第10話「偽魔女と黒猫は世界を美しくする【偽魔女視点】」
「釈放だ」
母と妹が父から暴行を受けていたことが証明され、私の罪は軽くなりました。
(消えるべき人間は、私が消し去ってあげないと……)
刑期を終えた私が魔女として活躍することは許されず、私は魔女資格をはく奪されます。
正しいことをやったはずなのに、魔女資格がはく奪されるのも可笑しな話ですけどね。
「にゃぁや」
1匹の黒猫が鳴き声を上げると共に、世界が薄暗さに包まれる時間帯がやって来たことに気づきます。
「にゃっ」
皿の割れる音。男の怒声。子どもの泣き叫ぶ声。
これらの音が同時に響き渡ったことに驚いた黒猫が、私の足元をかすめたことにも気づかずに走り抜けていきます。
「私が、この世から暴力を振るう人間を排除してあげます」
罪を償ったあとに、そんな信念を抱きながら街をさ迷っていた私の元に事件はやって来ました。
行く場所を失った私に、神は大きなチャンスを与えてくださったのです。
(今度は、上手く人を殺してあげないといけませんね)
私は魔女ではなくなってしまいましたが、私には失われていないものもあります。
魔女の資格をはく奪されても、魔法という名の力が私には残されている。
誰にも奪うことのできない魔法の力で、私は駆け足で去っていく予定だった黒猫を呼び戻します。
「黒猫さん、力を貸してください」
幼い頃に祖母が読み聞かせてくれた物語の中で、特にお気に入りだったのは魔女の優秀な相棒として黒猫が活躍するというお話。
「一緒に、世界を美しいものにしましょう」
「にゃぁ……?」
黒猫に命じます。
差し伸べた私の手に、あなたの手を重ねなさいと。
それを握手とは呼べないのかもしれませんが、私は魔法の力を使って大好きだった物語と同じ展開を再現します。
それは、握手よりも愛情深い行為だと強く感じることができました。
「来るな! 来るなっ! 来るなっっっ!!!」
災いをもたらす存在に意識を集中させ、加害者の注意力を削ぎます。
(あとは、綺麗な状態で命を奪うだけ)
初めて人を殺したときは魔法の調整が上手くいかず、父の心臓を何度も苦しめてしまいました。
そのときの反省を生かすためにも、今度こそ1回の魔法で心臓を止めることができるように気を遣います。
(再び捕まってしまったら、人々を救うことができなくなってしまいますものね)
いじめやパートナーからの暴力で悩んでいる人を黒猫の目を通して見つけたところで、過去に罪を犯した私は表立った行動をとることができません。
そこで、ヴァルツと名づけた黒猫を存分に利用していく案を思いつきます。
「救いの手紙を運んでもらえますか?」
「みゃっ」
ヴァルツに手紙を運ばせ、ヴァルツを私の代行者として動かします。
何度も被害者との接触を試みながら、被害者の心に寄り添うことも欠かさずに。
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いじめや暴力に苦しんでいる人の代わりに、犯罪人を殺して差し上げます
みなさんが手を汚すことは何もありません
魔法の力で犯罪人を葬るので、殺害の証拠は何も残りません
暴力の支配から解放されたみなさんが、どうか幸せな日々を歩めますように
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覚悟が決まった被害者をヴァルツの案内で、私の元へとご招待。
こうして私は、今日も暴力に怯える人たちを救うために魔法の力を行使します。
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