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女装魔法使いと嘘を探す旅  作者: 海坂依里
第4章「承認欲求の偽魔女」
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第8話「偽魔女の終わり【偽魔女視点】」

「リリアンカさん、今日も水をお願いできますか?」

「ええ……」


 魔法の力で、水を提供することができる。

 魔法の力で、火を提供することができる。

 魔法の力で、光を提供することができる。

 魔法の力で、料理を美味しいと錯覚させることができる。

 ただ、それだけ。

 ただそれだけの才能しかないのに、私は魔女の資格を与えられたらしい。


(私は魔女……魔女試験に合格した魔女……)


 ずっと2人でやっていこうって。

 2人で店を盛り上げていこうって約束をしたのに、エミリは人を雇おうと持ちかけてきた。


(私は魔女よ……それだけじゃ、エミリは不満なの……?)


 エミリは休むことなく働く私の体を心配しているみたいだけど、私の体調はどこも悪くない。

 それなのにエミリは人を雇って、私の負担を減らしたいと言ってくる。


(もっと、もっと、エミリの料理を美味しくしないと……)


 私は、平気。

 私は、大丈夫。

 そう返事をしても、エミリは私のことを信じてくれない。

 初めてエミリと喧嘩をしてしまった私は、夕暮れが迫る街をとぼとぼと歩いていた。


(このままじゃ、私はエミリに捨てられちゃう……)


 新しく店で雇う人が、私以上の力を持つ魔女だったら?

 エミリが新しく店で雇う人に信頼を預けてしまったら、私はエミリの傍にいられなくなる。


(もっと強い魔法、もっと強い魔法、もっと強い魔法……)


 この世界は、願う力の強さが魔法に影響を与えるって言われている。

 私は魔女なのに、願う力がまったく自分のために働かない。

 どうして?

 なんで?

 私は、国から任命された魔女のはずなのに……。


「こんにちは」


 知り合いがいないはずの、この街で。

 綺麗な顔立ちの少女は、私に声をかけてくる。


「昨日は、美味しいご飯をありがとうございました」


 彼女のことはまったく覚えていないけど、会話の流れ的にエミリの店に来てくれた客だと分かった。


「もうすぐ夜営業の時間ですよね? お店には戻らないんですか?」


 見知らぬ彼女の視線から逃げ出す。

 話しかけられて困ることは何もないけれど、誰かと話をしている気分ではない。


「人気店ですから、早く戻らないと……」

「……帰れないの」


 エミリの店の客だと分かると、邪険にすることはできない。

 でも、彼女はしつこく私に話しかけてくる。

 うるさいとすら思える彼女の声に苛立ちを感じ、私は店に帰ることができない理由を説明する。


「エミリと喧嘩をして……」


 綺麗な顔の少女は、私に話しかけることをやめない。

 彼女と視線を交えないように会話をしたり、俯いて彼女を拒絶したりしているのに、彼女は私の話を聞こうとしてくれる。なんてお節介な少女なのか。


「どちらが悪かったんですか?」

「えっと……」


 適当に話を終わらせてしまおうと思ってはいるものの、顔が綺麗な彼女の追求は止まらない。

 私がどこへ行こうとしているのか、私がどうしてここにいるのかを知ったところで、顔が綺麗な彼女には一切関係ない。


(あなたが、エミリとの関係を取り持ってくれるとでも言うの?)


 人が、他人に興味を向けることはない。

 人が他人に興味を持つときは、他人に不幸が訪れたときだけ。

 その不幸を面白おかしく揶揄するために、人々は他人の不幸を探しに奔走する。

 それが、目の前にいる少女だと思った。


「エミリが悪いの……」

「エミリさん、ですか?」


 この子に話したところで何もならないと分かっていても、綺麗な彼女なら事態をなんとかできるんじゃないか。

 少女に対して嫌悪を抱いていたはずなのに、なぜかそんな期待が生まれた。


「エミリさん、ですか?」

「だって、ずっと2人でやってきたのに!」


 綺麗な人は、なんだってうまくやり遂げてしまう。

 なぜか、そんな妬みの感情が期待を呼び込んだ。


(綺麗な人?)


 私は、その綺麗な人とどこで出会った?

 どこの誰が、要領よく器用な生き方をしていた?

 思い出せない。

 思い出せない。

 思い出すことが、できない。


「人を雇おうとするなんて……」


 なんで、私という人間はうまく生きることができないんだろう。

 昔から、ずっとそう。

 昔からって感覚は残っているのに、具体的にいつからだったかっていう記憶がない。


「ダメよ……なんで、そんな勝手なことするの……」


 このまま魔法を使い続けていたら、私の記憶は空っぽになってしまうのかもしれない。

 でも、空っぽになる前に終わらせてしまえばいい。

 この街に住むすべての人たちがエミリの料理の虜になれば、やっと私は魔法をかけ続ける日々から解放される。

 私は魔女なんだから、きっといつかは街のみんながエミリの料理を愛するように仕組むことができる。


「2人で守ってきた店なのに!」


 私とエミリが築き上げてきた店は、私が必ず守ってみせる。


「ずっとずっと、2人でやっていこうって……」


 ほかの誰にも邪魔はさせない。

 エミリの笑顔を咲かせることができるのは私だけ。


「2人で、幸せになろうって……」


 だから、誰も私たちに触れないで。


「私は、エミリと一緒にお店をやりたいの……」


 中途半端な優しさも、中途半端な興味もいらない。

 私たちのことは放っておいて。

 私たちは、互いに互いを守ろうって約束を交わしたのだから。


「私には、エミリが必要で……」

「リリアンカさん!」


 あ、エミリの声が聞こえる。


「心配したんですよ! いつまでも帰ってこないから……」


 エミリの声を聞くと、やっと呼吸がしやすくなる。

 エミリの声を聞くと、安心する。

 エミリの声を聞くと、泣きたくなる……。

 エミリの声を聞くと、心が痛い。

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