表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装魔法使いと嘘を探す旅  作者: 海坂依里
第2の事件『命の価値を測る偽魔女』 第4章「偽魔女と黒猫の物語の終幕」
49/70

第1話「別行動【ノルカ視点】」

「なんなの、あの女装魔法使い……」


 アンジェルと意見が違えた私は、1人でルアポートの宿屋へと戻ってきた。

 部屋では、今回の事件の鍵を握る黒猫が安らかな寝息を立てていた。

 アンジェルの施した防御魔法で、主の命令は黒猫に伝わらない。

 主の命令なしに生きることができるはずなのに、黒猫は宿屋を抜け出すことなく体を休めるための時間を選択している。


「誰だって、尾行されるのは快く思わないはず……」


 奥さんを護衛するっていう気持ちは立派なものだと思うけど、私たちは奥様の私生活に関わってはいけない。

 そんな考えを持つ自分が間違っているみたいに、アンジェルは自分の意志を貫いた。


(アンジェルだって、誰かに尾行されたら自分の性別がばれるかもしれないのに……)


 尾行されることの危険や嫌悪の気持ちはアンジェルも理解していると思ったけれど、私の気持ちは彼には通じなかった。


(守れなかったのは、私も同じ……)


 噂通り、ルアポートの街に黒猫が現れた。

 でも、この国に何千匹存在するかも分からない黒猫を全て捕まえて調査することはできない。

 噂の中心になっている黒猫か判断できなかったから、私は黒猫のことを放置してしまった。


「透明化の魔法……」


 自分の体を透かして、周囲から存在を認識されなくなる魔法。

 尾行をするには最適の魔法だと思うけど、きっと私の体はアンジェルのように綺麗に透けることができない。


(人間の体が透けるなんて、あり得ない……)


 自分が、上手く魔法を使うことができない理由。

 それはきっと、自分が魔法の力を信じ切れていないからだっていうのは、なんとなく分かってる。

 魔法に関する膨大な知識があっても、できるわけがないっていう邪な気持ちは魔法を阻害してしまう。


「にゃぁ……」


 暖炉の傍でタオルに包まれている黒猫が声を上げる。

 私を励ますタイミングで鳴いてくれたと勘違いしそうになって、ほんの少しだけ涙腺が緩む。


「ありがとう」


 防御魔法がかかったままの黒猫は、主の命令なしに自由に動き回ることができる。

 まだ体力が回復していないのか、宿屋での生活が快適なのか、黒猫は体を横にしながら手足を伸ばして寛いでいる。


「いつまでも、この宿にはいられないのよ」


 黒猫にかけられている魔法は、恐らく精神干渉魔法。

 私が得意とする感情魔法の部類が黒猫にかけられているのに、術者本人でもない私が精神干渉魔法を解除することはできない。

 防御魔法がない状態でも主の命令を拒否できるようにしないといけないのに、今のところ防御魔法で命令を弾くことしかできない状況。


(このままだと、この子はいつまで経っても人間の奴隷……)


 黒猫の命を救うための魔法すら発動できないほど、自分は冷酷な人間だったのか。

 その問いに答えをくれる魔法学園の友人も同級生も、私にはいない。

 私の真面目さに呆れて、少しずつ少しずつ。みんなは私と距離を取るようになった。

 私の傍から、離れていってしまった。


「みゃ……」


 再び、黒猫が私を励ますために鳴いてくれたのだと勘違いしそうになった。

 暖炉の温もりに心地よさを感じていた黒猫に視線を向けると、黒猫の瞳がぱっちりと開いた。


「え……」


 体を休めることを選択したはずの黒猫は、体を起こして自分の足で立ち上がった。

 周囲をきょろきょろと見渡したあと、華麗に木製のテーブルへと飛び乗る。


(猫は気まぐれっていうけど……)


 暖炉の火を恋しそうに寝転がっていた黒猫はどこにいってしまったのかと思うくらい、部屋の中を活発に動く黒猫。


(主の命令が届いてる?)


 扉も窓も開いていない。

 でも、黒猫は諦めることなく、この部屋を出るための手段を懸命に探す。


(アンジェルに何かあった……)


 アンジェルがかけた、黒猫の防御魔法が解かれた。

 だから、黒猫は主の元へと戻るための方法を探している。

 それは理解できるけど、主が自分の元に帰ってくるように黒猫に命令を下しているのだとしたら容易に動くことはできない。


(でも……)


 黒猫が、この部屋を出たいと私に合図を送っている気がした。

 幼い頃に読んだ魔女と黒猫が活躍する物語の影響を受けすぎている自分に笑いすら込み上げてきそうになるけど、それだけ幼い頃の体験は今の私を動かす力になる。


「にゃぁ!」

「…………」


 敵の罠に招かれているだけかもしれない。

 今の黒猫は、主に操られているだけ。

 幼い頃に読んだ物語のように、黒猫が私を冒険に誘っているなんて素敵な展開は訪れない。






もし宜しければ、☆をクリックして応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