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4:毒舌嫌味製造機

 起き抜けにストーカーの容疑をかけてきた白髪イケメンは、もがもがともがきながら絡まる毛布から抜け出してきた。

ちょっと芋虫みたいで笑いそうになったが、私はぐっと我慢して、ついでに彼の無礼もぐぐっと我慢して平静を装う。


「私は通りすがりの者で、あなたが倒れていたので、ここに運んだんです。仲の良い婚約者もおりますし、決してストーカーではありません」


「嘘くさいな。君みたいな若い女の子が迷いの森を通りすがるなんてオカシイでしょ。もう少しマシな言い訳できないの?」


 いや、全部真実なんですが。

 私はムッとしてそう言い返そうとしたが、イケメンは毒を吐き過ぎて眩暈がしたのか、くらりとソファに座り込んだ。相変わらず顔色は真っ白で、室内なのに吐息が白い。体調が悪そうなことだけは一目瞭然だった。


「チッ。寒いな……」


 毛布を手繰り寄せながら、イケメンは割れた(私が割った)窓ガラスを見て「は?」と言わんばかりの表情を浮かべる。

 言いたいことは分かる――ので、言われる前に私は先手を打つことにした。だって怒られたくないんだもの。


「そうだ! 何か温かいものを良ければ召し上がりませんか? 私、料理が得意なんです!」


 名案を閃いた私。イケメンが眠っている間にキッチンの設備は一通り確認済みだった。ほとんど使われていないのか、調理器具も設備も新品さながら。しかも、田舎ではなかなかお目にかかることができない、三口魔道コンロと井戸から水を転送する魔道蛇口が付いていた。どちらも帝国で導入されたばかりと噂の最新式だ。


 だがイケメンは「いや……。初対面の子の手料理って……」と、明らかに嫌そうに眉根を寄せた。まぁ、常識的な感覚かもしれないが、はっきりと口に出して言うのはどうかと思うよ。しかし、私だって引き下がる気はない。


「すぐ作ります。いいえ、むしろ作らせてください! 最新設備でお料理できる機会なんて、またとありませんし‼」


「最新設備? 二年くらい前から出回ってるよ」


「都会のお貴族様と一緒にしないでください。ここのキッチンであんなスパイス料理やこんなスパイス料理が作れたら……。あぁ……。想像しただけで心拍数急上昇です……!」


 ドックンドックンと高鳴る私の心臓。スパイス料理のことを思うと、震えるほどビートして、もう料理したくてたまらない。もしわくわく感に形があるならば、ポップコーンのようにポンポンと元気に弾け飛んでいるような気がする。


「スパイス料理?」


 私が一人で盛り上がっていると思いきや、イケメンも気になっていたらしい。形のよい顎に綺麗な長い指を添え、「ふぅん」とちょっと考え込む仕草をしている。画になる。多分、この瞬間を写真機で映してブロマイドにしたら荒稼ぎできるくらいには、彼は格好良い。ルゥインの滲み出る優しさオーラには太刀打ちできないが。


「じゃあ、作ってよ。ソレ。材料は僕が提供してあげるからさ」


 イケメンはきょろきょろと周囲を見回し、ローテーブルの上に自分のショルダーバッグを見つけると「あったあった」と中を覗いた。ついでに「財布は触ってないようだね」と失礼な言葉を添えて。


「何がいる? 突飛なものじゃなければ持っているよ」


「え……。なら、鶏肉とトマトと玉ねぎはありますか……?」


 そんなお洒落な小さいバッグに生肉が……?

 バカなと私が目を凝らして見守っていると、イケメンはひょいひょいとバッグから指定した食材を取り出したではないか。ちなみに鶏肉は魔法で氷漬けにされていた。


「すごい! ほんとに出てきた!」


「お節介なトモダチが食え食えって押し付けてくるんだよ」


 イケメンはやれやれと肩を大袈裟に竦めながら、目をまん丸くして驚いている私を満足げに眺めていた。


「いい反応。僕が作った魔法具――マジックバッグだよ。無限収納できて、僕が念じたら取り出せる。ただし、食品の賞味期限には注意がいるけどね」


 ニヤニヤと自慢げな笑みが鼻につくが、たいそうな代物を見せてくれたものだ。

 私は男爵家の生まれだが、下級貴族では魔法具などまず手に入らない。ましてや魔法具を作ってしまえるなんて、このイケメン、いったい何者――?


「君の料理が美味しかったら教えてあげるよ。僕が何者なのか」


 私の心を読んだかのようなタイミングでそう口にした彼は、クククと喉を鳴らして笑った。

 つい先ほどまで毛布でぐるぐる巻きだったくせに、とても偉そうなイケメンだ。私は思わずムッとしてしまい、絶対美味しいと言わしめてやるぞと意気込んでキッチンに入っていった。


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