!》
リラさんの笑顔を見て、プロだなあと思う。
というのも、前事務所『メルティーン』では社長と揉めたそうだ。
俺がリラさんを助けてから、社長がしつこく企画を持ってきたらしい。
内容は、“従魔と手合わせしてみた”とか、“従魔をおちょくってみた”とか。
とにかくバズり目的のみで、リラさんを蔑ろにした企画ばかり。
社長からは、マネージャーの締霧さんが守っていたそうだ。
そして、我慢の限界がきて退所したと。
それから、締霧さんはどこからか『魔王軍』の噂を聞きつけ、俺に話をしにきた。
今ではリラさんは配信部門、締霧さんは事務所の中枢として動いてもらっている。
リラさんはもちろん、締霧さんもすごい人だ。
おかげで、設立の話はずっと早く進んだ。
……だから、従魔たちは怖い目を向けるのやめてね。
それから、俺はもう一人に視線を移した。
「まだ続きます。どうぞ」
「わしじゃよ」
二人目は、黄昏のジジヤさんだ。
「孫がどうしてもと言うんでな。これを機に、ダンジョン配信とやらも始めていこうかの」
《黄昏のジジヤ!?》
《ええええガチで!?》
《絶対どこにも付かないと思ってた!!》
《日本トップクラスの探索者だぞ》
《ここにきて配信者デビューかよ!》
《相変わらず孫に弱いwww》
《孫想いで優しい》
《ジジヤが配信なんて考えられないな》
《これも魔王の器か》
特級探索者のジジヤさん。
上級試験で対峙した人だ。
一度断られたけど、「孫に殴られた」とか言って加入した。
また、施設を頂いたある人とは、ジジヤさんのことだ。
ジジヤさんの倉庫を改造して、この事務所が出来上がった。
ちなみに無償で。
さすがにローンで買い取ろうとしたけど、ジジヤさんは「孫のため」と譲らず。
ジジヤさんがいなければ事務所は作れていないので、本当に感謝しかない。
そして、最後にもう一人。
長身金髪のイケメンが現れた。
「クリエイター部門に所属しました、ロメンと言います。普段はココネたんの推し活の傍ら、たまに装備を作っています」
装備職人のロメンさん。
俺の装備“ロメンシリーズ”を手掛けてくれている人だ。
《え、あのロメン!?》
《メディアに出るの激レアじゃね!?》
《推し活が本業で草》
《ココネオタクなのにこんな爽やかなのかよ》
《前も大金スパチャしてたなwww》
《従魔の装備、大変役立たせていただいてます》
《↑ナニに役立てるんでしょうねえ……》
《クリエイター部門って普通は配信者じゃないのか》
《一番クリエイターではあるけどw》
「専属ではありませんが、魔王様をはじめ、魔王軍の方々の装備を積極的に作っていきたいですね。あとココネたんと同じ空気を吸いたかった。すーはー」
《ロメンってこういう感じなんだw》
《キモくて草》
《これイメージダウンだろww》
《イケメンだから余計オモロイ》
《¥50000 ロメン神よ、どうかこれでココネちゃんの新装備を》
《↑早速献上してて草》
これが現在のメンバーだ。
ロメンさん以外は、全員“配信部門”になる。
「以上になります。では──」
「「「そして最後に」」」
「は?」
そんな時、従魔三人がずいっと前に出た。
「主様の傍付に就任しました。ココネです」
「正式にカナタ君の姉になりました。ルーゼリアですっ」
「カナタ様の吸血係になりました。どうもエルヴィです」
「はい全員嘘です。ただの従魔でーす」
《嘘かよwww》
《まあおかしいわな笑》
《急に前出てきて草》
《こいつら変わらねえなww》
《魔王に軽くあしらわれてら》
他のメンバーに倣って、とにかく何かに就任したかったらしい。
まったくかわいい奴らだ。
三人を一度退かせて、俺は改めてカメラに向かう。
「事務所のコンセプトは“自由に楽しく”です」
わざわざ自分で事務所を作ったのは、何かに縛られたくないから。
なので、同じ所属になった配信者とも積極的にコラボする気はない。
あくまで今まで通りに出来ればと思う。
まあ、設立の一番大きな理由は──。
「ココネの目標は世界征服です」
「国民全員をカナタ君の配下にします」
「殺し合いの相手を募集中です」
「そこまで自由とは言ってないが?」
従魔を収めておくためだ。
恐ろしくてとても他所には入れられない。
もはや使命感みたいなものだった。
何はともあれ、設立まではできた。
俺は今後への言葉を加えて、配信を締めることにする。
「これからは新事務所で頑張っていきますので、改めて『魔王軍』の応援をよろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いしまーす!」」」
《うおおお応援してるぞー!!》
《改めて見たらとんでもねえメンツwww》
《こんなメンバー今まであったか!?》
《各界隈のトップが勢揃いじゃねえか!》
《ガチでオールスター》
《これマジで天下狙えるぞ!?》
《もう新事務所は無理とか言われたのに!》
《真の王には人が集まるんだよなあ》
こうして、新事務所『魔王軍』のお披露目配信は大成功となった──。
★
その日の夜。
「はあ~食った食った」
『魔王軍』メンバーで夕食を食べ、事務所に帰ってくる。
ここの三階が今日から俺たちの家だ。
そうして、階段を昇っている時、電話がかかってきた。
相手はチーフの締霧さん。
「もしもし、どうされたんです──」
『家に着いたかしら!? 映像を送るからすぐに見てちょうだい!』
「え、はい」
締霧さんにしては珍しく動揺した声だ。
俺はすぐさま、送られてきた配信の切り抜きを確認する。
『た、助けてくれ! パーティーが全員おかしくなっちまった!』
ダンジョン内で、男が声を上げている。
胸のバッジから上級探索者のパーティーだ。
だが、彼の仲間に異変が起きていた。
なんと──
「「「……ばぶぅ」」」
全員、幼児化している。
姿形はそのままのはずが、横に寝そべり、催眠にかかったような状態になっていた。
そして、最後は残った彼も。
『あの波動に呑まれたら俺もおしまいだ! うわああああああああああ……ママぁ』
パーティーは全滅した。
その後、彼の配信の終わり際に声が聞こえてきた。
『カナタちゃ~ん。どこに行っちゃったの~』
「……」
切り抜きを見終えて真顔になっていると、再び締霧さんの声が聞こえる。
『久遠くん、これは──』
「……わかりました。こちらで解決します」
俺は上を向きながら、決意を固めた。
「世界が“バブみ”に染まってしまう前に」




