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女装魔法使いと嘘を探す旅  作者: 海坂依里
第3の事件『死別の涙を拭う偽魔女』 第2章「見えないはずの幽霊が見える街」
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第4話「守るべき存在」

「っ」


 何も起きなければ、綺麗に結われているはずの三つ編み。

 三つ編みが乱れていることなんて、ジルナにとってはどうでもいい。

 大切な家族を見つけることができたジルナは、真っ先に妹のルナへと駆け寄るものだと思っていた。でも、ジルナの表情には見てはいけないものを見てしまったときのような、もの恐ろしさが表れていた。


「大丈夫ですか」


 ノルカがジルナへと駆け寄り、声をかける。

 でも、ジルナにノルカの声が届いていないのは明白。


「なんで……なんで……!」


 ジルナが、ルナが望んだ幻に向かって大きな声を上げる。

 静寂という言葉が相応しいスプーストの街で、子どもが大きな声を上げれば人が集まってくる。墓参りに来ていた人たちが、何があったのかと野次馬精神で駆け寄ってくる。


「おねえちゃん……?」


 アリザに願いを叶えてもらったルナが『お姉ちゃん』と呼びかけながら、混乱状態に陥っているジルナへと寄り添う。

 ジルナは妹のルナを強く抱き締め、アリザが作り出した幻からルナを遠ざける。


「ママとパパがね……」

「やめてください! そんなもの見せないでくださいっ!」

「おねえちゃ……」


 ジルナが叫ぶと、この場にどんどん人が集まってくる。

 それ自体は何も問題ないと思っていたが、人が集まることでもう1つの事件が発生する。


「霊媒師様……」

「アリザ様だ……!」


 墓参りに来ていた人々は叫び声を上げていたジルナではなく、この場にいたアリザへと注目を寄せていく。


「あ……みなさん、落ち着いて……」

「これが、私のお気持ちです!」

「お気持ちを受け取ってください! 故人に会わせてください!」


 アリザは身長も低く、小柄な体型をしていることもあって、人々に集られるだけで身動きがとれなくなっていく。


「偽物……あの人は偽物……」

「みなさん! 落ち着い、て、くださ……」


 現実を受け止めきれないジルナと、街の人たちに飲まれていくアリザ。

 2つの出来事が同時に起きている中、優先すべきは混乱しているジルナをなんとかすること。

 そう結論が出る頃には、ノルカの感情魔法が発動していた。


「はぁ……はぁ……みなさん、落ち着いて……」

「そ……そうだぞ! アリザ様に失礼だろ!」

「霊媒師様、お怪我はありませんか」


 俺がノルカの魔法に助けてもらったときのように、アリザに集っていた人々が次々と落ち着きを取り戻していく。

 人々はアリザを押し潰さないように適度に距離をとって、アリザが無事かどうかを確認する。


(ジルナは……)


 ノルカが発動させた魔法は、感情を抑えるためのもの。

 俺が何か手を出さなくても、ジルナは落ち着きを取り戻しているものだと思っていた。


「おねえちゃん……おねえちゃん……」


 ルナがジルナの体を揺さぶるが、ジルナに妹の声は届いていないみたいだった。

 ノルカの感情魔法で荒れた感情は収まったとしても、両親の幻を見たのはジルナにとって相当な衝撃だったことが伝わってくる。


「その霊媒師は、偽物です……!」


 ジルナは妹を外敵から守るように、しっかりと抱き締める。

 ここにジルナと妹を攻撃する人間はいないはずなのに、ジルナは妹を抱き締める腕にしっかりと力を籠める。ジルナの虚ろな目は、憎しみを帯びた瞳へと変わった。


「何を言っているんだ?」

「霊媒師様が偽物のわけがないでしょ?」

「私たちの父と母は生きているんです! 死んでなんかいません!」


 街の人たちがノルカの感情魔法で落ち着きを取り戻し、ジルナの言葉がきちんと耳に届くようになってしまった。

 それは本来ならばいいことのはずだけど、アリザの信者たちにジルナの言葉を届けてはいけなかった。


(ルナは、両親と離れ離れになった意味を理解してなかった)


 ジルナたちは児童養護施設で暮らしていて、そこには両親を亡くした子どもたちもいる。

 ルナは自分の両親も亡くなったものだと勘違いして、アリザに依頼をしてしまった。

 おかげでアリザが偽物だということが証明できたけど、街の人たちはジルナの主張を聞き入れてはくれない。


「あなたの両親、もう亡くなっているんじゃないの?」

「本当です! 生きているんです! 信じてくださいっ!」


 ジルナの正しさを証明するために、ノルカが輪の中に加わろうと動き出す。

 声を出すことができない俺は、ジルナを見守ることしかできなかった。

 魔法の力を求めている人たちに手を貸すために、魔法学園を出たあとも女装を続けている。

 その選択に後悔はないはずなのに、今必要とされているのは声を出せない俺ではなく、声を出すことのできるノルカだった。


「その霊媒師が偽物というのは、本当です」


 ノルカがジルナを庇うように前へと出て、街の人たちに真実を告げる。

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