3:ストーカー疑惑
こぢんまりとした民家の前に倒れている、謎の白髪イケメン。
白髪というより白銀? というべきか。なんだかキラキラした綺麗な髪色だ。私の髪は褪せた金色なので、なんとも羨ましい。
私はまず生存確認をすべく、彼の前にしゃがみ込んで声をかけてみた。
「こんばんはー! 大丈夫ですかー?」
返事がない。ただの屍の可能性がある。
今度は勇気を持って、自分の手のひらを彼の口元に近づけてみた。すると、やたらと冷たい息がわずかに吐き出されていることが分かり、彼が生きていることを確認できた。
ていうかどうして息が冷たいんだろう? 口の中に氷が? それともイケメンな雪男? いや、さすがにそれはないか……。
私は首を傾げながら、うつ伏せの彼を「よいしょっ」とひっくり返した。細身だが長身なので、ちょっと重たい。衣服はやたら手触りのいい高級そうな布でできており、魔力の込められたアクセサリーや外套もあることから、おそらく魔法職の上級貴族だと思われる。いったいなぜ迷いの森なんかに貴族が……。あっ、これは私にもブーメランが飛んでくるやつだ。
とにかくこんな森のど真ん中で放置するわけにはいかないので、私は彼を目の前の民家に運び入れることにした。
幸か不幸か民家には人がいないようだったので、私は窓ガラスを手ごろな石で割って窓の鍵を開け、そこからお邪魔し、内側からドアを開錠した。泥棒みたいだなんて言ってはいけない。人命救助なんだから!
◆◆◆
「よし……っ!」
私は室内を見渡して、気合の入った声を上げた。
窓に穴を開けてしまったので、暖炉に薪を多めにくべ、火を点けて、ようやく室内が温まってきたところだ。一仕事終えた私は、なかなかいい家だなぁと、数秒間だけ思いふける。長く使われていない空き家かと思いきや、まったくそうではないらしく、室内はとても清潔だった。一階には居間とダイニングキッチン、バスルームがあり、二階には殺風景なベッドルームと空の部屋が二つ。なんとなく家の外観よりも部屋数が多いような気がするが、とにかく住みやすそうな良物件だ。ただし、最寄りの町からのアクセスは最悪だし、周りにお店一つないのは大問題だけど。
そんな謎家に来て、私にできることはすべてやった。
暖炉の前で呆けていた私は、ちらりと後ろを振り返る。
「イケメンは毛布でぐるぐる巻きになってもイケメンだわ」
うん、と頷く私。
ずるずると引きずって室内に運び入れた白髪イケメンは、本当はソファに寝かせてあげたかったが、持ち上げることができなかったので、申し訳ないが床で寝てもらった。二階で見つけた毛布を体に巻きつけてあげたので、そこから優しさを感じ取ってほしい。
後はイケメンが目覚めるのを待つしかないのだが、なにせ、彼の体がなかなか温まらないのだ。よほど長く寒い場所にいたのか、全身が冷え冷え。顔色も真っ白。息も相変わらず冷たい。
もしかして、もう手遅れなのだろうかと息苦しい不安が押し寄せてきた時だった。
「ん……」
イケメンの瞼がぴくりと動き、ゆっくりと持ち上げられた。白くて長いまつ毛に縁取られていたのは猛禽類を思わせる金色の瞳で、焦点の合わないらしい視線がゆらゆらと私の姿を捉える。
その美しさに私はハッと息が……いや、時間が止まったかのような感覚を覚えた。こんなに綺麗な男の人、私見たことない……と、言葉を失ったまま彼に見惚れてしまう。美の神様ですと言われたら、「なるほどたしかに!」と即頷くと思う。
そして、ポーっと呆けていた私に美の神様は言った。
「うわっ、誰⁉ え? 僕、拘束されてる⁉ 君、僕のストーカーか何か⁉」
(うん! だいぶ失礼な人だった!)