描写強化 19話 和解への一歩
コーチングの元表現力の強化をしました、やはり足りないところは人間として補うべきだったね、私は毎日12時に物語を投稿しています。
タルクは車を小一時間走らせた後、車を停めた…場所は以前の駐車場…。
湿った空気が、コンクリートの壁にまとわりつく。
コンクリートで囲われた駐車場はやはりエンジン音が響く。
タルクはエンジンを切ると、車内に一瞬だけ静寂が降りた。
低く唸るような換気ファンの音が、遠くから響いている。
一呼吸してハンドルから手を離し車から降りる…。
タルクは車の反対側に回り助手席のドアをゆっくり開けて声をかける…。
タルク「…クロエ…行くぞ…」
クロエはまだ少しボーッとしていたようだった…。
タルク「…(あれは告白だったのか…どうなのか…)」
運転中も同じことを考えていたが今は目標に集中
しなくてはならなかった。
タルク「…クロエ…」
もう一度クロエに声をかける…。
クロエは、まばたきを一度して、やっとこちらを見た。
クロエ「ん…」
クロエは小さい声ながらもようやく返事をし車を降りる…。
いつもヤクでキマりお喋りなクロエにしては珍しかった…。
それがまるでさっきの告白が本気だったと裏付けるようだった…。
タルク「平気か?なんだかボーッとしてる」
クロエ「タルクは平気?」
タルクは珍しいクロエのまともな口調に唖然としながら言う。
タルク「平気だが…なんでだ」
クロエ「クロエみたいなダメな娘に告白されたんだもん…」
クロエはなんだか拗ねているような気がした…
あの後すぐに返事をしなかったせいだろうか…。
タルク「…本気だったんだな…」
そう言うとクロエは少しジト目で睨んできた。
タルクは慌てて言葉を付け足していく。
タルク「っていうのも…やっぱり…急なそういうのには対応できない…いくらヤクを捌いてる男でも…
恋愛には疎いんだ…」
クロエ「タルク…ライリーと付き合ってたじゃん…」
タルク「そりゃ遠い昔の事…」
クロエ「とにかく…クロエ本気なの…」
タルク「…俺は──」
タルクが言いかけた直後だった。
コツ…コツ…
硬質なヒールの音が、冷たい床を叩く…
薄闇の中を、誰かがゆっくりと歩いてくる…。
誰か来た…。
タルクは急いでクロエの手を取ると車の影に隠れる。
タルク「誰だ…」
クロエ「なんか凄い服着てるよぉ?」
顔立ちも体の線も、クロエと同じ“家の血”。
だがそれ以上に目立ちすぎるのだ…
この場にそぐわない色彩、音、動作…。
すべてがまるで「ここにいます」と叫んでいる…
タルク「…ドレス…(顔もクロエにそっくり…サラーで間違いないが…取引に慣れてないのか?サラーだと分かるのもそうだが…とにかく目立つ他に…
音のするハイヒール…まるで…
俺達を誘き寄せてるみたいだ…。)」
タルクとクロエは引き続きサラーの様子を
確認し続ける、誰かを待ってるようだった…。
タルク「…(念のため…だな…)」
ホルスターからバイソンを抜いて握っておく…
バイソンを既に握っておく事は後ろに人が来ても
お得意の早撃ちで風穴を開けられるからだ。
その後数分経った頃だった。
男が一人…革靴の音を響かせながら歩いてくる…。
革靴のソールが乾いた床を打つ…
白シャツに紺のスーツ、歳は30代後半、
切れのある動き…。
立ち居振る舞いだけで「ただの取引相手ではない」と知れる。
男「やぁ…サラー…調子はどうだ…?」
サラー「あまり…良くないわ…」
互いの距離が縮まっていく…。
男は機嫌良くサラーに話しかけに言っていた。
タルクはより目を凝らし観察を続ける。
男「前のを1kg用意したが…少し高値でなぁ…」
サラー「っ…お金は払えるわっ!だからっ─」
男「わかってるだろう…こいつは売る…だがお金で
は買わせない…」
サラー「っ…」
男はさっきの機嫌の良さとは裏腹に真剣な面持ちでサラーに語りかけていた。
男「…ヘクター・トニゴール…23歳…分かるだろ…
この毒を使って殺害しろ」
そう言って、懐から小さな金属缶を取り出した。
中身は白い粉…
その取引の話を聞いてタルクは思い出す…。
タルク「…(なるほどな…確かに最近大物セレブ達の死が二件あったが…サラーの仕業だったのか…
しかし…可愛そうな奴だ…上物のヤクに踊らされて…)」
サラー「も…もう殺しは嫌…」
男「ならお前の母を殺す…」
サラー「っ…」
男「前々から思ってたんだが…お前の母親は生意気だ…だから…前に顔に大きく腫れてたのをみて…
スカッとしたよ…誰の仕業かは…わからないが…」
タルク「クロエ…」
タルクは車の影から頭を隠しクロエに小声で言う。
クロエ「んぅ?」
タルク「ここからこっそり離れて警察を呼んでくれ…電話で良い…」
タルクは携帯を渡す…。
クロエ「えぇ…!でも…」
タルク「俺達は逃げ出せる…俺が陽動するからその隙に離れろよ…」
クロエ「……。わかった…」
男とサラーはまだ話している。
男「さぁてぇと…やるのか?やらないのか?」
サラー「…」
タルク「…」
タルクは車の影から目一杯コインを投げる…。
チャリン!!!!!
