2-1
カズとの待ち合わせは、渋谷のハチ公前であった。
平日にも関わらず人が多いのはクリスマスも間近だからであろう。
そんな人混みの中、カズを見つけるのは容易かった。カズは背が高く体付きもがっちりしておりどことなしにエキゾチックな顔立ちをしていて目を引いた。カズに向かって歩いて行くとカズの方でも気がついて無邪気な笑顔を向けた。
「よっ、美鈴さん」
カズの笑顔につられて美鈴も笑顔になる。
「ごめんね。待たせちゃったかな?」
「いーーや、大丈夫。俺もさっき来たばっか」
笑って答えてくれるカズを見ながら美鈴は何か少し不思議な気持ちになる。同年代でこんなに人懐っこい笑顔で話しかけてくれる男性は今まで身近にいなかったからかもしれない。
今日は『カノン』の従業員であるカズと一緒に店で使うクリスマスの装飾品を買いに来たのだ。本当は夜理と一緒に買い物に行く約束をしていたのだが、出かける数日前に夜理が風邪をこじらせてしまいカズが代打を申し出たということだった。『カノン』のマスターである月島はあまりいい顔をしなかったのだが、カズは自分が働いている店の事だからともっともな理由を言って行くことが決まった。ナオが知ったら全力で反対された事だろう。
スクランブル交差点を渡りロフトへ向かって歩いて行く。
「カズくんは渋谷詳しい?私、学生の頃少し来たぐらいだからあまり知らないんだ」
カズは愛嬌のある顔で美鈴をみた。
「俺は高校の時は結構来てたけど最近はすっかりかな。まあ店ある新宿でも良かったんだけど久しぶりに来てみたかったし、ちょっと行きたい店もあるんだけどいい?」
美鈴は笑いながら頷いた。
「せっかく来たんだからいいよ」
「サンキュ。まあでも先に用事だけ済ませといた方がいいかな」
「荷物になると思うけど大丈夫?先に行った方がいいんじゃない?」
「んーまあその時はその時かな」
そこまで言ってからニカリと笑った。
「それよりせっかくのデートなんだから手を繋いで行こうよ」
そう言うとカズは美鈴の反論の返事も無視して手を握り歩き出した。美鈴の歩調に合わせてゆっくり歩きながらカズはたわいのない話をしていたが、美鈴のことをチラリと見てから話を止めた。
「なあ美鈴さん。もしかして意識してる?」
「そんなことないよっ」
美鈴は焦ってカズの手から自分の手を離す。そんな様子を見てカズはおかしそうに笑った。
「すげぇ美鈴さん可愛いのな」
カズの言葉に美鈴の顔は赤くなる。足を止めてしまった美鈴を促すようにカズは美鈴の背を押した。
「そっか。だから陸のヤツあーなんだ」
何か納得したように言うカズに赤い顔で口を尖らせながら美鈴は尋ねた。
「何のこと?」
「うんアイツさ、美鈴さんのこと誰にも触らせないじゃん」
「そんなことない…よね」
「あるんだって。で側に来られるのさえ嫌みたいで独占欲強いヤツだなぁって思ってたんだけど、きっと美鈴さんが男に免疫ないから触らせないんだな」
カズの言葉に美鈴は首を振った。
「そんな事はないよ」
カズはおかしそうに笑う。
「あるある。今も俺が肩に手を回してるからギクシャクしてる」
カズの言葉に美鈴は少し語調をキツくした。
「そう思うなら離して」
「今日は邪魔するヤツがいないから嫌だな」
「カズくん」
さすがに美鈴の表情を見てカズは手を離す。
「ちぇっ。残念」
冗談とも本気ともつかないカズの様子に美鈴はため息をついた。
「カズくんはモテるんだから私なんか相手にしなくてもいいんだよ。彼女だっているんじゃないの?」
カズは手持ち無沙汰になった手をポケットにひっかけた。
「彼女はいないよ。そんなマジに付き合うの得意じゃない。正直『楽しければいいや』って感じ。
…この先何があるか分からないんだしさ」
楽天的に聞こえたが何か最後の言葉が引っかかり美鈴はカズの顔を見上げる。しかしカズは何もなかったようにいつもの笑顔を美鈴に向けるとまた楽しそうに話し始めた。