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女装魔法使いと嘘を探す旅  作者: 海坂依里
第4章「承認欲求の偽魔女」
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第5話「偽魔女の嘘【偽魔女視点】」

(1人で水汲み……)


 アステントの街は、飲食業が盛ん。

 今日も生きていくために、飲食店を経営するために、街の人たちは生活用水と店舗経営のための水を汲み続ける。


(1人で何往復もするつもり?)


 街の人たちは家族で分業したり、大人の男の人が水を運んでいる。

 その中でも私は、たった1人の少女が街と泉を何往復もする姿が気になった。

 家族で協力することができる人、大人の男は、さっさと水を汲み終わって街に戻っていく。

 だけど、視界に映る少女は懸命に水汲みの作業を続けていく。


(彼女を手伝えば、食べ物を恵んでもらえるかもしれない……)


 魔女試験に落ちた私でも、浮遊魔法くらいなら使うことができる。

 私は名も知らぬ少女の仕事を、魔法の力で助けようと画策する。


「私、魔女様に初めてお会いしました!」


 義理堅い性格の少女の名前は、エミリ。

 私の思惑通り、水汲みを手伝ったお礼にご飯をご馳走してくれた。


「こんなにも楽に水汲みを終わらせることができるなんて本当に凄いです!」


 魔法の力で、水を提供することができる。

 魔法の力で、火を提供することができる。

 魔法の力で、光を提供することができる。

 ただ、それだけ。

 ただそれだけのことはできたから、村のみんなは私を褒めてくれた。

 凄いと言ってくれた。

 憧れの気持ちを持ってくれた。


「魔女様は、本当になんでもできるんですね」

「私なんて、ただの落ちこぼれ……」

「どこが落ちこぼれなんですか? リリアンカさんは、立派に魔女の役割を全うされているじゃないですか」


 エミリも村の人たちと同じで、私の才能を認めてくれる。

 エミリは私が食事をしている間、初めて見る魔法の数々に感動したことを私に伝えてくれる。

 魔法を使うことができないエミリからすれば、私は才ある魔女にあたるらしい。 

 エミリは、心から私のことを褒めちぎってくれる。


(これを逃したら、後がない……)


 内心で感じる焦り。

 久しぶりに自分を褒めてくれる人との出会いは、私に嘘を吐くという案を提供してくれた。

 私に、生きていくための嘘を授けてくれた。


(私は自分が魔女だと嘘を吐いて、エミリのことを誘導する)


 私は、エミリが困っていることに気づいている。

 誰も頼ることができないからこそ、エミリは1人で水汲みをしていたのは一目瞭然。

 その弱みを、利用する。


「……明日も手伝ってあげる」


 私は、魔女試験に合格をしたと嘘を吐く。

 魔法を使うことのできない一般人に魔法学校が何年制とか、魔女試験の実施時期なんて知られていない。

 魔女と魔法使いを見分ける知識すらないことを利用して、私は魔女になることができたと嘘を吐いた。


「魔女様は、なんでもできる凄いお方です! 店の手伝いをさせるわけには……」

「私には最低限のものを与えてくれたら、それでいいわ」

「でも……私の家にはお金がなくて……」


 エミリが経営している店は元々、父と2人で切り盛りしていたらしい。

 激戦区で店を構えることの大変さを知っていたけれど、父と一緒なら乗り越えられると信じてきたエミリ。


「借金が残っていて……」


 父が病気で倒れ、治療費を捻出するために店を1人で経営していくことを決めたらしい。

 でも、たった1人では食事業を盛り上げている激戦区の街で生き残るのは容易でないと気づかされた。


「開業資金と父の治療費を返さなきゃいけなくて、リリアンカさんに支払うお金どころではないんです……」


 それでも、父が戻ってくるまで頑張ろうと思ってきた。

 けれど、心の支えだった父は看病の途中に亡くなってしまったと事情を吐露してくれるエミリ。

 彼女が事情を話してくれればくれるほど、私にはエミリを利用するための情報が揃っていく。


「父がいたときと比べると、明らかに売り上げが落ちてしまっていて……」


 人を雇えるほど裕福でもなく、父の味を再現することもできない。

 すべての業務を1人でやらなければいけない大変さ。

 1人で店を切り盛りすることに限界を感じているエミリは、この店を続けていくための力を望んでいる。


「寝る場所と食べる物を用意してもらえたら、ほかには何もいらない」


 魔女の力を必要としているエミリ。

 私は、エミリの存在を必要としている。

 自分がエミリの元に残ることで、互いの欲求が満たされる。


「……寝食のほかに、せめて1ネルだけでも受け取ってください」


 私しか頼る人がいないエミリは、偽魔女の手を取る。


「ありがとうございます、リリアンカさん」


 水汲みや買い出しといった店の準備を始め、店の経営など。

 魔法使いとして、最大限にエミリをサポートしていくという立場を得ることができた。

 私がエミリの役に立つことで、エミリは私のことを褒めてくれる。


(やっと……やっと居場所を見つけることができた……)


 エミリは優しい。

 どうしようもないくらい優しい。

 魔法を使うことができる私に、エミリはいつだって尊敬の眼差しを向けてくれる。


「リリアンカさんのおかげで、凄く助かっています」


 嬉しい。

 嬉しい。

 心から喜びの感情が溢れてくる。

 これが、私の求めていた毎日。

 私を認めてほしい。

 私のことを、もっと認めてほしい。

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