チャリン…!!!!
チャリン……!!!
駐車場に響き渡るコインの音の方向に男とサラーは集中する。
タルク「行けっ!」
タルクは小声で指示をする…。
クロエは指示通り携帯を握りしめ駐車場から
身をかがめて出る…。
タルク「…(さてと…)」
今度はコインを投げた方向をよく見ておく…。
男「おい!誰かいるのか?出てこい…」
男はコインの音の方向に警戒し夢中になっていた…
タルクはサラーの方にも注目する…。
タルク「…(手に何か持ってるな…ん…?)」
そこには駐車場のライトが反射する…輝いたナイフが
あった…。
タルク「…(っ…!!!)」
グサッ!!!
男「がぁっ…ぁっ!?」
出来事は一瞬だった…コインの音の方向に夢中だった男を背後から刺し…さらに追い打ち…
抜いては刺す…抜いては刺す…抜いては刺す…。
強い恨みを持ってるかのような…。
しかしタルクの予想を大きく上回ったのはヤクには目もくれないことだった…。
タルク「…」
やがて2分ほど経った後…タルクは銃をサラーに向けながら車の影から姿を表す。
タルク「動くな…」
サラーはこちらを向かず血まみれのその場所で…
死体を眺めながら肩を上下させていた…。
サラー「いいの…なにもしない…抵抗も…逃げも…」
ドレスに返り血が滲む。
それでも彼女はその場を動こうとしなかった。
タルク「…知ってたんだな…」
サラー「…」
サラーはとにかく死体から目を逸らさなかった…。
タルク「…俺が行動しやすいように…服も音も…
目立つようにした…サラーだとすぐ分かれば行動も
しやすいから…。」
サラーは気付けば涙を流していた…男の死体の服に
涙が滲む…。
サラー「こんな人生望んでなかった…妹がいなくなった時から…ずっとずっと…母親に指示され続けて…」
声は震えていなかった…
諦めきった感情は、涙よりも冷たく…
タルクの耳に届く…。
サラー「気付いたら…こいつに…殺し屋紛いのこと
させられて…でもクスリから脱却できなくて…」
タルク「…」
タルクは銃を下ろさなかったが、引き金にはかけていた指をゆっくり離す…。
サラー「もう理想の自分も夢も何も分からなくなってた…。」
タルク「…もうじき警察が来る…どうするんだ…」
サラー「もういいの…私…潔く捕まる…」
タルク「良いのか?」
サラーは金色の長い髪を束ねながら立ち上がる。
サラー「それが最後に出来る私らしさだと思うから…」
サラーは笑った…
だけどその笑みは、頬に血を流す死体を見下ろす顔には似つかわしくなかった…。
タルク「…そうか…」
そして…
コツ!コツ!
