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その1

パル君の1年ぶりの冒険です。

さかさかさ って 何?

おてんちゃん って 誰?

僕がいるらしいと知ってはいても、僕を見えない摩奈さんは、僕に「お留守番していてね」とも言わず、ドアを出て行った。ななちゃんとあんなちゃんを幼稚園にお迎えに行ったんだ。僕は一人。静寂ってこういうことなんだろうな。下の道路を走る車の音が聞こえるけれど、静か。お隣のお家の恐竜さんも昼間は静か。


 僕はベランダの方にトコトコトコ。晴れてもいなければ雨も降っていない。お空まで静かな感じ。


 窓ガラスにお鼻をつけて、にゅうって、お顔を出し、両手を出して、両足を出して最後に尻尾を抜いて、ベランダに立った。外の空気もなんか灰色。ほんのりガソリン臭いだけ。うっ。違う。何? 


 瞬間、僕は混乱した。恐い! 動けない。あの夜にそっくり。何が何だか分からなくて、でも、摩奈さんに救われたあの時にそっくり。ギュッと目を瞑ってから、そっと片目を半分開け、匂いのする方に上目遣い。


うわっ、いたぁ! 僕は目を離さずに、動かせるようになった尻尾を隠したお尻からそっと後退りし、身体を半分お部屋に戻した。もう少しで首から下は全部お部屋に入るって時に、

 「おい、おい、逃げるなよ。オレ、せっかく久しぶりに来たんだぜ」

 (来なくていいのに)僕は聞こえない筈の声で呟いたのに、

 「聞こえたよ。来なくていいって、お前に言われたくないね」

 (ここ、僕のお家だわん)

 「誰が決めたんだ? ここはオレの場所だぜ」

 (それこそ、誰が決めたの?)

 「オレが今いるからオレの場所に決まってるだろ」

なんか、変な理屈。まっいいか。それより早くお顔も引っ込めなくちゃ。こんな危ないカラス?には構わないのがベスト。君子危に近寄らずだもんね。

 「おい、おい、おい、オレの話、聞けよ、逃げるな!」

(ここでも聞こえるんだわん。僕、耳、いいんだわん)

僕はお部屋の中からお返事した。

(それに、普通はね、他人の家に入ってきて話すんなら、お名前言わなきゃいけないんだわん)

「ここはオレの場所だぜ。で、オレはオレだ」

(オレ…さん?)

「そう、オレ」

(僕は、パルです)お行儀よく答えた。

「知ってる。あのひどい目にあった時に、みんながお前のことを、パル、パルって呼んでたもんな」

(そう、僕、ひどい目にあった、ってか、僕をひどい目にあわせたのは、オレさんでしょ)

「何言ってんだ。よく言うよ。オレが闇夜の烏になって熟睡してたってのに、下から跳び込んできてオレにぶつかっといて。ひどい目に遭ったのは、オレだぜ。カラスは鳥なんだ、鳥は鳥目なんだ。鳥目は夜は見えにくいんだ」

(だからぁ、ここ、僕のお家なんだわん。僕こそ、やっとお家に帰れたと思ったのに、とっても怖かったんだわん)

「そうかぁ。そうとも言えるのかぁ。ってことは、ひどい目にあったのはお互い様だから、おあいこかぁ」

なんか、変な理屈、まっいいかぁ。あれっ、伝染っちゃってる。僕はカラスじゃないんだわん。

(あの、オレさんは、カラスですかぁ)

「そう、オレ、カラスだわん、おっと、オレも伝染っちまったぜ」

(どうして、ここにいるんですかぁ。ここ、僕のお家のベランダなのに)

「いや、オレがいればオレの場所だって言ったろ。親父とお袋に追い出されて、初めて勇気ある孤独な夜を過ごすって決めた寝ぐらだぜ、あんな目に遭わなきゃ、オレはここにずっといるつもりだったさ。いい場所みっけ、と思ってたのに、お前に襲われた。だから、戻って来たくはなかったんだが、ここが一番いいってことがわかったからさぁ」

(一番いいって、そりゃ、僕のお家だもん)

「お前、また下から跳んでくるのかぁ」

(ううう、あんまりそういうこと、最近はしていないわん。僕、飛ぶの上手になったんだわん)

「そもそも、なぜ犬が跳んだり飛ぶのかぁ」

(僕、魔法使いだわん。たぶんだけどね。ってか、そもそもなぜオレさんは、ここが一番なわけ?)

