第1話「子どもたちが望むもの」
「みんなでね、児童養護施設で一緒に暮らしてるの」
ジルナよりも更に年齢が低そうに見える少女が、幼い子ども2人の面倒を見ながら募金活動を行っていた。
(ってことは……ジルナの探し人は、この子たちか)
魔法使い特有のローブを着ているおかげで、子どもたちは何も警戒することなくノルカに話を聞かせてくれる。
魔女と魔法使いの見分けがつかないのも、たまには役に立った。
「霊媒師さんに、もっとお金をちょうだいって言われたりしてない?」
俺たちとは反対の方角に歩いて行ったジルナたちは、ハズレの道を選んでしまったらしい。
「アリザちゃんはね、お気持ちでいいって」
「おきもち、おきもち」
幼い子たちは年長者の少女の発言を復唱しながら、足をばたばたとさせて暇を潰していた。
「まじょさんは、パパに会わせてくれる?」
子どもたちだけで暇を潰してくれたら良かったのに、子どもたちの好奇心は予想を遥かに超えた旺盛さで襲いかかってくる。
「まほうの力で、なんでもできるのが、まじょさまっ!」
無邪気に話しかけてくる子どもたちが俺のことを慕ってくれて、長年の女装魔法使い生活が報われたって喜びたい。
子どもたちの質問にはなんでも答えてあげたいとすら思うけど……。
(声が出せないんだって……!)
子どもたちが落ち着くように、子どもたちの頭を撫でるくらいのことしかできない。
暇を持て余した子どもたちに集られながらも、助けてくださいという視線をノルカに向ける。
「ねえ、ねえ、まじょさん」
「お話ししてっ」
けれど、ノルカは困り果てている俺のことは完全に無視。
俺は子どもたちの対応に追われながら、ノルカは少しでも情報を得るために会話を先へと進めていく。
「最近、アリザちゃんが人気すぎて……」
「依頼を受けてもらえないってこと?」
「うん……」
故人に会いたいと募金活動を呼びかけている人たちが、熱心に取り組んでいること。
それはジルナが言っていた通り、故人と再会するために霊媒師に協力を得るというものだった。
スプーストの中心にそびえ立つ魔法樹の根元に置かれている木箱に、再会したい開したい故人の写真と霊媒師へのお気持ちを納める。
その依頼を受けたアリザが、故人と再会したいという願いを叶えてくれるという仕組みらしい。
(写真が必要、待機者が増えている……)
霊媒師が、魔法を使っているかもしれない証拠が次々と出てくる。
自分が知らないものを具現化することはできないから、写真が必要。
魔力が枯渇すると記憶を失うってことを考えると、1日に受けることができる依頼数は限られてくる。日に日に霊媒師を頼る待機者の数が増えているのも納得がいく。
「1番にしてもらうために、い~っぱいのお金がほしいの」
「ゆーせんっ!」
「い~っぱい!」
魔女試験の追試験者には、この地域にこんな噂があるというリストが配布されている。
その中から、スプーストでの幽霊の目撃情報を選んで、墓掃除の求人に応募したっていう流れまでは良かった。
「それで、大金を投じた方は優遇されているのかな?」
「ううん、順番にねって言われちゃう……」
「じゃあ、どうして……」
「みんながやってるから……」
でも、肝心の霊媒師に関する悪い噂を聞くことができない。
「お金をいっぱい払えば、アリザちゃんが順番を変えてくれるんじゃないかって……」
「かえてもらうのっ」
ルアポートを騒がせていた黒猫と同じで、悪さをしているかどうかも分からない霊媒師を追求するわけにもいかない。
(アリザが大金を求めてるわけじゃないもんなー……)
霊媒師が大金を寄こせと無理を強いているのなら問題でも、今回はそういうことじゃない。
みんながみんな、霊媒師に優先してもらいたいがために行動しているだけのこと。
「みんな、フラ様よりもいっぱいのお金がいるって……」
「フラ様って?」
「うんとね、おかねもちの、おじょーさま?」
むしろ霊媒師が悪いんじゃなくて、ここで初めて出てきたお嬢様とやらが募金活動の元凶なのではないかと思ってしまう。
(どーせ、金の力を見せつけてるんだろうな)
フラお嬢様が原因で、お金に困っている人たちは募金という名の恵みに頼らざるを得ない。
働きに出ている人は、働いても働いてもフラお嬢様の財力には敵わないという現実を見せつけられているってことらしい。
「あ」
児童養護施設の子どもたちが何かを見つけ、声を上げる。
視線の先にいたのが誰かなんて尋ねるまでもなく、色彩のない街で華美な服装をしている女性が大勢の取り巻きを引き連れて現れた。
路地が狭いスプーストでは、大好きな馬車に乗ることもできないらしい。
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