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第四幕:順番通りの死

やあ、君。

20世紀前半のベーカー街、221B。パルプを脱し、「緋色の研究」を世に送り出したワトソンの机へ。

ホームズの嘲笑が魂を傷つけた後、新たな物語が始まる――だが、霧のロンドンに不審な死の影が。

ファウストの幻視が、現実を血で染める。事件の幕開けを、君と共に覗こう。

やあ、君。事件だ。準備はできたかい?今から、ボクらが行くのは20世紀前半のロンドン。ベーカー街の下宿の一つ、221B。

探偵作家として少しずつ売れてきたワトソン博士のところにいく。


なぜかって?

そこに事件があるからだよ。


ボクらが221Bの部屋に入ると、ワトソンは机に向かっていた。タイプライターに、ホームズとの事件を打ち込んでいるんだ。

ホームズといえば、安楽椅子に沈み込み、ヴァイオリンを抱きしめている。


第三幕では、シャーロック・ホームズに彼が書き込んだホームズ殺害小説を読み上げられ、心が壊れかけたワトソンをみた。

その小説をホームズ自身に、散々こき下ろされた。

この出来事のおかげで彼は、後に名作と言われる『緋色の研究』を書き上げた。


今までのパルプフィクションの出版社と縁を切ったワトソンは、マシなところでホームズの本を出す事にした。

これで、出版社からタダ同然に物語を買い叩かれることはなくなった。


お金持ちとは言えないが、それなりの貯金もできているようだ。

前よりも、少し太っていた。

きっと、ハチミツたっぷりのトーストを食べたに違いないぞ。


集中しているワトソンを、少しだけ気にするようにホームズが話しかけた。

「ワトソン。最近の君の本を読んだよ。僕を『だらしない』と書いたようだね。だけど、かつて僕は『規則正しく』生活をしてた。なのに、いつの間にかそんな扱いとはひどいじゃないか。読者が去るぜ」とホームズは軽口を叩く。ワトソンはタイピングの軽快な音をとめない。

「--君は猫を被ってただけだ。ボクは、なるべく真実を書くつもりだよ」とワトソン。彼は誤字脱字に気をつけていた。

「真実ね。--推理も間違えてたよ」とホームズはせせら笑う。「結果は同じだ。だけど、あれはポーの探偵が思いつきそうなもんだ」と他の探偵をバカにする。

すると、ワトソンの様子は変化した。

顔は苦痛に歪む。

「君が、教えて、くれないから、だ!」

絞り出すように、声を出す。

ホームズの方は見ない。

「もっと力を抜いておけよ。僕のヴァイオリンの曲でも聴きながらさ」とヴァイオリンを少し持ち上げて見せた。


ホームズとワトソンの関係は微妙に拗れていた。普段は普通だが、こうやってワトソンが創作に没頭すると、ホームズはーーやけに優しくワトソンを扱ってくる。

それが、ワトソンには気に入らなかった。

またからかうつもりだと、彼は理解していた。

さっきの話題も、自分を凹ませたものだ。ホームズのイヤなところの一つに、知性を尖らせるために、相手をわざと精神的に疲弊させる習慣があったからだ。

ーーきっと、何かが起こる。


この悪い予感は、すぐに当たった。


グレグソンが彼らの部屋にやって来たんだ。彼はホームズいわくスコットランド・ヤード一番の切れ者らしい。

亜麻色の髪に色白の肌。背の高い男だった。

彼は肉づきの良い手を目の前に合わせながら、しばらく思案していた。

「事件かい、グレグソン。眠れてないように見える。レストレードと激しく口論をしたのかい?」とホームズは言う。

「君の推理を驚いてやりたいが、そんな気分になれない」とグレグソンがため息をついた。彼はソファに腰掛けていた。

彼の向かい側にはワトソンがいる。

彼もソファに腰掛けていた。

なぜかって?

失礼なホームズの代わりに、グレグソンから話を聞くためだ。


彼は身を乗り出している。

誰かの死を、作品にするために。


「事件には、なってないのですか?」とワトソンは聞く。

「レストレードとも、話したんだ。あの男は気にしてなかったようだ」とグレグソンは再びため息をつく。

「そんなにため息を吐くな。空気が辛気臭くなる」とホームズがちゃかす。彼は、ため息が自分のところに来るのを完全拒否するかのように、手をひらひらさせた。

「最近、ロンドンで不審な死が連続して起こる。不気味な死に方だ。なのに、医師どもはこぞって、ちゃんとした死に方をしてると言う。」

ここで、グレグソンはうめくように言葉を続けた。

「だがーー吾輩の刑事としての勘がこれは殺人だと告げているのだ!」とグレグソンは叫んだ。


ホームズは、ヴァイオリンを近くに置くとグレグソンへと近づく。

「医師がちゃんとした死に方と言ってる? そして、グレグソン。君は、ーー君の勘は殺人だと告げてる。」

ホームズは一呼吸おいた。

「それは、もう事件だ。なぜ、他の連中は動かない?疑問に思ったのは君だけだ。」とホームズの顔は真剣だ。

こう言う時、目が、すごく喜ぶんだ。

「上の方は、現場の勘よりも医師の方が信頼するからだ。ーー吾輩たちよりも。」

彼は再び、ため息をつく。

「情報をくれ。なるべく多くだ。」とホームズがワトソンを脇にやる。

彼の顔は一瞬だけムッとする。

「ーーボクが邪魔なら、寝室にいくぜ」

「ワトソン。君は医師の立場として、話を聞きたいから、残れよーー」とホームズは彼に囁く。


グレグソンはカバンから、書類を出す。ホームズはひったくるようにして、目を通してワトソンに手渡す。

ワトソンも目を通す。

そして、彼は不審死の内容がとても既視感がある事に気づく。

それは、順番通りに実行されていた。


ホームズの殺害指南書の通りに。


(こうして、新しい第四幕は、幕を閉じる。)

第四幕、ワトソンの指南書が現実の殺人に繋がる衝撃展開!

グレグソンの刑事の勘とホームズの真剣な眼差しが、ホラーからミステリへ物語を加速。

モリアーティの糸が順番通りの死を呼ぶ? 感想、待ってます!

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