番外編2-4
「カズ…」
突然、名前を呼ばれてカズは我に返った。
「ミホ」
「ごめんね。嘘ついて…」
ミホはしおらしく頭を下げる。
「いいよ。お前だけが悪いって訳じゃないし」
カズはミホの背を押して歩き出す。
そう言いながら事務所の中で起きた事を思い返す。ミホと2人でどうやってここまで来たのかなぜか覚えていなかった。
「だけど、もうあの店には行くなよ。って言うか渋谷で遊ぶのやめた方がいいんじゃないか?」
「うん、そうする」
素直にミホは頷いた。
「そういえばカズ、デート中だったんだよね。ごめん」
ミホの言葉に荷物を預けて別れた美鈴の事が気になった。きっと持って帰るのが大変だった事だろう。
「後で電話すっから大丈夫だよ」
カズの言葉にミホは頷いた。
「カズって何だかんだ優しいよね」
カズはニカリと笑うとミホの肩を抱いた。
「俺はいつだって優しい男よ。モテモテじゃん」
「あ、いつものカズに戻った」
ミホは笑う。
駅前で別れ際、ミホはにこりと笑うと言った。
「ありがとう、カズ」
手を振って行ってしまったミホを見送りながら頭の中で言葉の切れ端が繋がっていく。
『うは、』『ありが…』『とう』『楽しか…』『…たよ』
カズは頭を抑えた。
「伝言って…誰かに言われて…そいつに…」
しかし、それ以上は何も思い出せない。何かあったはずなのに。
カズは携帯を出した。電話は直ぐに繋がり穏やかな声が聞こえる。
「あ、美鈴さん?家についた?…え、俺?んなの大丈夫だって。それよりさ…」
カズは壁に寄りかかるとネオンが輝く空を見上げながら言った。
「俺も楽しかった」
携帯から少しの間、美鈴の声は聞こえなかったが穏やかな優しい声が再び聞こえてきた。
『うん、ありがとう』
その声で自分がした考えなしの行動も悪くないように思えた。ミホの別れ際の笑顔と言葉も嬉しかった。
自分はここにいてもイイと思わせてくれる。
「なあ美鈴さん。俺思ったんだけどさ」
『うん』
街は明るく人々が笑顔でカズの前を通り過ぎて行く。
「今の俺、悪くないと思わない?」
携帯からくすくすと笑う声が聞こえた。
『うん、悪くないね』
カズの顔も笑顔になる。
「だよなっ。んじゃあ、俺も帰るかな」
壁から背を離すと改札口へと向かう。
『気をつけて帰りなね』
「りょーかい。じゃあ」
改札を抜けるとポケットに携帯をしまう。
このまま帰るには惜しい気もしたがたまにはいいかもしれな。
そ、たまには。