第16話 魔王の覇道
「その疑問には、ここを乗り越えたら最後にお答えしましょう」
「「「ギャオオオオッ!!」」」
魔人が両手を広げると、周囲から魔物が溢れ出す。
彼は奥で待つつもりのようだ。
だが、カナタはそれを許さなかった。
「最後に答えるだと?」
「……!?」
カナタは【空間断絶】で壁を破壊。
逃げ道を塞ぎ、魔人へ刃を向ける。
「最初の間違いだろ」
「……っ!」
カナタは珍しく真面目な顔付きだ。
魔人が異世界で行った、数々の非道な事を知っているからだろう。
対して、魔人は少し気圧されながらも、手を前に伸ばす。
「い、いけお前ら!」
「「「グオオオオオオッ!」」」
魔物たちは一斉に動き出した。
やはり魔人が操っているようだ。
すると、素早いウルフの一匹がカナタに迫る。
「ギャオッ!」
「──燃えなさい」
「ギャイ~ンッ!」
しかし、ウルフはカナタの目前で燃え尽きた。
信頼していたのか、カナタは一歩も動いていない。
「カナタ君を怒らせるなんて、ほーんと悪い奴ね」
すっとカナタに並んだのは、ルーゼリア。
すでに炎を纏い、戦闘態勢だ。
「お姉さんがお仕置きしてあげるっ」
それには他二人の従魔も続く。
「主様。周りはココネ達が」
「どれだけ血が流れるのかしら」
「ああ、任せた」
氷で身を包むココネ。
赤い棘を浮かばせるエルヴィ。
大量の魔物たちは、従魔三人が相手をするようだ。
《うおおおおおお!》
《本気の従魔大集合!!》
《盛り上がってきたあ!》
《なんか分からんけどやったれ!》
《魔王の幹部(従魔)たち!》
《配下として応援します!》
《こう見ると鮮やかだなあ》
《画面映えエグい!!》
《みんな色違って綺麗~!》
敵の軍勢は、C級下層の凶悪な魔物たちで構成される。
数からしても、ほとんどイレギュラーと言っていい。
しかし──従魔たちには関係なかった。
「【静止世界】」
「「「……ッ!」」」
「この世界にはココネと主様だけで十分です」
ココネは、一帯を“凍てついた世界”へと変えた。
白銀に包まれたこの空間内では、魔物は動くことさえ許されない。
魔物自身すら気づかぬ間に、勝負は決したのだ。
また、逆サイドでは──。
「【朱雀炎舞】」
「「「ギャアアアアアアアッ!」」」
「うふふふっ。お姉さんの舞、美しいでしょう?」
ルーゼリアは、赤い羽根を広げて“炎の海”を創り出した。
その中央上空で舞う姿は、誰よりも美しい。
強く派手に、業火の炎で魔物を焼き尽くす。
さらに、その奥では──。
「【血染めの夜】」
「「「グアアアアアアアアッ!」」」
「あはははっ。血がた~くさんっ!」
エルヴィは、魔物を切り刻み“血の雨”を降らした。
血から生成した棘は、血が出る度に鋭さを増す。
余裕で残虐認定された映像は、高性能カメラですでにモヤをかけられている。
どの区画も、もはや戦いになっていない。
蹂躙、あるいは殲滅だ。
《こいつらつえええええ!!》
《まじでお話にならなくて草》
《蹂躙の再来きたあ!》
《ここってC級の下層だよな……?》
《どこまで強いんだwww》
《従魔の本気見れて嬉しいぜ!》
これには一部の熱狂的ファンも大興奮。
《ココネちゃん!ココネちゃん!》
《お姉さんお美しい~!!》
《エルヴィちゃんえっぐ……!》
《ココーネに告白しようと思ってる》
《ユニバーサル大回転お姉さんの舞》
《体温冷めちゃった》
従魔たちの方は全く問題なさそうだ。
ならば、次に視線が集まるのはカナタ。
「お前は逃がさない!」
「くっ……!」
カナタの剣と、魔人の手刀が重なり合う。
スキルなのか、魔人は腕を装甲で固めているようだ。
攻防からも、A級以上には匹敵するだろう。
何度か対等に打ち合うと、魔人はニヤリとした。
「どうした、お前ほどの者が。衰えたんじゃないか?」
「……」
魔人は“勇者カナタ”の姿を知っているのだろう。
対して、カナタはそれに答えず、攻防を続ける。
だが、やがて魔人の腕を弾いた。
「ぐっ!」
「弱くなったって、そりゃそうだろ」
すると、カナタは真顔で言い放つ。
「この剣、レンタル品なんだもん」
「……は?」
先程、下層に移動する際、カナタの愛剣は折れている。
魔物の貴重素材でできた中々の品だった。
しかし、それがなくなった今、レンタルの粗悪品しか残っていない。
勇者時代と力量差があるのも当然だろう。
「あとさ」
ついでに、カナタはずっと言いたいことがあった。
「お前、誰?」
「なっ……!」
カナタはうーんと目を細める。
見た目から魔人とは判断できるが、本人を知っているわけではなかった。
対して、魔人はギリっと歯を食いしばる。
(剣を交えたというのに、覚えていないだと……!)
