表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

3.瘴気の源

「ゲホッゴホッ」


 瘴気が濃くなって咳き込んだオーノが少しでも楽になるようにと、私は手を彼の腕に当てる。ほんの僅かに浄化の力を流せば、彼はホッとした顔をした。


「ありがとう。でも、力を使い過ぎるなよ」

「平気」


 少しでも浄化していかないと、まともに呼吸もできそうにない。

 周囲はもう真っ黒だ。碌に視界も効かない。それでも私は前へと進む。"聖女"としての本能なのか、この瘴気が流れてくる場所がはっきり分かる。


 前に進んでそうたたないうちに、私はそれを見つけて、指を差した。


「――あれよ」

「なるほど、分かりやすいな」


 黒い中にあっても目立つ、真っ黒な塊。その黒いものが波を打って、周囲に広がっていくのが分かる。


「では、始めようか」


 オーノの言葉に私は一歩後ろに下がった。これから何をどうするべきか、それは魔法の遺跡で知った。


 私は黒い塊の様子を見る。目を瞑って集中しているオーノの邪魔はさせないと思ったけど、その塊が何かをしてくる様子はない。


「現れよ。顕現せよ、原初の精霊たち。地よ、水よ、火よ、風よ。現れ出でて、その力を解放せよ」


 オーノの言葉が終わると同時に、地面が光り、水が湧き出る。火がおこり、風が吹き荒れる。そしてその一瞬後には、四体の姿があった。人に似て人ではない存在。"原初の精霊"と呼ばれる、地・水・火・風の魔法それぞれの、力の源となっている精霊たち。


「放て」


 オーノの言葉とほとんど同時に、黒い塊が竜巻に巻き込まれる。火に包まれたと思ったら、上から水が落ちてくる。そして、隆起した地面が岩になって黒い塊を閉じ込める。


 やった、と思ったのは一瞬だった。岩がピシピシと音を立てたと思ったら、崩れ落ちる。そこから現れたものを見て、私は息を呑んだ。ただの黒い塊だったはずなのに、長い棘をまとっているような形になっている。


「ここからが本番だな」


 でもオーノは全く怯んだ様子もなく、攻撃を続けた。


 私は息を詰めてそれを見守る。手助けをしたいのを堪える。あの魔法の遺跡で見たのだ。原初の精霊たちの攻撃で黒い塊が弱ってからじゃないと、私の光の力は届かない。


 オーノは攻撃を続けるけれど、どれも弾かれる。黒い塊の発した瘴気をまともに被ったときは、叫んでしまった。


「オーノっ!?」

「平気だ」


 慌てる私を余所に、オーノはどこまでも冷静だった。

 私は拳を握る。今はまだ我慢だ。今、私がやるべきことは、オーノを信じてその時まで力を高めておくことだ。


 そうして覚悟を決めた時だった。


「あっ」


 まともにオーノの攻撃が黒い塊に直撃した。黒い塊が火に包まれた。かと思ったら、風が吹き荒れて、その火がさらに大きくなる。動きが鈍ったのが分かる。


「…………! ……!」


 黒い塊が、まるで悲鳴のような"音"を発した。あともう少しだと思ったとき、黒い塊が動いた。


「…………!」


 火と風に包まれた中から、何かが飛び出してきた。それが何かを理解するより先に、「ぐ」というオーノのくぐもった声が聞こえた。


「え?」


 オーノの背中から黒い何かが飛び出ていた。お腹から刺されて、それが体を貫通している。その黒いものを視線で辿れば、行き着く先は黒い塊。そこから触手のようなものが出て、その先端がオーノを貫いている。


 その触手が動く。貫いたオーノの体から、触手が抜かれる。その瞬間、そこから大量の血が落ち始めて、ようやく私は現状を理解した。


「オーノ!」


 叫んで手を伸ばす私を、オーノは制した。倒れもせず、傷口を手で押さえている。けれど、その手の隙間から血は流れ落ちていく。


「水よ、貫け」


 オーノがそう言った瞬間、口からも血を吐いた。けれど、何一つ動揺した様子を見せない。水が一本の水流となって、黒い塊の中央を貫く。


「地よ、串刺しにしろ」


 地面から先端が尖ったものが飛び出して、黒い塊を文字通り串刺しにした。


 けれどその瞬間、オーノはさきほどよりも大量の血を口から吐き出した。そのまま力尽きたように後ろに倒れるのを、私は必死に支えた。


「オーノ!」

「リア、これでいいんだ。……分かってるだろ?」


 ニッと口の端を上げて笑うオーノに、私は息を呑んだ。

 そうだ、分かってる。――それでも。目から涙が落ちた。泣くなんていつぶりだろうと思う。


「オーノ……」

「あとは、任せた、リア。……フォーリア・ロッサ。君と出会えて、良かった」


 満足そうに、笑顔で。彼の心臓の鼓動が……止まった。


「私、だって。あなたに会えて、良かった」


 泣くのは止まらないまま、それでも無理矢理に笑顔を作る。オーノの体を地面に寝かせた。


「……変ね。"赤"の名前を冠しているのは私のはずなのに。あなたの方が、赤く染まってるんだから」


 名前を付けてくれた、あの日の空を思い出す。赤く染まった、燃えるような赤。オーノとの、出会いの日。


「待っててね、オーノ。私もすぐ後を追うからね」


 串刺しにされている黒い塊を見た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
つ……続き下さい……!(涙)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