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女装魔法使いと嘘を探す旅  作者: 海坂依里
第3章「命の価値を測る偽魔女」
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第7話「偽魔女の夢と絶望【偽魔女視点】」

「フェリーナは、黒猫が出てくる童話が好きなんですね」

「はいっ!」


 魔女として国に尽くしてきた祖母は、幼い私に魔女が登場する様々な物語を読み聞かせてくれました。

 その中でもお気に入りなのは、魔女と黒猫が一緒に活躍する物語。


「くろねこさんを、あいぼーにするんですっ」

「動物は魔力を持たないので、相当な研さんを積まなければなりませんよ」

「けんさん……?」

「勉強をたくさん、という意味です」


 魔法の力は親から子へと継承されるものではありません。

 家族の中で、たった1人だけ魔法を使うことができる。

 血縁者の中に、魔法を使うことができる人間はいない。

 そういったことも珍しくはなく、私の家系では祖母と私だけが魔法を使うことができました。


「行ってまいります」


 祖母が魔女として活躍されたからこそ、幸福に満ち溢れた家庭を築くことができた。

 そんな祖母のような偉大で優しい魔女を目指すことこそが私に与えられた役目だと信じ、私は9歳の年齢で魔法学園へと旅立ちます。


「再婚……」


 魔法学園に通っている途中で、母は私に新しく父になる方を紹介してくれました。

 妹は幼い頃に亡くなった父の思い出がないせいか、新しい父に大変懐いていました。

 私を産んでくださった父の存在を忘れなさいと言われているみたいで、心が窮屈になってしまいます。


「フェリーナさんは、魔女を目指しているんだってね」

「学費のことですが……」

「学費のことは心配しなくていいよ」


 新しい家族の登場は、祖母が、父が守ってきた家族のかたちを変えてしまうものだと思っていました。


「僕の父は、魔女の偉大さを強く教えてくれた人でね」


 でも、そんな心配こそが、取り越し苦労だと気づかされます。


「国の宝である魔女が娘になってくれて、僕は本当に幸せ者だよ」

「あの……私は、まだ勉強中の身ですが」

「フェリーナが魔女になってくれたら、この家は安泰だ」

「そんな存在になれるように精進いたします」


 幸せそうな顔を浮かべる母と妹を見て、新しい父は私の大切な家族に深い愛情を注いでくださる方だと信じることができました。


「次に会ったときは、魔女になった私の姿を見てくださいね」


 新しく父を迎えたおかげで安心感を得た私はより一層、魔女試験を突破するための勉学に励むことができました。

 私が留守にしている間、父が家族を守ってくれる。

 それなら、私は魔女になるという夢に邁進するのみ。

 そうして、念願の魔女になるという夢を叶えることができたのです。


「ただいま戻りました」

「おかえり、フェリーナ」


 自宅へ戻ると、父は満面の笑みで私を迎えてくれました。

 私と出会ったときと変わらぬ優しい笑顔が私を待っていて、父と再会した瞬間に心が温かくなったのを感じます。


「魔女になったフェリーナに、初めての仕事を頼みたいんだ」


 母と妹の姿を探そうと、玄関から家の中を覗き込もうとしたときのことでした。

 お母様と妹の行方に答えをくれる前に、父の口角が更に上がったことは今も記憶に残っています。

 初めて見るような屈託の無い笑みに、心が凍りつくような感覚さえ覚えました。


「な……」


 連れていかれた裏庭には、とても人の手では掘ることが難しいと思われるくらい深い穴が掘られていました。

 こんなにも深い穴を、一体誰が掘ったというのか。


「お父様、この穴は……」


 その問いに対する答えを得る前に、私の視界に入る世界は一変します。

 私を、深い穴へと突き落とす父親の姿。

 何が起こったのか判断ができるようになる頃には、私はよじ登ることすらできない深さある穴へと体を打ちつけます。


「フェリーナ、怪我はしていないかい」


 地上から、父の優しい声が聞こえてきます。

 でも、その父の声をよりも気にかけることが私にはありました。


「………っ、ぁ」


 嗅いだことのない匂いに私は襲われます。

 打ちつけた体の痛みとか、もしかすると折れているかもしれない骨のことを忘れてしまうくらい強烈な匂いに穴の中が支配されているのが分かります。


「少し穴を深く掘りすぎてしまったかな」


 これが腐敗臭だと勘づいたところで、真っ暗な世界で匂いの正体を見つけることはできません。

 魔法の杖を頼りに、穴の中を光魔法で照らすことを決めます。


「フェリーナの力で、2人を元の状態に戻してもらえるかい」


 幸いにも、魔法の杖は折れなかった。

 折れてしまった方が、いっそのこと良かったのかもしれない。

 折れてしまえば、魔法を使う気力すら失って真実を知らなくても済んだかもしれない。


「突然、言葉を返してくれなくなったんだ」


 明かりのない世界に灯った光は、呼吸することすら苦しくなる狭い穴の中を照らし出します。


「体は冷たくなる一方で……」


 自分の指が、辛うじて残っている人の肉に触れる。

 土葬された遺体が骨になるまで時間がかかるのは知識として持っていても、その骨になるまでの時間を縮めてあげたいとすら思ってしまった。

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