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女装魔法使いと嘘を探す旅  作者: 海坂依里
第4章「承認欲求の偽魔女」
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第9話「嘘に嘘を重ねて、幸せに【アンジェル視点】」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 泣き崩れるリリアンカの背中を、エミリは優しく擦っていく。

 優しさ溢れるその手で、エミリはリリアンカが泣き止むまで背中を擦り続けるつもりなのかもしれない。


「リリアンカさんは悪くありません」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 エミリは、自分の料理の腕で店が賑わっていたわけではないという事実を知った。


「私が悪かったんです。私の料理の腕が、もっと……」


 リリアンカに向けて、優しく語りかけていく口調にどんな感情が込められているのかは分からない。

 1つだけ分かっているのは、自分の魔法が効いたおかげでエミリが正気を取り戻すことができたということだけ。


「ごめんなさい…‥ごめんなさい……エミリ……ごめんなさい……」

「泣かないでください。謝らないでください」


 リリアンカに顔を上げるように促すエミリだが、リリアンカはエミリに縋りついたまま顔を上げることができずにいた。


「不正に手を染めたのは、私です」


 リリアンカの背を擦るエミリの表情は穏やかに見えるけど、街の人たちを騙してきたことへの罪悪感を拭い去るのは容易でない。

 リリアンカに心配をかけないための笑おうとしているエミリの表情を見ていられない。


「リリアンカさんは、私のために魔法を使ってくれたんです」


 挙句の果てに、街を寂れたものにしてしまったことへの罪の意識。

 俺たちと同い年くらいの女の子が独りで抱えるには、あまりにも重すぎる現実を突きつけた。


「私のために魔法を使ってくれたのに、どうして私は逮捕されないんですか?」

「料理を美味しくする魔法でも良かったのに、今回の事件で使用された魔法は料理を美味しいと錯覚させる魔法」


 ノルカは、エミリに事実を伝える。


「そんな遠回りの魔法を依頼するのは、リリアンカさんには何ができるのかきちんと把握できている人間だけです」

「私はリリアンカさんから、魔法の知識を仕込んでもらいました……」

「魔法に関する知識があるのなら、どうしてリリアンカさんを魔女に診察してもらわなかったんですか?」


 ノルカの口調は淡々としていて、そこにノルカの綺麗な声が合わさって、授業を聞いているかのような感覚を受ける。

 自分に関係のあることをだけど、どこか他人事のように思えてしまう、学園での授業風景と似ている。


「魔女も魔法使いも、自分で自分の治療をすることはできないと習っているはずです」


 エミリの顔色が変わる。

 初めて聞いた事実に驚いているのは当然だろうけど、体調が優れないであろうリリアンカを放置してきたことが今に繋がるなんて想像もできなかったんだろう。


「魔法に関する知識があるのなら、リリアンカさんの不調に気づいた時点で魔女の診察を受けるように促すはずです」


 ノルカの授業は続いていく。

 エミリがどんな言葉を投げかけたとしても、リリアンカは正論をぶつけてエミリを負かせることができる。それくらいノルカは厳しい現実を突きつけていく。


「リリアンカさんは、自分の魔法でご自身の体調をなんとかすると言いました」


 街でリリアンカと出会ったときのことを、ノルカはよく記憶していた。


「そのときエミリさんにできたのは、リリアンカさんの言葉を信じることではありません。ほかの魔女に診てもらおうって言葉のはずです」

「っ…………」


 自分の記憶を代償に魔法を使っていたリリアンカは、魔女でもできないことがあるということを忘れていた。

 自分の体調管理は、自分の魔法ではどうにもならなない。

 魔女にもできることとできないことがあるってことを、リリアンカはすっかり忘れてしまっていた。


「……私は、リリアンカさんと共犯です」


 エミリから零れる嘘。


「エミリさんは、リリアンカさんを切り捨てるつもりだったんですね」


 どうしてもリリアンカと共犯扱いにしてほしいエミリは次から次へと嘘を吐いていくが、ノルカはエミリの嘘を器用に退けていく。

 ノルカの切り捨てるって言葉に、エミリは肩を上下にびくりと動かした。


「それなら、診察を勧めなかった理由も理解できますね」

「私は、リリアンカさんの教え子で……」


 どんな言葉を向けてもノルカには通用しないとエミリも気づいて、気持ちを吐露することしかできなくなっているのかもしれない。

 エミリとノルカの会話が会話ではなくなっていて、あとはもうどちらかが折れるのを待つだけのような気もする。


「逮捕してください……私の望みは、ただそれだけです……」


 エミリの元々の声質が穏やかこともあって、その願いを聞き届けたくなるような儚さを感じてしまう。

 ノルカがどんなことばを返したとしても、エミリの願いだけは止むことがない。


「では、エミリさんはリリアンカさんを手駒にしていたということで」

「はい……」


 リリアンカはずっとエミリに縋りついたままで、俺たちはリリアンカの顔を見ることができないまま別れるものだと思っていた。

 でも、ここでようやくリリアンカが顔を上げた。

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