第二章 風の行方
天衣は、幼いころから祖母に大切に育てられてきた。しかし、彼女の平穏な日々は突如として崩れ去る。村が何者かに襲われ、焼かれ、祖母の姿も見えなくなった。唯一の手がかりは、祖母が残した言葉と、天衣が目にした「過去視」の異能による断片的な映像。
生き残った者たちから、祖母が語っていた"異能の秘密"が、かつて滅ぼされた一族と関わりがあることを聞かされる。天衣は祖母の行方と、隠された真実を求めて旅立つことを決意した。
逃げる途中で出会ったのは、炎を操る異能を持つ青年・豪。彼もまた、自らの理由で旅を決意
そして今、彼らの前に現れるのは、風を纏う青年――迅空。彼との出会いが、天衣の運命をさらに大きく動かしていく。
夜の静けさを裂くように、土煙が舞い上がった。細身の青年――迅空は息を切らしながら、路地裏を駆け抜ける。背後には数人の荒くれ者たちの影。
「くそ、厄介ごとに首を突っ込みすぎたか……」
彼は少し前、盗賊に囚われていた女性を助けた。その際に盗賊のアジトを荒らし、今こうして追われている。だが、やるべきことはやったと、迅空は後悔していなかった。
曲がり角を抜けた先で、不意に立ち止まる。目の前には赤髪の少年が腕を組んで立っていた。
「……何してるんだ?」
「いや、何してるんだはこっちのセリフだろ。」
豪は呆れたようにため息をつく。
「追われてるなら、さっさと逃げればいいのに。ほら、こっちだ!」
言うが早いか、豪は迅空の腕を引いて駆け出した。後ろからは盗賊たちの怒声が響く。
「おい、待ちやがれ!」
二人は市場の細い路地をすり抜けながら逃げ続けた。だが、ふとした瞬間、別の路地から現れた盗賊の一人が、近くにいた村人を乱暴に引き寄せた。
「もう逃がすかよ!動いたらこいつを――」
言い終わる前に、細い影が勢いよく飛び出した。
「やめなさい!」
天衣が迷いなく飛び込み、鋭い蹴りを盗賊の手に叩き込んだ。その反動で村人が解放される。
「馬鹿かお前は!無謀すぎる!」
迅空は呆れたように叫んだ。だが、すでに天衣の腕には深い切り傷が走っていた。
盗賊が再び襲いかかる――その瞬間、強烈な突風が吹き荒れた。砂埃とともに、盗賊たちは吹き飛ばされる。
「風……?」
天衣が驚いて顔を上げると、迅空が鋭い目で盗賊たちを睨んでいた。
「やれやれ……つい助けちまったな。」
盗賊たちは怯え、散り散りに逃げていく。
静寂が戻ったあと、天衣はぱっと顔を上げた。
「ありがとう!助かった!」
けろっとした笑顔を向けられ、迅空はますます呆れた。
「……お前、本当に無鉄砲だな。」
豪は笑いながら肩をすくめた。
「まあ、こいつはこんな感じだからな。」
迅空は深く息をつく。
「それで、お前らは何の旅をしてるんだ?」
天衣は少し考えた後、真剣な目で答えた。
「……大事な人を探している、それと異能の秘密を知るため。」
その言葉に、迅空の目がわずかに細められた。
「異能の秘密、ね……」
彼が探している冠。それがもしかすると、関係しているのかもしれない。
そして、天衣たちと旅を共にする理由ができた。
数日後、彼らは共に歩き始めた。
その夜の焚き火のそばで、豪がふと呟いた。
「そういや、迅空。お前、ずっと天衣のこと男だと思ってたろ?」
迅空は驚いた顔をして、天衣をじっと見つめた。
「……違うのか?」
天衣は不機嫌そうに腕を組んだ。
「失礼なやつだな!」
豪は大笑いしながら、薪をくべた。
「ははっ!これからが楽しみだな!」
迅空との出会いを通じて、天衣は初めて異能以外の"力"を目の当たりにすることになりました。武術の技と覚悟、そして迅空の風の異能――それぞれの強さが交錯することで、旅はより広がりを見せていきます。
迅空は冠を探し、天衣は祖母の行方と異能の秘密を追う。二人の目的は違えど、交わる道が生まれました。そして、まだ知らぬ仲間たちが待つ先へ、旅は続いていきます。
次章では、旅の新たな展開が始まります。彼らの行く先に待つものは何か。天衣の異能はどこまで通用するのか。どうぞお楽しみに!