賢者って、タイムの方かよ
俺は高校1年の才波葉斗。
日本で普通の生活を送る高校生な筈なのだが....俺は今異世界の古屋の中にいる。
「お目覚めですか、葉斗さん」
俺は気がつくとこの古屋のベットの上にゴロンと横たわっていた。
しかも、目の前には巨乳の美女がいる。
髪はピンクのロング、白を基調としたカジュアルな服装....なんて紹介してる場合じゃ無いな。
「....えっと、誰ですかね」
「おめでとうございます!あなたは異世界転移を果たしました!これからは私と2人、のんびりスローライフを送りましょうね」
「だから誰なんだよお前」
不思議と高揚感は無い。不快感もない。
ただ異世界転移した事実を淡々と受け入れている自分がいる。
「えっと、あなたのお世話役みたいな感じですかね。ニーナとお呼びください」
「全く意味がわからないんだが....お世話係ってなんだ?」
ニーナは少し考えると、こう答えた。
「実は、葉斗さんの異世界転移は事故みたいなもので...本当は処刑しなくてはいけないんですよ」
「俺殺されんの!?」
と戯けられる程には恐怖心がない。
「いえ、流石に可哀想なので、私をお世話兼監視役みたいなものにして、とりあえず生かしてはおこうかなと言うのが神々の決定でして。」
「本当に優しいな....いや優しすぎないか?俺1人のためにわざわざこんなこと?」
「一応神ですので」
本物の神様というのは、意外とまともな存在なのかも知れない。
それとも、神様界にもお役所仕事的に「うーん、経費かかるけどシステム上やるしかないよね〜どうせ俺現場じゃないし」みたいな事があったりするのだろうか?
「まあ、とりあえずはありがとうと言えばいいのかな」
ゆっくり体を起こす。
「いきなり大丈夫ですか?」
不安そうにニーナが聞いてくる。
「何か転移に危険性でもあるのか?」
「一応体の物質を再構成してますから、多少の不具合は...」
なんとなく読めてきたぞ。
「それってもしかして...精神もって事か?」
ニーナはやや目を逸らす。
「まあ、完全に元のあなただとは言えないかも知れませんね」
どうやら俺はオタク無駄知識の一つ、テセウスの船状態になってしまったらしい。
つまり、俺が感じてる自分の性格への違和感は...
「再構成の過程で....性格が賢者タイムにでも設定されたか」
ニーナがアハハとやりづらそうに笑う。
こればかりはしょうがない。
折角の異世界転生で美少女と二人暮らしなのに何も感じないのは癪だが、なんとか感覚を掴んでいくしか無いだろうな。
「俺は魔法とか使えたりするのか?」
とりあえず聞いてみる。異世界転生において一番の醍醐味だ。
「多分無理だと思いますよ...そもそも魔素が無いでしょうし」
うん、終わったな。
前世では剣道と空手も収めたが、それは魔法があって初めて異世界チートに結びつくもので、魔法がなければどうしようもない。
「....なんかステータス画面見たいのは見れないのか?」
「そういうのはうちはちょっと....」
ステータス画面伝わるんかい。
「しょうがない....じゃあまあこれからよろしく」
受け入れて前に進むのもラノベの王道だ。
チートのないガチのスローライフを送るのだっていいじゃないか。
そもそもスローライフ主人公達が求めていた生活とはこう言った物な筈だ。
俺にはチートスキルも勇者の称号も無いし、最強パーティーを追放されたわけでも無い。
邪魔者はいない筈だ。
設定上はあいつらが夢にまで見たと言う生活を満喫するのも、そう悪い話じゃ無い。
「ええ、よろしくお願いしますね!」
ニーナはそう言って僕を抱きしめると、心底幸せそうに笑うのだった。
当然ながら勃たなかった。
「えーっと...ウォーター!」
空中に水が放出される。
「できて....しまった....」
とは言え魔法が使えるのかは気になるだろう。
使えませんで引き下がるなら、俺はGoogleの画像検索機能を使ってエロ画像をサーチしたりはしない。
出てきた古屋の裏庭で試してみたところ、俺も魔法が使えるらしい。
しかも....
ボン、シュッ、ドン......
全ての属性を無詠唱で、しかも威力も形態も完璧に想像通りに再現できる。
そもそも属性とかあるのか分からないけど、とりあえず思いつくものは全て出来てしまった。
その上
「螺旋玉!!」
ドゴーン。とりあえず想像出来るならなんでも出来るらしい。
俺の剣術スキルはどうだろうか。
「スターバーストストリーム!」
10連撃で止まる。
どうやら剣術に関してはそこまでチートでも無いらしい。
俺は直葉のフォームとキリトのフォームのどちらで戦えばいいのだろうか。
と言うか、これって魔法判定なのか?剣術判定ってそもそも何?
ブゥゥンはどっちに分類されるんだ?
「なにごとよ!」
ニーナが慌てて外に出てくる。
「えっと....俺なにかやっちゃいました?」
まあ、やっちゃってるよな冷静に考えて。
と思うのだが、ニーナはそこまで驚いていないらしい。
異世界人にとってはこれが普通なのだろうか。
まあ、神の使いの反応で一般人の尺度を測るのもおかしな話なんだけどな。
「....魔法、使えたのね」
ニーナは微妙に歯切れが悪い。もしかして隠してたなこいつ。
「有難いことにな。何か問題でも?」
ニーナは少し考える。
「一応、あなたはこの世界にいない事に手続き上なってるので、その力は隠して貰わないと困ります」
そんなご無体な。
これじゃあ本当にチート持った状態でスローライフ送る羽目になるじゃ無いか。
そんなの誰も本当は望んでないんだよ。
いや、今の俺に望むとか望まないとかの感情そこまで無いんだけど。
「一般人レベルの魔法だったら、使っても良いわけだな?」
確認を取る。
「構いませんが...と言うか、葉斗さんはそもそもここから離れるの規則的に禁止ですから、その力があっても別に使う機会ないと思いますよ?」
「俺は賢者タイムの状態で一生ここで暮らすのか?」
「そうなりますね....で、でも私もいますよ!?」
ニーナはそう言うとおもむろに腕を絡めてくる。
「そう言う事だってし放題ですし....ね?」
「俺が賢者タイムじゃないならそれも良いんだけどな」
「あー...」
ニーナは若干残念そうだ。こいつもしかしてビッチ?
「異世界に来たんだ。冒険か学院か、どっちかはやらせて貰うぞ」
「そう言われましても....」
本当にニーナは困ってしまう。そして
「なら...しょうがないですね」
俺の体が拘束される。
「私は葉斗さんにこう言うことはなるべくしたくないんだけど」
俺、もしかして一生こいつの管理下に置かれて自由もなく暮らすのか?
この魔法で縛られて?冗談じゃない。
「解呪!!」
しかし魔法は一向に解ける気配がない。
「葉斗さんは強いですが、どう逆立しても私には勝てない。そう言うものなんですよ」
「やめろ、俺に普通の異世界ライフの邪魔をするな!」
すると、魔法が完全に解けたじゃないか。
どう言う風の吹き回しだろうか。
「もしかしてお前、俺の命令に逆らえなかったりする?」
一瞬の沈黙が走る。
「...さっ、さぁどうでしょうねぇ...?」
左斜め上を見つめるニーナ。
俺はどうやら、ポンコツ使徒に振り分けられてしまったらしい。
神、もう少し真面目に仕事しろよ。