かつて魔人は、異世界でカナタに敗れている。
だが、カナタにとっては有象無象の一人に過ぎなかった。
何百何千と魔人を倒した末、魔王を討伐したのだから。
すると、魔人は悔しさを爆発させてカナタに迫る。
「ふざけやがってええええ!」
「──丸見えだよ」
「……っ!」
だが、冷静さを欠いた単調な攻撃だ。
【超感覚】で五感が研ぎ澄まされたカナタに、並の攻撃は当たらない。
カナタは回避と同時に、魔人の懐に潜り込む。
「お前には断絶も必要ない」
「がはぁっ……!」
そのままカナタは、剣の持ち手でぶん殴った。
【超感覚】で弱点を見抜いており、クリーンヒットだ。
魔人は耐えられず、ぶっ飛んだ先で起き上がれない。
「さあ観念するか?」
「だ、誰が!」
「えー、周りも終わったのに?」
「……!?」
カナタの視線を追うよう、魔人も改めて周りを見渡す。
そこには、平らげられた地。
立っているのは三人のみだ。
「主様、ココネが一番活躍しました!」
「さすがにお姉さんが一番倒したでしょ?」
「んもぅ、みんな芸術性が無いなぁ」
ココネ、ルーゼリア、エルヴィ。
三人は競うように魔物を倒していた。
結果、ほんの数分にして全滅。
「……っ!!」
残ったのは、地獄絵図のみだった。
《恒例の地獄絵図きたあwww》
《倒した数で競ってんじゃねえよww》
《もう相手として見てなくて草》
《負ける気がしない……笑》
《これでこそ魔王の従魔だな!》
《こいつらに日々付け回されるの怖すぎだろ》
《カナタ君はようやっとる》
《最恐のストーカー達》
《これも愛の重さゆえってか?》
その上で、カナタは再度魔人に目を向ける。
「じゃ、洗いざらい吐いてもらおうか」
「……ぐっ」
そんな時、従魔たちが隣に並んだ。
主のカナタを巻き込んだからか、目には光が灯ってない。
「主様、甘いですよ」
「カナタ君は優しいんだからっ」
「ここはわたしに任せてねぇ」
「え、あの、君たち……?」
カナタが困惑する中、従魔たちはせっせと準備をする。
すぐさま出来たのは、拷問の場だった。
「氷で吊るしましたよー」
「お姉さんは炙るわね」
「わたしは少しずつ剥いじゃおっ」
「た、助けてええええ!」
魔人は、氷で上から吊るされ、下からは火炙り。
身動きが取れない中、エルヴィに体をいじられる。
三つの拷問を同時に受けていた。
《だからこええよwww》
《やりすぎやりすぎ笑》
《まあ主様に攻撃したもんなあ》
《重い愛が攻撃に転じるとこうなる……》
《ヤンデレを敵に回した末路》
《恐ろしすぎて草》
これには耐えられなかったのか、魔人はすぐ声を上げた。
「そ、そのゴウマとやらは私が力を与えました! でも、他の魔人は知りましぇん!!」
「「「本当?」」」
「ほ、ほほ、ほんとですぅぅぅ!」
ジロリと睨む従魔三人だが、カナタが止めた。
「本当みたいだ。嘘はついていない」
【超感覚】の恩恵で分かったのだろう。
これ以上聞くことはないと、カナタは魔人の拘束を解いてあげる。
すると、ちらりと目を合わせて一言。
「あとは分かるな?」
「はい……」
魔人は前に倒れると、サラサラとダンジョンに取り込まれていった。
「あ、あざっしたぁ……」
「それでいい」
《最後は自分でやらせるw》
《結局は魔物みたいだからな》
《カナタ君もこええよww》
《魔人くん諦めちゃった》
《やっぱこいつ魔王だろww》
《魔王の所業》
