番外編2 復讐の結果
『貴国からの支援要請、受けてもよい。ただし一つ条件がある』
キヨード王国からの返信。
その内容に、ジェズは顔が真っ赤になった。
『通達のあった、聖女と四の使い手であるという二人は、真っ赤な偽物。今すぐその旨を各国に通達し、謝罪せよ。それが為された後に、支援することを約束しよう』
「ふざけるなっ!」
ジェズは叫んで国王から渡された手紙を、そのままテーブルに叩き付ける。国王は真っ青になっている。進み出たのは、自らの側近だった。
「殿下、謝罪して下さい」
「……貴様っ!」
「こんな生活、真っ平です。殿下とプリンチェ様、国王陛下は責任を取らざるを得ないでしょうが、逆に言えば今ならそれだけで済みます。ご決断を」
「ふ、ふざけるな……っ!」
側近の圧力に押されて、ジェズの言葉に勢いはない。どこか怯えたように後ろに下がる。が、すぐ何かに気付いたように、慌てて言い募った。
「大体だな、俺たちが偽物だとなぜ言い張る!? そんな証拠などないだろう! キヨード王国こそ、イチャモンをつけて支援を断ろうとする、人道に悖る行為だと……」
「証拠はあるのだ、ジェズ」
国王が言葉を遮った。真っ青な顔のまま、一緒に証拠も送られていたのだと、それを見せる。
「…………!」
それはスイッチ一つで動く映像を映す道具だった。そこに映っていたのは、リアとオーノだ。この二人が、聖女と四の使い手としてキヨード王国を訪れたときの映像。
「これが何だというのですか。この二人が偽物だったというだけでしょう」
「もう少し先を見ろ」
言われて、ギリッとしつつも先を見る。
すると場面が変わって、映ったのは一つの街。そこに襲いかかる瘴気を纏った動物。それをオーノが地・水・火・風の四つの魔法を使って倒し、リアがそれらを浄化している姿がある。
「キヨード王国内で実際にあった出来事だそうだ。これらを他者が見たとき、果たして“偽物”と思うか? お前たちに同じことができるのならまだ言い訳もできるが、無理だろう?」
「そ、それは……っ!」
「この映像は、すでに諸外国にも送られている」
「なっ……!?」
「そして同時に、一つのデータも送られてきた。
「……データ?」
「そうだ。この世界に満ちる魔力量を測定したデータ、だそうだ」
ジェズは息を呑んだ。
「このデータによると、魔力量の低下は、世界に光が満ちて瘴気が浄化された時とほぼ同時に起こっている。魔法や魔道具が数日使えていたのは、単に魔力が消えるまでの日数が、それだけかかったというだけ。つまり、瘴気の浄化と魔力の喪失には、何らかの関係がある」
つまり魔法も魔道具も使えない理由を、本当にジェズとプリンチェが瘴気の浄化を成し遂げたのであれば、その理由を知っていなければならない。知っていたのであれば、それを説明しなかった彼らに責任がある。
どこからどう見ても、すでにもう詰んでいるのだ。
「旅に出た二人は、すでに死んでいるそうだ。亡骸を見つけて葬ったと連絡があった。真実を知る術はない」
「あ…………」
ジェズはへたり込んだ。逃げる道が見当たらない。
「殿下」
黙っていた側近が口を出した。
「すでに街には、殿下とプリンチェ様が偽物であったと、そのために神が怒って魔力が失われたのだという流言が広まっています。もう間もなく暴動も起きるでしょう。どうか……」
「い、いやだいやだ、そんなはずない! 俺は王子だぞ! こんなところで……」
「……そうですか。残念です」
側近がそう言った途端に、ドアがバンと開けられた。そこにいる兵士の数の多さと……そして身につけているものに、ジェズは真っ青になった。
「キヨード王国の……」
そう。兵士たちの身につけている鎧は、キヨード王国のものだった。
「父上っ! どういうことですか!?」
「……彼の国の傘下に入ることにした。そうすれば、引き続きこの国の国王として認めると」
「み、みそこないましたぞ! ちちうえ!」
ややどもる。うまく口が回らないのは、怒りのせいだ。決して恐怖ではない、とジェズは自分に言い聞かせる。
国王はキヨード王国と取引をして、自分の身の安全を確保したのだ。おそらくは、息子であるジェズを“四の使い手を騙った罪人”として差し出すことで。
「……くっ!」
ジェズは身を翻して走り出した。自分だけでも逃げ延びてやる。そしていつかこの国とキヨード王国に復讐してやる。走った先は、城外へと続く秘密の通路がある場所。だがすでにその道は兵士たちによって塞がれていた。
さらに、女性の叫び声が聞こえた。
「離して! 離しなさいよ!」
それは、兵士に捕らえられているプリンチェだった。
魔法が使えればどうにでもできるのだろうが、今のプリンチェは何の力もない。兵士たちから逃げることなど不可能だ。
「あ、ジェズ様! 助けて! 助けて下さい! こいつらが私を強引に……!」
「来いっ!」
叫ぶのも構わず、強引に連れて行かれる。そして、ジェズの肩に兵士の手が置かれた。
「殿下にも来ていただきましょう」
「は、はなせっ! ふざけるな! おれは王子だぞ! 離せっ!」
容赦なく引きずられていく。父の姿が見えて目で助けを求めるが、沈痛な顔で逸らされた。
「…………!」
もう自分の全ては終わってしまったのだと、ジェズは悟ったのだった。
***
アムレート王国はキヨード王国の属国となり、日常生活で使える道具が支給された。そして生活が安定すると、民たちは聖女や四の使い手のことは忘れて、今まで通りの生活を始めた。
国王や貴族たちにも道具は与えられた。しかし厳しい税を課され、その分を民たちへの増税で補填することは禁止されたせいで、自分たちの贅沢を控えるしかなかった。それでも、ろくな食事すらできない状況よりはマシだと、自分たちを慰めた。
ジェズとプリンチェはキヨード王国へ連れていかれ、王宮のある敷地内の一画へ住まわされた。
その場所は粗末な場所だった。住まいとされたのは、ただの掘っ立て小屋。隙間風が入り、夏は暑く冬は寒い。世話をしてくれる使用人たちはいなく、さらには便利な道具の一つさえ与えられない。
食べ物は届けられるが、あくまでもそれは“食材”のみ。きちんとした食事をしたければ、自分たちで調理をするしかない。水は近くの井戸から汲むことはできるが、自分たちでやらなければならなかった。
『それが、聖女と四の使い手を騙った、そなたらへの罰だ』
これが、キヨード王国国王が二人に告げた処分内容だ。だが、元々そんなことをしたことがない二人が、疲労し衰弱するのは早かった。それでも手助けする者は当然おらず、その生活は二人が倒れるまで続いたのだった。
***
そして、時は過ぎる。
時代が変わっていく。
聖女と四の使い手と呼ばれる者がいたことも、それを騙った者がいたことも、魔力が失われて大混乱に陥ったことも、やがて忘れられていく。
いつしか魔法のことも魔道具のことも、人々の記憶から薄れてなくなっていく。ごく僅かな記録の中だけの存在となり、おとぎ話として語られる、そんな時代に変わっていく。
――時ハ、満チタ。
瘴気は力を取り戻す。自らを封じた力を、逆に取り込む程度には。
地の力が地面を揺らし、街が破壊される。水の力が津波を引き起こし、洪水に街が飲まれる。炎の力は火山を爆発させ、火事を引き起こす。風の力が火事を広げ、暴風が家屋を壊す。
世界が瘴気に包まれるまで、あと少し……。
これで終わりです。
お読みいただき、ありがとうございました。




