第六幕: ふらつく蜘蛛の罠
やあ、君。
第五幕の完璧犯罪が、ワトソンの魂を袋小路に追いつめた。
221Bで、ホームズがエサを撒き、モリアーティが神のごとく降臨。
ファウストの幻視が、殺害指南書を巡る罠を張る。蜘蛛の糸がふらつく夜を、君と共に覗こう。
やあ、君。ボクらはとんでもない事件に巻き込まれたわけだ。
これが世間にでたら、誰もが、そうーーどんな犯罪者でも、事件を判定する目を騙す事に力を入れる。
まさに、殺害指南書の誕生だ。とてもシンプルな事だけど。
第五幕では、名探偵と作家が協力して本を取り戻すことが宣言された。
本を『バカの代名詞』から取り返さなければ、探偵は廃業。作家は罪の意識に押し潰されるだけだ。
次の殺人方法。ワトソンはタイプライターの前で、過去に書いたものを再び手繰り寄せなきゃならなかった。
「ワトソン。僕の希望的観測では、君の冒涜の本はまだ、公衆には共有されてはいない。
そして、殺害指南書の知識は、一部は他者に渡されているが、
まとまって渡されてはいない。わかるかい?」とホームズの声は優しくワトソンに響く。
彼はタイプライターに打ち込んでいた。次の殺人方法だ。
「もし、ボクらが本を取り戻さなきゃ?」とワトソンは問いを投げた。
「いい質問だ。さっきもいったが、探偵業は畳まなきゃいけない。
君は罪悪感で最悪な結末を迎える。
警察は飾りとなり、殺人鬼たちは大手を振って歩く」ホームズは、まるで歌うようだ。
「君の作品の緋色の研究で、僕が見つけた犯罪者発見の逆をやった。ワトソン犯罪者隠蔽法だ。よせ、僕を睨むなよ」
ホームズは、グレグソンから渡された書類に目を通す。
彼の目は最新の事件、いや、怪しい件に視線を止めた。そこには、事件の重要な疑わしき人物の名が並んでる。
ワトソンは、ふと、ホームズの横顔を見た。
「ホームズ。君は何をしようとしてるんだい?ボクに次の方法を求めるなんて--正直、もうこんなの書きたくない。」
ワトソンは、この数日で非常にやつれていた。彼はホームズの殺害指南書を再び執筆していた。
「ふふふ、これはエサだよ。僕はこれを新聞に載せる。彼は必ず来る。なぜかって?彼は『バカの代名詞』だからだ。より、完璧な本に差し替えを求めるのさ」
ホームズは不敵に笑う。
それは、ファウストの笑いそのものだ。ーー悪魔は魂を奪うのを忘れてた。
物語を進めよう。
『バカの代名詞』はやってきた。
まるで、地上に降りた神の如く。
20世紀前半のロンドン。ベーカー街の下宿の一つ、221Bの部屋に現れた。
彼の描写は省略する。
物語には影響がないからだ。
「ご招待いただきありがとう。シャーロック・ホームズ。そして、我が生涯のパートナーのジョン・F・ワトソン。」と彼は丁寧に挨拶をした。
「で、例の本は?」と彼は話を切り出す。
「僕の頭の中だ。」とホームズが答えた。
「今や、これは僕のツールだ。」とね。
『バカの代名詞』は、眉をしかめる。
「名探偵の頭の中かね。それは美しくない方法で取り出さねばならない。
非常に不愉快な方法だがね、ふふふ」
彼は爬虫類のように笑う。
「--できれば、そんな方法は使わせないでほしいのだがね」
だが、ホームズは笑って流す。
「そんな方法をすれば、困るのは君だけだ。僕はそいつに話をするさ。秘密をね。君の独占権はなくなる」
『バカ』は頬をひくつかせる。
「ははは。たしかに。そんな方法はしないよ。名探偵。で、そんなツールが君の何の役にたつ?私だからこそ、役に立つ代物だ。名探偵には不要だ」
バカは勝ち誇ったように言う。
「探偵には不要だ。その通りだよ。でも、その時は僕は探偵じゃない。ツールは役に立つ。」と名探偵は微笑む。
「役立つ?この恥知らずの本で?」とバカはせせら笑う。
「恥知らずーーたしかに冒涜ものだね。神を無視してる。」
二人には通じ合うものがあり、ワトソンは今すぐ窓ガラスを割って外に出たかった。
馬車に轢かれたかったんだ。
「このツールを役立てるには、君のような犯罪の芸術家にならなきゃいけない」と名探偵は続けた。
「もちろんだとも、名探偵。誰を芸術にする?」とバカは勝ち誇った。
しばらくの沈黙。
名探偵が口を開く。
「君の依頼者を芸術的に処理する」
この一撃が、バカを終わらせた。
彼はしばらく沈黙した。
手の指をわちゃわちゃと動かして、
動かなくなる。
ーー突然立ち上がると、大股で歩き出したさ。
まるで蜘蛛が人間のふりをしようとして、立ち上がってみたものの、細い足では頼りないからふらつく感じだ。
彼らは通じ合う。
そうしてホームズは、この件に関して黙っていた。
ワトソンは、また推理をしなきゃいけない。そして、ボクらもだ。
(こうして、物語はふらつく蜘蛛により幕を閉じる)
第六幕、ホームズの「芸術的処理」一撃でモリアーティがふらつく!
ワトソンの絶望と指南書のエサが、ホラーから本格ミステリへ大転換。