そうして、魔人の終わりを見届けたカナタ。
(魔人までこっちの世界に来たか……)
考えるべきことはある。
だが今は、一旦忘れて倒された魔物の方へと向かった。
「さーて、素材回収回収っと」
《しっかりしてるなあw》
《抜かりない魔王》
《小遣い稼ぎ魔王》
《バイト魔王》
《言うて高校生ぐらいだもんなw》
《俺からも貢げたらなあ……》
《¥240 あれ送れるぞ?》
「え、あれ!」
そんな時、“スーパーチャット”と呼ばれるコメントが流れる。
視聴者がお金を払い、配信者へ収益が届けられるシステムだ。
カナタは配信設定を確認すると、少し前に通知が届いていた。
『あなたのチャンネルは収益化されました』
とにかく配信者の入口を広げるべく、国も収益化を迅速に行っているようだ。
「なんか、収益化が通ったみたいです!」
《まじか!》
《うおおおきたあ!》
《そんなに早いのか!!》
《収益化条件は余裕でクリアしてるもんな!》
《ついに魔王様が!》
《おめでとおおお!!》
収益化が通れば、配信で収入が得られる。
スーパーチャット(スパチャ)や、広告収入が得られるようになるのだ。
結果、配下がスパチャを投げまくる。
《¥5000 魔王様おめでとうございます!》
《¥1000 現金な魔王様へ》
《¥10000 収益化記念でございます!》
《¥780 やっと投げれるぞおおおお!》
《¥8500 この時を待ってたぜ!》
《¥50000 ココネちゃんLOVE^^》
「ぎょ、ぎょえええええ! そんな、皆さんに申し訳ないですよ!」
いきなりの大金が流れ込み、カナタは慌てふためく。
稼ぎたいとは思っていたが、ここまではさすがに申し訳なくなる。
そんな中で、従魔たちはボソッと口にした。
「ココネは良いお肉食べたいです」
「お姉さんも毎日コンビニは飽きちゃった」
「あ、君たちそれを言っちゃ……!」
《¥25000 そいつはいけねえ!》
《¥3000 早く言ってくださいよ!》
《¥15000 これで良いもの食べて!》
《¥24000 お姉さんに捧げます》
《¥30000 エルヴィちゃん合流記念》
《¥50000 実質ココネちゃんへの奢りだね^^》
「やっぱり……」
送られ続けるスパチャに、カナタはさーっと冷や汗を流す。
そんな中、あるコメントに反応した。
《でも嬉しいんでしょ?》
「そ、それはまあ……へへっ」
《かわいいじゃねえか》
《¥500 魔王かわいい》
《¥1000 ったく、あざといぜ》
《¥5500 面白い配信のお礼だよ!》
《¥6000 おねだりが上手だなあ》
《¥50000 ココネちゃんはおじさんが支えてあげるよ~^^》
「うわわっ、そんなつもりじゃなかったのに!」
だが、嬉しいのは本心だ。
ここまでくれば、カナタは素直に感謝することにした。
「あ、ありがとうございますぅぅっ!! 本当にぃぃ!」
《魔王泣いちゃった》
《配下として一生ついていきます!》
《やっぱり子どもでかわいいw》
《情に弱い魔王》
《金に弱い魔王だろw》
《素直でよろしい》
こうして、カナタ達は三人目の従魔エルヴィと合流。
魔人など、いくつか疑問は浮かぶも、最後は彼ららしい締め方となる。
ちなみに、配信終盤にもかかわらず、この日のスパチャ額は100万円を突破。
また新たな伝説を作ることとなったのであった。
現代魔王カナタ。
彼の覇道は続く──。