「ここの上の家のベランダも、下や左右、あっちゃこっちゃのベランダも試したんだが、ここが一番なんだな」

(そりゃ、僕のお家だからだわん)

「違うね。おてんちゃんが見える一番の場所なんだな」

(おてんちゃん? おてんとうさま? てんとう虫?)

「違う違う。どっちでもない」

(けど、ここの辺におてんちゃんなんていないわん。犬さんにも猫さんにもうさぎさんにも恐竜さんにも人間さんにもおてんちゃんなんていないわん)

「ふふ。知らねぇのか。今すぐここに来れば見えるぞ」

おてんちゃんを見たいと思わないでもなかったけれど、僕はベランダに出ていく気にはならなかった。ましてや、物干し竿通しの輪の上にいるオレさんの隣に行くなんて、まっぴらだった。

(おてんちゃんって、オレさんの家族? お兄さんとか、妹とか?)

「家族って、なんだ?」

(えっ、家族って、ななちゃんやあんなちゃんや摩奈さんやあっ君みたいな、一緒に暮らしているっていうかぁ)

「えっ? それ、誰?」

(ほら、あの晩、僕を助けてくれた人たち。ここに住んでる人たち)

「オレ、そういうの誰もいない。親父とお袋には追い出されたし、一緒に追い出されたのもいたけれど、一緒に住んではいないし」

(じゃあ、おてんちゃんって、誰? あっ、おともだち? 僕にもアモちゃんとか太郎君とかいるわん)

「おともだち、それもよくわからないがぁ。見てると面白いんだ。だからそばに行きたいがぁ、そばに行くと、人間が邪魔するからぁ。オレ、追い払われるからぁ。おてんちゃんがオレの真似したら困るって。また来てるって言われるからぁ、人間が表にいない時にすぐに行けるように、ここから見張っているってわけよ」

(変なの。おともだちでも家族でもなくて、見張っているの?)

「うー。かぁー。変かもかぁ」

(そのおてんちゃんって人間の赤ちゃん?)

「いや、人間ではない。オレみたいな」

(じゃあ、カラスさん?)

「カラス…みたいな、でも違うみたいな。だから、ここまでくれば見えるって」

(僕、魔法使いになってから、目は良くなったよ。けど、オレさんみたいには目は良くないんだわん、夜でも見えるけどね)

「そうかぁ。じゃぁあきらめな。ともかく、オレここから見張ってるから」

(けど、ここ、僕のお家のベランダだし、もうすぐ虹ちゃんと杏ちゃんと摩奈さん帰って来るもんね。追い出されるよ、きっと)

「じゃあ、すぐこっちに来いよ、見えるから」

(だからぁ、見えないって。目はそんなにはよくないんだわん)

「おてんちゃんを、見てほしいんだってば。おてんちゃんが誰だか見たいんだろ」

カラスみたいで、でも違うみたいなって。おてんちゃんが、誰なのか気になることは気になる。でも好奇心って怖いもんね。前だって、虹ちゃんと杏ちゃんに言われて見に行ったら、大きな目の恐竜に睨まれたし。

(なんで僕に見て欲しいの)

「だって、可愛いぜ」

(あっ、オレさん、おてんちゃんのこと好きなの?)

「わん、いや、うんってかぁ、好きだ。大好きだ。だから、見てほしいんだって。そしたら、オレがここにいる理由がわかるってもんだ」

(あっ、みんな帰ってきた。じゃあね、オレさん、またね。じゃない、またねはなしだわん)

「つれない奴だなぁ。また来るかぁ。おっと、おてんちゃんはね、さかぁさかぁさぁの前にいるよ。見に行けよ、可愛んだから」


(さかぁさかぁさぁ、って?)と思ったけれど、心はもうあんなちゃんとななちゃんに会いたくて、僕は廊下を玄関に向かって飛んでった。


お楽しみいただけましたなら、幸いでございます。

続きは次回。乞ご期待。

ペット喜怒哀楽は、音天の別サイトです。

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