第三幕: 考えるだけの罪
やあ、君。
第二幕の糸が解けぬまま、221Bに戻るワトソン。
考えるだけで無垢を失うのか――ホームズの嘲笑が、魂の傷を抉る。
推理小説の指南書じゃない、ボクらの物語。光の導線が、闇の復讐を灯す夜を、覗き見よう。
【第三幕】
やあ、君。考えるだけ。
考える事も罪なのか。
考えただけで、
無邪気さ、無垢は、
失われるものだろうか。
そのように、簡単に人は堕ちるのだろうか。
ボクらは今は19世紀後半のロンドンのベーカー街の下宿の一つ、221Bの部屋の中にいる。
安楽椅子に腰掛けて、ワトソンが書いた物語をワトソンの目の前で、
勝手に読んでいた。
ワトソンが推理を使って、
シャーロック・ホームズという名探偵をぶっ殺す推理小説を、ね。
ワトソンの顔は引きつり、ホームズが一行、一文、一章を読むたびに喘いだ。
「ははは!君、これは僕でなければ、名作になったろう。」
ホームズの笑い声で、
ワトソンは息ができなかった。
何か言いたかった。
だけど、彼は何も言えず、微笑むだけだった。
落ち着いてから、ワトソンは言う。
「君を驚かせたかったんだけど、気に入らないみたいだね。」と。
「シャーロック・ホームズを殺すのは簡単だ。寝ている時、特に薬物に酔っている折、腹部に弾丸を打ち込む。そして! ハンマーで一撃だ。」
これを読むと、ホームズはワトソンを見る。
「一撃ね。ーー腹部に銃弾をやらなきゃ、僕の頭にハンマーを振り下ろせない、臆病なやつ」と分析する。
「ーーだけど、それは泥棒みたいな行為だ。
もっとも、スマートで賢い、芸術的なやり方で、彼を仕留めるべきだ。」
これをホームズが読み終えた後、
「君は第三者に賢く見られたい。だから、手段を選んでる。非効率な選択は、君の頭の悪さだ」と分析された。
「とりあえず、一通りの方法を読者の方々には経験してもらおう」
ホームズは、楽しそうに読み上げる。
一つ一つの死因に対して、ホームズは彼の毒を持って感想を述べる。
詳しくは省略しておこう。
なぜかって?
これはボクらの物語だ。
殺人小説の指南書ではないからだ。
この作品は、ワトソンの魂に深い傷を残した。この、今から記述するホームズの最後の言葉がなければ、ワトソンは完全に壊れていた。
「ワトソン。知っていてほしい。
君は僕の全てだ。
まさに、光の導線なんだ。
君は僕を愛を持って描いてくれる。
もしかしたら、僕は君のおかげで永遠に語り継げられるかもしれない。
ポーの探偵が一発屋で終わったのは、きっと君がいなかったからだ。
だから、何度もいう。
君は僕の全てだ。」
ーー後日、やつれたワトソンは、机の前で、新たな物語の始まりを打ち込んだ。
「ーー彼が認めるような作品を世に生み出す。これがボクの復讐だ」
「1878年、私がロンドン大学で医学の学位を取り…」
こうして、物語はホームズによって閉じられるのだ。
(解説あるいは蛇足)
今回の作品は、ワトソンが正式な出版社にもちこまず、パルプフィクションのような出版社にて、作品を公開したとしてます。
ファンたちが、気軽に作家へと手紙を送られるのが、特徴となります。
ぜひ、この作品の続きとなる「緋色の研究」をお読みください。
コナン・ドイルの作品に敬意を。
彼の作品が、これからもホームズを光の人としていきますように。
第三幕、ホームズの毒分析から光の告白へ、ワトソンの魂が傷つき癒される転換点!
ポーの一発屋対比と「緋色の研究」への橋渡しで、復讐の渇望を優しく描きました。
パルプフィクションのファン手紙が次を呼ぶかも? コメント嬉しいです。




