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女装魔法使いと嘘を探す旅  作者: 海坂依里
第4章「死別の涙を拭う偽魔女」
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第8話「偽魔女は再び夢を見る【偽魔女視点】」

 鉄格子の向こうに広がる空は重苦しいほど暗い色を帯びていて、私に居場所を与えてくれたスプーストで見上げた空の色に似ているなと思った。


「元気にやっていますか」

「カトリスさん……」


 スプーストで犯した罪を償っている最中に、魔女のカトリスさんが私に会いに来てくれた。

 魔女は、偽魔女を逮捕して終わり。

 そう思っていたのに、カトリスさんはわざわざ犯罪者の話し相手に訪れる。


(変わり者なのかな……)


 カトリスさんは、変わり者なのか。

 魔女として、相応しい行いをしたいだけなのか。

 それは私に判断できることではないけど、両親を失った私に言葉を交わす相手がいてくれる。

 その幸福を、私は噛み締めるようになっていく。


「あの、稼いだお金は……」

「被害者のみなさんの元に、無事お返ししました」

「良かった……」


 魔法学園に復学するための学費を稼いでいたこともあって、故人の幽霊に会いたいと願っていた人々からいただいたお気持ちにはほとんど手をつけず。

 寝る場所と食べる物を確保するためには使わせてもらったけど、ほぼ手つかずのお金は元の持ち主の元へと返っていったと聞いて安堵する。


「被害者といっても……」

「どうかしましたか?」

「被害届は出されていませんけどね」


 スプーストで私を必要としてくれた人たちは、優しすぎる。

 優しすぎるから、私に利用されてしまう。

 私がいなくなったあとも、悪徳霊媒師とかに騙されてしまうかもしれない。


「誰も、アリザさんの魔法で傷ついていないということです」


 そんな心配をしてしまうくらい、私は優しい人たちに囲まれながら日々を過ごすことができたということ。

 被害届すら出さない優しい人たちの笑顔が脳裏を過って、泣く資格もないのに涙腺が緩んでしまいそうになった。


「釈放は早そうですね」

「そう……だといいんですけど」

「被害届は1件も出ていないので、心配なさることもないかと」


 カトリスさんの声で奏でられた、心配という言葉。


(カトリスさんは、私の将来を心配してくれてるってことかな)


 私の未来を案じてくれる人と出会うことができるなんて、私の人生は意外と幸運に包まれているのかもしれない。


「魔法学園を、途中で辞めることになったと伺っています」

「学費を払えなくなりました」


 両親が亡くなったこと。

 魔女試験を受ける前に、学園を辞めなければいけなかったこと。

 魔法学園を辞めたあと、酷い雇用主の元で働いていたこと。

 まったくの赤の他人であるカトリスさんに、自分の身に起きた出来事を事細かに話した。


「大変でしたね」

「大変なんてものじゃなかったです」


 幻影で作り上げた、お母さんとお父さんとは会話ができなかった。

 そのせいもあって、私の口はカトリスさんの時間が許す限り動き続けた。

 話し相手ができたことが嬉しかった私の口は、止まるという言葉を知らないくらい話を続けてしまった。


「魔女試験は人生に1度しか受けることはできませんが」


 カトリスさんは、私の専属魔女様ではない。

 何かの用事を済ませるついでに、私の元を訪れてくれているのだと思っていた。


「魔女試験を受ける前に学園を辞めたアリザさんには、魔女試験を受ける資格があります」


 国中から絶大な信頼を集める魔女様が、たった1人の少女()を気にかける余裕も時間もない。

 そんな風に思っていたのに、私の目の前にいるカトリスさん(魔女様)は違った。


「もう1度、魔法学園に復学してみませんか」


 それは、かつて私が抱いた夢。

 でも、その夢を叶えることは許されない。


「私は犯罪者……ですよ……」


 私は魔法の力を、人を不幸にするために使ってしまった。


「罪を償ったあとの話です」


 世界は、優しくできていない。

 刑務所を出たあと、私は故郷に戻って奴隷のように扱われていくものだと思っていた。

 それが、魔法を使って人を傷つけた罰だと思っていた。


「幻影を幽霊だって嘘を吐いて、それでお金を……」

「その嘘を、必要としてくれた方たちがいましたよね」

「…………」


 居場所を失った人間が抱く夢なんて、その程度のもの。

 生きているだけで幸せなんだから、犯罪者が贅沢な夢を抱いてはいけないと思っていた。


「罪を償って、自分の手でお金を稼いで、もう1度魔女を目指してみませんか」


 魔女ではない私が、好きな商売でお金を稼いでいくことは難しい。

 でも、魔女の資格を得た私なら、自分が得意なことを仕事にできる。

 魔法の力を使って、お金を稼いでいくことが許される。


「将来的にはアリザさんの魔法を、スプーストを訪れる人たちのために使えるように」


 2度と戻ることができないと思っていたスプーストの街。

 でも、私の魔法を必要としてくれる人がいるのなら、その人たちのために頑張りたい。


「もちろん、再びアリザさんが必要とされるかは……やってみないと分かりませんが」


 カトリスさんは困ったような表情を浮かべて、私が再び歩み出す道が険しいことを伝えてくれる。でも、私は、私を必要としてくれる人たちを笑顔にするために。もう1度、魔女を目指してみたい。


「……よろしくお願いしますっ!」


 天国にいるお母さんとお父さんが私の幸せを祈ってくれているから、こんなにも私は優しい人たちと出会うことができたのかな。


「今度こそお母さんとお父さんに、私の成功した姿を見てもらいます」


 もっと魔法の質を高めて、故人と再会したいと思っている人たちに必要としてもらえるように。


「あとは……人を傷つけない魔法を使えるようになりたいです」


 嘘の魔法で騙してしまった彼女。

 嘘の魔法で、心の傷を負ってしまった彼女。

 いつか、いつかは彼女に謝りたい。

 守ってあげられなくて、ごめんなさい。


(でも、魔女になった私なら……)


 あなたを守るために、魔法が使えるってことを証明したい。

 許してもらえなくても、認めてもらえるように、私は幸せの魔法を提供したい。






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