人面獣 Ⅲ
「後衛! 84mm砲準備!!」
『こちら04! うるせェ! 照準が狂う!! 既にFFV551の装填完了! アンタらを巻き込んでも良いなら何時でも撃てるよ!』
ヘッドセットが返したのは、ドスの利いた女性の声。
『05から01。 FFV756を装填済。後方障害物クリア、号令あり次第いつでも』
続くのは《04》とは打って変わって、凛とした女性の声。
これで二人は、一卵性双生児というのだから恐れ入る。
「01了解。前衛の待避が完了するまで、そのまま待機」
「砲撃は05、続けて04の順!」
後衛が装備しているのは、84mm携行無反動砲《カールグスタフ M4》。
全長約1m、砲弾抜きの発射筒だけで重量は7kg程。パッと見は、世間一般が思うところの”バズーカ砲”に近いだろうか?
実のところ、前衛と俺が危険を冒してまて実施中の制圧射撃はフィニッシュブローを決めるための牽制に過ぎない。二門の84mm砲こそが俺達の最大火力かつ、切り札だと言える。
Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow!
交信中の僅かな間にも、重機関銃による点射が鱗で覆われた前脚をズダズタにしていく。12.7mm弾は通常弾頭ですら、無防備の人間を両断する程の威力を持つ ―― ついには、自重を支えられなくなった《人面獣》が地響きを立てて横転した。
ここぞとばかりに、返り血をベッタリと浴びた前衛が小走りで後退を開始。
俺自身も押金トリガーを緩めて重機関銃に視線を落とすが、装填された弾薬ベルトの長さが殆ど残っていない。
「残弾は?」
『02、残数約100、銃身交換を実施!』
2m近いガタイを持つマッチョが俺の背後に跪き、荒い息でそう告げる。
ジュウウウ。異音に振り返れば、汎用機関銃の銃身だけが血で濡れる石畳の上に転がり、白煙を上げていた。
『コチラ03、100発を切ったぁ!』
そう応えたのは、小太りのシルエットを更にボディアーマーで膨れ上がらせた、もう一人の前衛。足早に後ずさりしながら、7.62mm弾をバラ撒く。
流石に残弾と銃身過熱が気になるのか、援護射撃は連射から点射へと切り替えられている。
――頃合いか?!
「前衛、攻撃を中断。全力で後退! 殿は01だ!」
「走れ! 走れ! 走れ!! 走れ!!」
映像資料
《カール・グスタフ》(自衛隊での呼称”カール君”)
https://youtu.be/NfxHg7AA8u0