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40:行きついた先は

ちょっと懐かしい二人組が出てきます。

 深夜の帝都に逃げ出した私は、息が続く限り走り続けた。

 行く宛てなんてどこにもない。

 歪であったとはいえ、人の優しさから再び逃げ、居場所を自ら捨てて来た私には、もう本当に何も残っていない。


「う……っ」


 思わず短い悲鳴を上げて蹲ってしまったのは、石造りの公道に落ちていたガラスの破片を踏んでしまったからだった。右足の裏を見ると、裸足の足裏に切傷ができており、どんどん血が溢れてきている。ズキズキと患部が痛み、私は唇を強く嚙み締めて涙を堪えようとした。

 けれど、耐えきれなかった。


「うぅ……、うぅぅ……あぁ……」


 公道の真ん中で嗚咽を漏らして蹲る私に、夜の商売人たちが奇異なる視線を向けては足早に立ち去っていく。

 着の身着のままで店を出て来てしまったので、素足に寝巻姿で泣きじゃくる私は明らかに異様だったのだろう。

 やっぱり私は「イカレタ女」なんだ。アッシュさんの言っていた通りだと思うと、もう生きている意味なんてないんじゃないかという思考がよぎった。

 いや、違う。私はルゥインの死を告げられた時、すでに生きている意味がなくなったと思った。けれど、死ぬ勇気がないから彼の死をなかったことにしたんだ――。


(私……本当にどうしようもない……。みんなを傷つけるだけで、何もできない……)


「どうした、嬢ちゃん。ワケアリって感じか?」

「オレと兄貴がしっぽり慰めてやろうかァ?」


 不意に背中側から男性の声がして、私は泣き顔のまま振り返った。そこに立っていたのは、いつぞやの当たり屋の二人組だった。

 彼らも私の顔を見てハッとしたらしく、即座に「あの時のクソアマじゃねえか!」と驚きの声を上げた。


「あいつ……あの魔術師も近くにいんのか? どっかからオレらのこと狙ってんじゃねぇだろうなッ!?」

「ひぇッ! あの白髪のヤツっすか、兄貴!」


 アッシュさんに腕を氷漬けにされたことを思い出したらしく、当たり屋の兄貴はガタガタと体を震わせている。相当な恐怖体験だったらしい。


「アッシュさんはいません……」


 私が呟くようにそう口にすると、男たちはほっとしたように安堵の息を吐き出した。そして、私の足から血が出ていることに気が付くと、「おいおいおい」と慌てた様子を見せた。


「怪我してんじゃねぇか。痛くて泣いてたのか?」

「兄貴。オレは『魔術師と痴情のもつれがあって、寝巻のまま家を飛び出した説』を推しますぜ。だから泣いてたんだろ、クソアマ」

「でも、足も痛そうだろ」

「それはたしかに兄貴の言う通りっす」


「私のことは放っておいてください……。今、出せるお金はありませんから……」


 当たり屋二人組と話す気力など皆無な私は、よろよろと立ち上がろうとした。けれど、足裏をナイフで貫かれているかのような痛みが走り、「うっ」と呻き声を漏らして再び蹲ってしまった。冷たい汗が噴き出し、浅い呼吸を繰り返すが、痛みはどこにも逃がすことはできなかった。


(痛い……。でも、体の痛みなんかより……)


 ぽろぽろと大粒の涙をこぼす私を見て、男たちはたいそう狼狽えた。「やっぱ足が痛ぇんだろ!」、「ってかオレらが泣かせたみたいになってません?」などと、私を囲むようにしておろおろとしている。

 次第に他の通行人たちが何事だろうと足を止め、小さな騒ぎが起きかけた時だった。


「おー、おー、厳ついのが若い女の子に絡んでんじゃないよ。とっととお家に帰んな」


「げっ! なんでアンタが……!」

「兄貴、逃げやしょう! おい、クソアマ! ちゃんと手当してもらうんだぞ!」


 ある男性の登場で震え上がった当たり屋二人組は、私の心配をしながら走り去っていった。


「よ。ゴロツキに囲まれてるお嬢さんがいるかと思えば。【スパイス食堂】のフィーナちゃんじゃない?」


 聞き覚えのある男性の声。街灯の薄明かりに照らされたその人は、私を見下ろしながら、目を丸くして、「やっぱり」と顔を綻ばせた。


「ヴェルファさん……」


 私がくぐもった声で名前を口にすると、ヴェルファさんは腰を落とし、眉尻を下げて私を見つめた。


「俺の街で泣いてる女の子はほっておけないよねー。だいじょぶ、嫌がることは絶対にしないから」


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