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童貞魔王と第四皇女:その8…帝国からの留学生(3)

「聞こえてないだろうけど言っておくわ。()()()()()。御夫人会でも帝国への対応については頭を悩ませていたんだけど、貴女のお陰で良い切っ掛けが出来たわ。第三夫人暗殺未遂、毒入りワインの物証、そして魔王様が直々に確認したんだもの…誤魔化しようは無いわね」


 シルフィアは立ち上がると、ゼノビアを跨いで扉に近付く。そして解錠すると廊下の離れた場所に待機しているマクシムの側使い達を手招きした。急いで駆け寄る側使い達にシルフィアが声を掛ける。


「お疲れ様。今日はもう()()ではしないわ。あと中に暗殺者が転がってるから連行して、死なない程度に治療しておいて。それと清掃係への連絡もお願い」

「「はッ!」」


 室内に入っていく側使いと入れ替わるようにマクシムも廊下に出てきた。そしてシルフィアを見ると困った顔をする。


「さて、続きをする場所を探さねばならんのだが…俺は学園長室以外を知らぬのだ」

「それなら学食に行く?」

「学食とな!それは視線が多くて楽しめそうだ!」

「馬鹿!流石に学園長が学食で魔王と()()ら駄目でしょうが!!今は諦めなさいよ」

「むぅ…致し方あるまい…しかしその分、今晩は覚悟するのだぞ?」

「ふふふ、それは私の台詞だからね」


 2人は普通に廊下を歩き学食を目指した。しかし学生達がその存在に気付くと道を開け、顔を直視しないように頭を下げる。その様子はまるで式典の衛士のようだ。

 学食では話を聞いたのか料理長自らが出迎え、2人を貴賓室へと案内する。そこは3階の個室で、下の食堂が見渡せる席となっていた。

 2人は適当な軽食を頼むと一息吐く。マクシムは席に置かれている品書きを見ながら驚いた。


「ふむ、中々に立派なものだな…何より料理の種類が多い。大したものだ」

「私も最初は驚いたわ。そりゃ各種族の習慣に合わせた料理だもの…何なら獣人・竜人種用の”生きたウサギ”っていうのもあるわよ?」

「そ、それは遠慮しておこうか…」


 2人は運ばれてきた軽食を味わう。栄養素を考えられた料理は量も多く美味しかった。2人は料理の感想を言い合いながら微笑みを交わす。


「マクシム、こういうのを世間一般ではデートと呼ぶらしいわ」

「そうか、それではこれが初デートとなるのか」

「そうね、出会ってもう30年以上になるけど…こんな時間はなかったわね…」

「そうだな」


 シルフィアは食後の紅茶を飲みながら小さな沈黙を楽しむ。そしてふと笑みが浮かぶ。


「私の生まれの事…久しぶりに思い出したわ」

「その話を聞いたのはカリオンが生まれる前だったな…もう30年になるか…」


 実はシルフィアは娼婦の娘である事を、すでにマクシムに話していた。

シルフィアが初の出産を迎える時、混血で3つ子という前例がない事態に医師団が帝王切開を進言した。それは治癒魔法を駆使しようとシルフィアの命が危ないのだが、自然分娩では時間が掛かりお腹の子の体力が持たないと判断された為だ。

 その決断を迫られる中、シルフィアはマクシムに自分の出生の事を話した。そして下賤な自分の命より子供の命を優先し、腹を裂いて子を取り出してほしいと懇願したのだ。

 しかしマクシムはそれを即時否定しシルフィアの命を優先した。その為に子が犠牲になろうと、全ての責任を自分が引き受けると言ったのだ。シルフィアはマクシムを睨み、呪詛を吐き、そして感謝した。

 結果から言えば全ては杞憂に終わったのだが、2人の想いが深まった出来事であった。


「カリオンはこの学校で教職についていたな?」

「えぇ、設立時から在籍してるから最古参…今では教わるより教える立場よ。…けど、今回の事で辞める事になるかもね…」

「…あの女の事が、カリオンに影響するのか?」

「ちょっとだけ…って訳にもいかないのよね~」


 シルフィアは食堂を見下ろし、偶然にもカリオンを見かける。人類種より長命で魔族より成長の遅いカリオンは15歳ぐらいに見え、周囲を取り巻く学生達と大差なかった。どうやら学生達に人気があるらしい。


「う~ん…学生の実習って事にしようかな?その引率がカリオン…この筋書きでいってみるか…」



 3日後にゼノビアの罪状が発表され、魔王国中、そして友好国にまで知れ渡る事となる。丁寧な手続きにより裁判は長引いたものの、物証と魔王の証言によりゼノビアには終身刑が言い渡された。そして魔王城の尖塔の一つに幽閉される事となる。

 シルフィアの指示の通り、砕かれた四肢は壊死しない程度に治療が施された。(いびつ)な四肢のゼノビアは物を持つ事も立つ事すら出来ず、床を這いずり回って死ぬまで呪詛を吐き続けたという。


 第三夫人暗殺未遂という前代未聞の事件はゼノビアの幽閉だけでは清算されず、その責は帝国にまで及ぶ。女帝メッサリーナは蟄居する事となり僻地へと送られた。名目上はそこの領主となるのだが、それはどうみても軟禁と言えた。恐怖政治で統治していたメッサリーナに支持者はおらず、この蟄居に反対する者、そして救い出して担ごうとする者はどこにも居なかった。

 メッサリーナを容認していた無能な閣僚は爵位を剝奪され平民になった。もっとも、3年と生き延びた者はいなかったようだ。

 政治的混乱が起こるかと思われた帝国だが、キールホルツ家の血を引く者が表れると事態は沈静化する。シルフィアの子供達18人が帝国へと派遣されたのだ。その補佐としてゴウディン学園の生徒達が同行した。縁故主義の根深い帝国では摩擦があったものの、魔王国からの豊富な援助のお陰でその声は小さくなっていった。主義だけでは飯は喰えないのだ。

 皇帝代行となったカリオンは帝国の権威を切り崩しながら民主化を推し進めた。公爵を筆頭に貴族達が抵抗したものの、公爵家が()()()()流行病で亡くなると大きな抵抗を見せなくなる。


 カリオンが皇帝代行に就任して30年後、帝国は解体されキールホルツ連邦自治領が設立する。領主には子供達が、役職にはゴウディン学園の元生徒達が就任、皇帝代行を辞任したカリオンはそのまま自治領主長へと就任した。


 全ては御夫人会が書き上げた筋書き通りとなった。

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