青春群像劇 #1
第1章 転校生は波乱の予感
四月の朝、まだ肌寒い風が校舎の廊下を吹き抜けていた。
2年B組の教室は、新しいクラスの空気に包まれ、ざわざわと落ち着かない。
「ねえねえ、転校生ってどんな人かな」
「イケメンだったらどうする?」
「女子だったらワンチャン仲良くなれるかも」
そんな声が飛び交う中、俺――藤崎陽向は、机に突っ伏して聞き流していた。
「おーい陽向! せっかくの新学期なんだから、もっとテンション上げろよ!」
声を張り上げたのは真田蒼。相変わらず元気すぎる幼なじみだ。
陸上部の蒼は、もう朝練を終えてきたらしく、額にうっすら汗を光らせている。
「お前さ、春から飛ばしすぎじゃね? まだ授業始まってすらないぞ」
「いやいや、スタートダッシュが大事なんだって! それに――」
蒼がにやりと笑う。
「転校生が来るって聞いたら、ワクワクするだろ?」
俺は肩をすくめて返した。
正直、転校生なんて俺には関係ない。
でも、なんとなく胸の奥に小さなざわめきを感じているのも事実だった。
やがてガラリとドアが開き、担任の佐々木先生が入ってきた。
背が低くて小太り、でも妙に声が通る先生だ。
「はいはい、みんな席につけー。今日はさっそく紹介する生徒がいる」
一瞬で教室が静まり返る。
先生の後ろから現れたのは、少し長めの前髪に隠れた瞳を持つ男子生徒だった。
整った顔立ちだが、どこか冷たく見える表情。
「転校してきた橘悠人だ。しばらくみんなと一緒に学ぶことになるから、仲良くしてやってくれ」
悠人は軽く頭を下げただけで、言葉少なに前を向いた。
その無口さと雰囲気に、教室は微妙な空気で包まれる。
「お、おう……クール系か?」
「いや、ちょっと怖くない?」
「でもイケメンだな」
ざわつく声を背に、悠人は空いていた後ろの席に腰を下ろした。
その瞬間、俺は気づいた。
彼の肩から覗いたカバンの中に、楽譜がはみ出しているのを。
(あれ……音楽やってるのか?)
何気ない新学期の始まり。
けれど、この出会いが俺たちの日常を大きく変えていくことになるなんて、まだ誰も知らなかった。




