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番外編2-2

買い物を終えた2人はレストランに入った。

すでに時刻は2時近くになっており結構な時間を買い物に費やしていたらしかった。


「だーーっ!疲れた!」


ソファに腰を下ろしたカズは荷物を椅子に放るとテーブルに俯してしまった。向かいに腰を下ろした美鈴も持っていた荷物を空いている椅子に置くと足を伸ばす。


「ホント、思っていたより時間がかかったね。足が痛い…」


ウェイトレスが持って来てくれた水をカズは一気に飲み干すと笑顔で声をかけた。


「もう一杯お願いしまス」


カズの呼びかけにウェイトレスの女性も笑ってすぐに来てくれた。

お店では話す機会もなく今日もまだ一緒にいて3時間ほどではあったが、カズは相手にいつも無邪気な笑顔を向ける。その笑顔に相手側も笑顔になる。子供っぽいと言えばそうなのかもしれないが、誰に対しても気さくなカズに好感が持てた。


「朝飯食って来なかったし、何にすっかな」


メニューを開きながらカズは独り言を言っていたが、美鈴が見ていたメニューを突然指差して「これ美味いよ」などと教えてくれる。注文を終えてから美鈴はカズに笑いながら言った。


「カズくんってホント、サービス業向きだね」


カズは突然何を言われているのか分からず頭をぽりぽりと掻きながら尋ねてきた。


「何で?」

「人をよく見ている。それに当たり前のように気を使ってくれている」

「そっかな?気にした事ないけど女の子には紳士だな」


笑ってカズは答える。


「それにいつでも笑顔を皆んなに向けて場を和ませてくれてるよ」

「どうしたの美鈴さん。俺に惚れちゃった?」


カズは相変わらずな事を言って笑うので美鈴も笑ってしまった。


「お店では話す機会がないし、陸はカズくんやナオくんの事話さないから2人の事よく知らなかったけど今日一緒に買い物をしていてカズくんのこと少し分かったかな」

「それを言うなら俺も美鈴さんに改めて思った」


すぐに返してきたカズの言葉に美鈴は首を傾げた。


「何を思ったの?」


カズは美鈴を見て言った。


「見た目と中身が変わんないなぁって。で子供っぽいとこがある」


悪気は全くないのであろうが、ハッキリ言うカズの言葉に美鈴は苦笑いしてしまった。


「カズくんにも言われてしまったな」

「も、って陸にも言われたの?」

「うん…」


美鈴の濁らせた返事にカズは笑う。


「アイツだって十分ガキだよな。短気だし無愛想だしさ。

そういやあ、アイツ美鈴さんの前だとどうなの?変わっちまうの?」

「え?別にそんな変わらないけど。あ…でも、お店ではちょっと他所行きの顔しているかもしれない」

「えー!あれで他所行きなんだ。うわぁ…よくアイツと付き合ってられるな。俺だったら絶対1日でケンカ別れだな」

「そんな事言ってカズくん、陸にちょっかいかけてるって聞いたよ」

「うんまあ確かに、ふざけてからかったりするけどあいつ面倒くさそうな顔して乗ってこないぜ。そんでケンカになったりもあるけど、なんて言うのかな…裏がないって言うか本音で喋るヤツだろ。だから嫌いではないよ」


