第3話「行き過ぎたお気持ち」
「あの霊媒師さんが、どうかしましたか?」
「故人の写真とお気持ちを持っていくと、故人と再会できるっていう商売をされているんです」
ジルナの呆れたような視線は冷たい視線へと変わり、霊媒師を快く思っていないことが伝わってくる。
「私は、そんなに良くないと思っているんです」
「ああいう商売をされると、故人も休む暇がなさそうですね」
「故人への冒涜ですよ……」
祖父母の墓参りをするために訪れたジルナは、16歳の俺たちよりも年下っぽい見た目。
ジルナとルナは、更に年齢が離れている。
姉妹が再びスプーストでさ迷ってしまわないように、俺たちは駅まで見送るために一緒に墓場を離れた。
「私たち、児童養護施設で暮らしているんですけど」
駅に着くまでの間の世間話は明るいものにはならず、ジルナは霊媒師を見かけたときと同じく不機嫌そうな雰囲気をまといながら話を続ける。
「両親を亡くした子どもたちが、霊媒師を慕ってしまって困っているんです」
「子どもたちも寂しいんだと思いますよ」
「いくら寂しくても、やってはいけないこともあって……」
幽霊街スプーストは曇り空の日が多く、土地のほとんどを墓地が占めている。
寂れているって表現はしたくないけど、派手さが存在しない街で声を張り上げている人たちがいる通りへとやって来た。
「どうか、どうか、ご協力をお願いいたします!」
活気ある呼びかけに、ジルナの声はあっという間にかき消されてしまう。
「故人と再会するために、どうか、どうかお力を貸してください」
「よろしくお願いたします!」
「よろしくお願いしますっ!」
数を数えるのも面倒になりそうなほどの人たちが小さな木箱を持ちながら、『お願いします』という呼びかけを復唱している。
「魔法使いさん、関わらない方がいいですよ」
「え……」
ジルナの呼びかけは、ほんの少し遅かった。
「そこの魔女様、どうか私たちにお恵みを!」
「お恵みを!」
「お恵みをっ!」
魔法使いが着る機会の多いローブというものは、時に厄介事を招く。
俺たちは魔女でもなんでもない、ただの魔法使い。
でも、一般人には魔女と魔法使いの区別がついていない。
俺とノルカは魔女だから、金がいっぱいあるだろうって目で見られているってことになる。
「私たちは!」
ノルカは、身分を証明するために大きな声を上げる。
「魔女ではなく、魔法使いです!」
魔法を使うことのできない一般人は、魔女と魔法使いの区別ができない。
魔女の資格を持っている人だけに与えられるバッチなんて、あってもなくても一般人には関係ないということ。
「魔女様は、ご冗談がお上手ですね」
「…………」
魔法の力で金稼ぎができない俺たちが、はっきりとしない目的のために募金をしている余裕があるはずもない。
そんな俺たちを庇うように、ジルナは果敢に俺たちと募金活動をしている人たちの間に入ってきた。
「募金は強要するものではありませんよ!」
ジルナの勢いに押された募金活動者たちは、何度か瞬きをして黙り込んでしまった。
(正義感強っ)
これで、募金を強要していた人たちは引き下がっていく。
と、思いきや……。
「たまにお墓参りでお会いする方ですよね!」
募金活動を行っていた女性がジルナの手を、がしっという効果音がつきそうなほど強く握り締める。
「あなたも、お金に困っていらっしゃるのでは?」
「行き過ぎたお気持ちは、故人も困惑するだけですよ」
「最近の霊媒師様は多忙すぎて、なかなか順番が回ってきませんからね」
ジルナの言葉など聞く価値もないかのように、ジルナの手を握りしめている女性はジルナを無視して主張を続ける。
「霊媒師様のお力を借りるには、多額のお金が必要です」
俺は、女装魔法使いだから口を開くわけにはいかず。
自由に口を開くことのできるノルカは、女性の長々とした主張に開いた口が塞がらない様子。
ジルナは自分の主張を通したいにも関わらず、聞く耳を持ってくれない大人たちに歯痒い想いを抱いているみたいだった。
「より多くのお金を積んで、優先順位を上げてもらいましょう」
まるで自分が素晴らしいことを述べたかのように満足いった表情を浮かべ、一緒に募金活動を行っている仲間たちは女性に拍手を送る。
「皆さん、あの霊媒師に騙されているんじゃないですか?」
呆然と立ち尽くすノルカと違って、ジルナは大人たちに果敢に向かっていく。
話題になっている霊媒師とやらは、墓場ですれ違った黒いローブで顔を伏せていた少女のことだろう。
その霊媒師に貢ぐための金が必要だという意見を、ジルナは真っ向から否定した。
「霊媒師様は何も悪くありません」
騙されている側の人間は、自分が騙されているなんて信じたくないだろう。
「アリザ様は、私たちのお気持ち程度のお金しか受け取りません」
アリザっていうのは、恐らく霊媒師の名前。
その、アリザという人間が本当にお気持ち程度の額しか貰わないのかって点も怪しい。
俺もノルカもジルナも霊媒師の世話になっていないから、霊媒師を一般人から金を巻き上げている悪党だと思ってしまうのも仕方がない。
でも、募金の活動者たちは霊媒師の世話になっているからこそ信仰心が高いのも頷ける。
「私たちと故人を再会させるために、力を貸してくださっているだけなのです」
信仰心の高い人に何を言っても、聞く耳は持ってもらえない。
この場から去るためにも、俺たちとジルナは1ネルだけを寄付して人々の機嫌をとった。
「ご協力感謝いたします」
募金をする際に、全員が同時に溜め息を吐いた。
溜め息を交えながら寄付を行ったことに、募金組織は誰一人として気づいていないだろう。




