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梅雨が明け、リュノ国の最果てにある辺境の村に夏がやってきた。そして招いてはいないが、一人の黒づくめの騎士もやってきた。
燦々と照りつける太陽の下、黒騎士は汗一つかかずに、村民に似顔絵を見せながら尋ねて回る。
「この女性をご存じないか?ここにいるはずなんだが」
口調こそ丁寧だが、大柄な体型に加えて威圧的なオーラを纏う彼は、控えめに言って怖い。
整いすぎた顔と、鋭い紫色の瞳は、村民の心を鷲掴みにするどころか、逆に距離を取らせてしまっている。そのせいで──
「し、知りません……いや、ほんと……マジで……」
こう口にしながら、村民は総じてブルブル震えながら首を横に振る。
それでも黒騎士は懲りずに、今度は別の村民に尋ねる。飽きることなく、幾度も、幾度も……
乳道雲が浮かぶ空の下、黒騎士は毎日毎日、似顔絵を手にして村を徘徊している。
その姿は、草の根分けても絶対に探し出すという、執念すら感じさせる。
そんな鬼気迫る黒騎士の背を木の陰からじっと見つめる女性がいた。
「どうしましょう……こんなところまで探しに来るなんて……!」
ひぃぇぇっと慄く女性は、黒騎士が手にしていた似顔絵と瓜二つ──本人である。
彼女は、知っていた。黒騎士が自分を探している理由を。
一年前のとある晩、彼女は黒騎士と一夜を共にして、翌朝、彼の元から逃亡したのだ。
俗に言う”ヤリ捨て”をしてしまったのである。