ブーツの走る足音…。
クロエ「お姉ちゃん!」
クロエだ…息を切らしながら走ってくる…。
サラー「…っ…ク…ロエ…?」
サラーはもう死んだと思っていたクロエを目の前にして…少量だった涙もやがて増えて溢れていく…。
サラー「クロエ…もう会えないと思ってた…」
クロエ「クロエ…寂しかった…」
サラーはクロエに一歩…二歩近づきながら話す…。
サラー「…あの時…止めてあげれなくてごめん…私…」
クロエ「…」
サラーは泣きながら妹の背に腕を回す…。
血のついた手で、妹の無垢な背中を抱きしめながらただ謝る…
サラー「ごめんね…ごめん…」
クロエ「…お姉ちゃん…良いよ…クロエ…大好きな
人と暮らしてて…もう寂しくないから…」
クロエは純粋な笑顔をサラーに向ける。
サラーはタルクに顔を向けてはクロエに視線を戻す
サラー「そう…よかった…」
クロエ「だから…お姉ちゃんも…逃げよぉ…?今なら…」
サラー「クロエ…私は逃げない…そう決めたの…」
クロエ「え…?」
クロエの純粋な笑顔はやがて悲しむ顔に変わる…。
サラー「誰かの指示で生きてきた人生…
ようやく…自分の意思で選ぶことができるの…
私らしさって…きっとこういうことなんだと思う」
クロエ「でも…でもお姉ちゃん…」
サラーはクロエにぎゅっと抱きつかれながらも
タルクに目配りする…。
タルクはそっとうなずき…近づいてはクロエをサラーから引き離す…。
タルク「行こう…クロエ…」
クロエ「嫌だっ…!クロエの家族ぅ!!」
タルク「すまないクロエ…行かないと…」
パトカーの音がほのかに聞こえてくる。
クロエ「お姉ちゃん!!!」
タルクはクロエを連れていく…その間ずっとクロエは泣き叫んでいた…。
だけどどうしようも出来なかった。
サラーは最後にクロエに笑顔を向けた。
その笑顔は女優としての彼女の写真の笑顔とは全く
違うものだった…。
クロエは車の中でサラーを見ながら泣いていた…。
クロエの唯一の思い出せた家族だったから…。
タルクは車を走らせその場から去っていく…。
──
~家~
ニュース「人気ハミズデット女優のサラーが…」
ニュースはタルクの耳にも入ってこなかった…ただ
流れてる映像を眺めているだけだった…。
ニュースではサラーの刑をどうするかなど話していたが…自室で泣いてるクロエには話せる内容でも
なかった。
タルクはテレビを消してクロエの部屋にノックする。
クロエ「……はぁい」
部屋の奥から、少し掠れた声が返ってきた。
タルク「ちょっと話さないか?大事な話だ…」
クロエ「…」
ノブが回る音…
ガチャリ…
ゆっくりドアが開く…。
顔を俯かせたクロエが、ドアの隙間から現れた…
その手は震えておらず、ただ指先が少しだけ冷たそうに見えた…。
そして、もっと驚いたことがある。
それはヤクを吸っていないクロエだった。
タルク「ヤクは…?吸わないのか?」
クロエ「吸えない…」
タルク「そうか…」
タルクは一呼吸置いて話す…。
タルク「なぁ…今話すことじゃないかもしれない…が…聞いてくれ…」
クロエ「…」
クロエは下げていた顔を上げる…
目はまだ赤い…
だがその瞳はどこか…真っ直ぐだった…。
タルク「俺はクロエが好きだ…好きの意味で好きだ」
クロエは目を見開くようだった。
タルク「こんな事を言うのはあれだが…家族を失った今…俺が家族に─…」
タルクは必死に言葉を紡いだが関係なかった…。
何故なら言葉よりも早く…クロエが既に抱きついてきていたから…。
クロエ「…クロエの事…絶対に離さない…?」
タルクはそれを聞いてクロエの頭を撫でながら…。
タルク「約束するか?」
タルクは小指をクロエに差し出す…。
クロエ「…うんっ…」
クロエも小指をタルクに近づいていく…。
その時だった…インターホンが鳴る…
タルク「あー…あ…ちょっとまってな…」
タルクは玄関ドアに近付き覗き穴を見る…マシューだ…。
ガチャリ…
マシュー「…サラーが捕まったって聞いて飛んできたんだが!平気かぁ!!」
マシューはとにかく慌てた様子で息を乱していた。
タルク「平気だよ…クロエも…この通り…」
マシュー「そうか…そうか…よかった…はぁ…ふぅ…」
タルクは少し笑いながら。
タルク「お前…良い奴だな…」
マシュー「え?」
タルク「いや…なんでも…あがってけよ…疲れを
吹き飛ばす何か作ってやるよ…」
マシュー「あぁ…最高だぁ…」
マシューは玄関を通り家に入っていく…。
タルク「とりあえず…キッチンに水あるから飲んでこい…」
タルクは指を指しながらマシューをキッチンに誘導する…。
マシュー「すまんな…」
マシューがキッチンに行く…。
その隙に…。
タルク「クロエ…」
クロエ「…タルク…」
タルクは小指を再び差し出す…が…
クロエはただタルクの目の前で背伸びする…
ただクロエの顔が近付き…キスをする…。
タルク「…」
クロエ「ん…」
クロエの声が少し漏れるがタルクは止めずにキスを
続けた後…ゆっくり顔を放す。
お互いに見つめ合う…ただそれだけ…。
マシュー「タルク!水ってどこだ!」
キッチンの奥からマシューの声が聞こえる。
タルク「…はいはい、今行く!」
クロエの髪をそっと撫で…
タルクはキッチンへと向かう…。
その背中を見ながらクロエは静かに微笑み…
心の中で、誰にも聞こえないように呟く…。
クロエ「…(クロエ、家族を手に入れたんだよ……)」
続