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19:どこにいる?

たんぽぽ茶編スタートです!よろしくお願いします。

 迷いの森にいながら、帝都で店を開く不思議な生活にもようやく慣れて来た。

 初めは夜の営業に体がついていかず、眠気や怠さを感じる日もあったが、今では生活リズムを掴んで体調も絶好調だ。

 常連さんも少しずつ増えて来て、昨夜は騎士の青年ハンスさんの昇進祝いということで、同僚の人たちと一緒に来店してくれた。せっかくなので、私は買ったばかりの大鍋でサフランと《パプリカパウダーをたっぷりのパエリア》を振る舞い、わいわいがやがやと楽しく盛り上がった。


 そして昼時間だが、本業の昼休みと夜営業の時間にしか現れないアッシュさんと一緒でなければ、帝都に行くことが許されなかった私だが、最近やっと一人での外出が解禁された。帝国のモノの相場や、治安の悪い区域、おすすめの商店といった知識をアッシュさんから伝授され、晴れておつかい免許を得たわけだ。


(アッシュさんとのタイムアタックショッピングは忙しかったからなぁ。一人でじっくり買い物ができるのって嬉しい)


 思わず足取りが軽やかになるのは、帝都の市場の品ぞろえが非常に優秀だからだ。

 さすがは大陸一の国の都とだけあって、帝都には広大な国土や海で収穫される様々な農作物や畜産物、海産物、そして見たこともないような異国の品が集まってくる。

王国の片田舎ではまずお目に掛かれないものばかりで、私は市場を歩いているだけでわくわくが止まらない。


(アサリ! いいなぁ。セロリと一緒に酒蒸しにしたい……。トウフ……? 淡泊なお味なのかな……。ピリッとしたスパイスで調理してみたいな~!)


 昼下がりの帝都に来ては、こんな具合にあっちこっちの店を見て、まだ見ぬスパイス料理に想いを馳せた。

 一人で興奮している私が目立っていたのか、市場の商人たちもだんだん私のことを覚えてくれるようになり、一週間ほど通い続けた頃には「【スパイス食堂】のお嬢さん」と、名前を言ってもらえるようになった。目標は「【スパイス食堂】のフィーナさん」と呼ばれることだ。


 王国の実家にいた最後の二年余りの事を思うと、今の生活はとても楽しくて仕方がない。私は当時もスパイス料理に没頭していたのだが、家族もご近所さんも、いつも私に痛々しそうな視線を向けていたのだから。


 彼らが今の私を見たら、きっと驚くに違いない。「【スパイス食堂】のお嬢さん」は、(アッシュさんから許される範囲で)自由で、健康で、そしていつも笑顔で楽しくスパイス料理を作っている。お客さんからの評判も上々で、徐々に売り上げだって伸びてきているし、毎日文句を言いながらやって来るアッシュさんとは言い争いが絶えないが、なんだかんだで仕事ができる良いオーナーだ。


 このまま頑張れば、順調に結婚資金が貯まるはず……。

 けれど、唯一上手くいっていないことは、肝心の結婚相手であるルゥインの居場所が分からないことだ。


 私は帝都の商人たちにルゥインについての聞き込みを行ったが、一兵士のことを知る人などまずいない。それどころか、「戦争は二年前に終わったよ」という衝撃の事実を聞かされることになった。


「戦争が終わってる? でも、彼からの手紙には、“今、頑張ってる”って……」


「戦地から届く手紙は、時差がつきもんさ。魔獣戦争は二年前、連合国軍の大魔術師アシュバーン様が終結させてくださったんだ。お嬢さん、知らないのかい?」


 顎鬚の素敵な商人さんは、じょりじょりと顎鬚を撫でながら、そんなことを教えてくれた。

すみません、こちら王国の田舎者なもので……という言葉を飲み込んだ私は、商人さんに丁寧にお礼を述べると、ショックを消化しきれないまま、迷いの森の【スパイス食堂】に帰宅した。


(もう戦争は終わっていた……。大魔術師うんぬんはどうでもいいけど、ルゥインは今、戦地で戦ってるわけじゃないんだ……)


 商人さんの言う通りの手紙の時差か、それとももしやザクト王国の情報統制か……? 真相は分からないが、ルゥインが現在無事なのかどうかが最大の問題だ。終戦から二年も経っているのに一向に故郷に帰って来ない理由を想像すると、不安で仕方がない。


(ルゥイン……、どこにいるの……? 私、あなたを迎えに来たのよ……)


 今夜はデリバリーの注文が入っているので、少し早くから料理の準備が必要だった。だから前倒しで仮眠を取ろうといそいそとベッドに潜り込むが、頭の中がルゥインの事でいっぱいで、とても眠れる気分ではなかった。


(もしルゥインの身に何かあったら、私は生きてる意味もなくなるのに……)


 今考えたってどうしようもない。彼の安否を調べる方法を探すのは、閉店後だ。

 私はこれまで届いたルゥインからの手紙を何度も何度も読み返し、少し書き物をして心を落ち着けると、ようやく浅い眠りに落ちたのだった。



◆◆◆

 その夜十一時頃のこと。

 私が騎士の駐屯所に料理を届けて戻って来ると、出た時にはいなかったアッシュさんと、若い女性が店内にいた。驚いたことに、なんと女性はまだ首も座っていなさそうな赤ちゃんを抱いているではないか。二人はテーブル席に向かい合って座っていた。


「赤ちゃん⁉ まさかアッシュさんのお子さんですか⁉」


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