カズの言葉に美鈴は笑って頷いた。


「そうだね。自分が思っている事ハッキリ言うよね。カズくんのように私も返せたらいいんだけど」

「返したら返したで陸のヤツかえって熱くなっちまって大変なんじゃないの?」


カズは肩をすくめた。

その後も話が弾み店を出た時は、3時を回っていた。

通りに出ると人が更に増えたようだった。


「行きたい店は、近くなの?」


少しかさばる荷物を人にぶつけないように注意しながら美鈴は視線を上げた。


「ちょっと歩くかな。裏入ったとこにあんだけど何か今日混んでるよな」


信号待ちをしていた人の波が前から来るのを見てカズは人混みに飲まれそうな美鈴の手を取った。


「荷物邪魔だしはぐれちまいそうだから裏道に入っちまおう」


前の時とは違ってふざけた様子もなくカズは美鈴の手を握ると道を切り開くように少し前を歩く。


「順番間違えたかもしれないな。ごめんな。予想外にかさばってるよな、これ」


美鈴より大きな袋を持ったカズは荷物を肩に担ぐと振り返って言う。

2人は何とか人混みから抜け出すとほっとして歩みを緩めた。


「何かイベントでもやってたのかな?大丈夫だった?」


カズは本当に驚くほど自然に気にかけてくれる。だからだろうか自然にこちらも笑顔になる。


「私は大丈夫だよ。カズくんの方が大変だったでしょう。その袋軽くて大きいから持ちにくかったよね」


美鈴の言葉にカズはニカリと笑う。まるで子供のようだ。

美鈴が自分の顔を見て笑い出したのでカズも笑いながら尋ねてきた。


「え?なに何?」

「ううん。カズくんの笑顔見てたら笑っちゃっただけ」

「おっ、美鈴さんも楽しければもうちょっとこのまま手繋いで歩こうぜ」


カズのお調子の良い言葉に更に笑ってしまった。


「カズくんってば、おかしいの」

「そう?俺はいつもこんな感じで女の子には優しいんだぜ!誰かとは違うんだなー。

あーー、あそこの店だよ」


カズは肩に担いでいた荷物で指した場所は、こじんまりとしたアクセサリーショップであった。中には男性客が数人おり奥のカウンターには店長らしき30代くらいの口髭を生やした男性がいた。男性は顔を上げるとカズに気がつく。


「おう!カズじゃないか!随分と久しぶりだな」

「ちぃす。店長も元気そうっすね」


2人は客を気にせず笑いながら大きな声で挨拶を交わす。


「ん?何だ?もしかして彼女と一緒なのか?」

「そうそう。羨ましいでしょ」


カズは調子にのって美鈴の肩を抱いた。店長は美鈴を見ながらぼやく。


「マジか?お前、ちょっとはまともになったみたいだな」

「はぁ?何言ってんの?俺はいつもまともだよ」


カズの言葉を無視して店長は喋り続ける。


「こんな感じの良いお嬢さんと付き合う日が来るなんて夢にも思わなかったな」

「あ…いやいや。あのっ」


美鈴の言葉より先にカズが文句を言う。


「店長さあ、俺のことどんだけバカだと思ってんだよ」

「え…まあ、かなり?」

「ひでぇ」


2人が騒いでいるうちに中にいた客は去っていく。経営者として如何なものか。

暫く2人は話をしていたが、カズは気になるアクセサリーがあったのか手にとって見始めた。美鈴も飾られている指輪やネックレスを眺めていたがカズの腕や指に付けられたお洒落なアクセサリーに目が止まった。陸はアクセサリーを付けることはなかったので興味深く見ていたせいかカズが顔を上げる。


「何?どうしたの」

「ううん。カッコいいアクセサリーを付けていると思って」

「ああ、お店では付けられないから休みに付けてる。シンプルな服着ててもアクセサリーつだけでちょっと変わるじゃん」

「そうだね。全然違うね。似合ってる」


美鈴の言葉が嬉しかったのかカズは嬉しそうに笑った。


「おうおう。見せつけてくれるねぇ。そんなお二人にペアのネックレスなんてどうだい?今日、入荷したばかりなんだよ」


そう言うと店長はケースに入ったネックレスを持って来た。カズは覗き込むと手に取る。


「へぇ、可愛いじゃん。美鈴さん、付けてみたら?」

「え?いいよ」


断ったのだがカズは留め金を外すと美鈴の首につける。


「おっ、服にも合ってるじゃん」

「だな。こりゃあ特別社員価格でいいぞ!」


店長の言葉にカズは苦笑いした。


「仕入れ値プラス500円ってか?」

「そりゃあそうだよ。だけどお前なんか仕入れ値しか払ってなかっただろうが。まったく横流しだよ」

「あ、今更そんなこと言うんだ。俺がどんだけ店長の代わりに店番してたと思ってんの?それも店長の勝手な都合でさ〜」


カズがにやりと笑うと、店長は言葉をなくし怯む。きっと良からぬ理由だったのかもしれない。美鈴がネックレスの金具を外すのに悪戦苦闘しているのを見てカズは笑って外してくれた。


