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2:迷いの森の行き倒れ

ヒーロー登場回です!

 最近の地図には、はっきりと『迷いの森』と記されるその場所は、一歩足を踏み入れたら最後。二度と日の光を拝むことができないと噂の危険な森だというのが、王国と帝国両国民の認識だった。


 馬車のおじさんからは「お嬢ちゃん、正気かい? 頭がおかしいんじゃないのかい?」と、再三失礼な言葉を掛けられた。まぁ、心配してくれているみたいなので、それはいいとして。


 ザクト王国からロムルス帝国に行くには、航路を使うという手もある。けれど、この季節の海は荒れていて、まともに運航している船など一艘もないと聞くので、今の私には陸路である迷いの森を突っ切る他ない。ルゥインと結婚するために、絶対にあの家に連れ戻されるわけにはいかないのだ。


(大丈夫。ずっと東に歩き続ければ、半日で帝国に出られるはずだもの……!)


 私はごくりと生唾を飲みくだす。

 迷いの森の入口には侵入を禁ずる看板が散々立てられていて、それだけでも物々しい雰囲気が満ち満ちていた。いったいどれだけの人が行方不明になったんだろう。想像するだけで背筋が寒くなるが、ここで臆するわけにはいかないと、私は寧ろずんずんとスピードを上げて森の中へと踏み入った。


「よーしっ! 頑張るぞ~っ!」


 私は張り切って森を進んだ。

ルゥインに再会したら、何の料理を作ってあげようか。スパイスとハーブで臭みを消した肉料理、……魚もいいな。西の国のホッとなスープも捨てがたいし、スパイスがピリリと効いたお菓子も食べてみてほしいし……。


 そして、二日経った。


(こ……困ったわ……。迷ってる……。遭難、してる……)


 そうなんです。あぁ、疲れすぎてしょうもないことが頭をよぎってしまった。

迷いの森の名は伊達ではなかったわけで。持参した方位磁石の針はぐるんぐるんと回り続けていて使い物にならないし、木にナイフで刻んだ目印も魔法のように秒で消え、地面に落とした光る石は勝手に転がり出してしまう恐ろしい仕様。これにはヘンゼルとグレーテルもびっくりして泣き出すと思う。というか、私が泣きそうだ。


(地図で見てた距離だと、半日あれば十分だと思ったのに……。もう食べ物も水も底を突いてしまう……)


 気が付けば真夜中。昼間よりもいっそう暗く、幽霊でも出そうな湿った空気が森中に漂っている。昨夜は初日のテンションで乗り切ったが、今夜は普通に心細いし身の危険を感じる。というのも、どこからか狼の遠吠えのような獣の声が聞こえて来ているのだ。一人で野宿なんて、とてもできない。


 私はルゥインに会えないまま、森で一人寂しく餓死してしまうのだろうか。そんな悲しい終わり方したくない。最低でもルゥインに看取られたいし、欲を言えばルゥインに看取られたいのに。どうにか出口を見つけないと……。


 光の入らない深い森を見渡せども、一向に出口は見えてこない。闇雲に歩き続けた結果がこれなのだから、どう足掻いても無駄なのではと、思わず足を止めそうになる。


「……ん?」


 諦めなくてよかったと心の底から思った。私は不意にひんやりとした風を感じたのだ。身の引き締まるような冷気が森のある方角から漂っていて、私はそれが出口から吹き入る風だと確信した。


(良かった! 私、ちゃんと出口に向かって歩いてたんだ! これでようやく外に――!)


 私は疲れを忘れて走った。走って、走って、少し休んでまた走って、そして見つけた。


「イケメンが家の前で行き倒れてる……」


 そこは迷いの森の出口などではなかった。

 深い深い森のど真ん中。こぢんまりとした民家の前に冷気を纏った謎の白髪イケメンが倒れていた。


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