「アルバイトをしていたの?」

「んーまあそんな感じかな。最初は客だったんだけど店長と仲良くなって来てるうちにさっきも言ったみたいに突然泣きつかれて店番任されたりしてさ、いろいろあったもんだ」

「お前だっていろいろあっただろうが。学校の教師が見回りに来た時、逃がしてやったし、ヤクザの女にちょっかいかけただの言いがかりつけられた時も助けてやったよな」


カズは笑いながら頷いたが何やらロクでもない話だ。


「そんな事もあったよな。中学、高校と遊んでばっかだったもんな」

「ったく、今だから笑って話せるが、あの時はこっちも真っ青だった」


気がつけば2人の昔話になっており楽しそうであった。


「そう言えばお前、今何やってんだ?渋谷にはすっかり姿見せなくなったよな」


店長の問いにカズはうーんと口籠る。


「バーのウェイターやってる」

「マジか?お前が?」


店長は驚いたようだった。しかし、すぐに納得したように頷いた。


「あーでもお前、接客得意だもんな。酒は飲めないけど」

「余計な事言わなくていいよ」


店長の言葉に少しムッとしたようだった。


「あ、悪りぃ悪りぃ」


店長は軽く手をあげて謝ったが、美鈴としてもカズが飲めないと言うことはちょっと意外であった。しかし思い返せば陸の送別会の時もシャンパンをほとんど飲んでなかった。


「へぇ…しかし、どこにある店なんだ?行ってみたいな」


店長の興味津々な言葉にカズは肩をすくめた。


「新宿だけど客のほとんどが女の子だからやめた方がいいと思う」


店長は苦笑いした。


「本当にお前向きの仕事だな。まあお前も黙って立ってりゃそれなりだしな」

「黙ってなくてもだよな!」


カズは美鈴に向かって同意を求める。


「そうだね」


突然振られて頷いたが確かにカズは格好良かった。と言うかあのお店のスタッフ全員がカッコ良かった。女性客が多いのは当然だ。


「なんか無理矢理じゃないか?」


店長の怪訝そうな言葉に美鈴は首を振った。


「本当です。カズくん、明るくて元気だからムードメーカーで女の子達にも人気があるし」


美鈴の言葉に店長は美鈴を凝視してからカズを見た。


「おい、カズ。彼女お前の女じゃないだろう」


店長の言葉にカズは笑う。


「店長が勝手に勘違いしたんだろう」

「何だよ!やっぱそうだったか。おかしいと思ったんだよ。お前の彼女にしては出来すぎたお嬢さんだと思ったんだよ」

「いえいえ、全然そんなことはないですから」


首を振って否定したがそんな事は聞いてやしない。


「何?こいつとどこで知り合った訳?」


店長のアップに半分逃げ腰になっている美鈴にカズはフォローする。


「何聞いてんだよ。店だよ店」


カズは呆れて答えてくれた。


「客と店員って事か?それで親しくなるなんてお前もやるなー」


説明するのも面倒と思ったのかカズはそれ以上何も言わなかった。

そんなこんなで、店を出た時には4時半も過ぎていた。携帯を見ながらカズは美鈴の方をみた。


「どっかで休もっか。随分と待たせちゃったしさ、何かおごる」

「大丈夫だよ。見てて楽しかったし」

「でも店長の長話に付き合わせたしさ」


本当に2人の会話を聞いていて退屈という事はなかったのだがカズは鼻のキワをかきながら口を尖らすのを見て頷いた。


「じゃあ、ごちそうになります」


美鈴の返事に頷くとカズは歩き出した。


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