人面獣 Ⅱ
掌に握られた質量と、腕の遠心力を目一杯利用した投擲。
安全装置を解除した手榴弾がブサイク面へと吸い込まれるのをギリギリまで見届け、そのまま身体を石畳に投げ出して伏せる。
Bomb !
極短い爆音と、空気中を伝播しヘルメットまでを震わす衝撃波。
更には、苦悶するかの如き咆吼が周囲に響き渡った。
攻撃型手榴弾 ――ベアリング球や金属片をバラまかず殺傷半径は数mと狭いものの、純粋な爆圧によって感覚器や呼吸器を損傷させる―― は、どうやら魔獣にも有効のようだ。
口元に浮かぶ笑みを抑えて顔を上げれば、のたうち回る《人面獣》の姿。
象どころか大型恐竜に迫るサイズの四足獣が、至近距離で大暴れする有様は悪夢そのもの。
しかも、俺と同じく伏せていた筈の《前衛》たちが、伏射体勢のまま制圧射撃を再開している。踏み潰される可能性すらある状況下で、損傷著しい《人面獣》の顔面を執拗に狙う算段らしい。
”少々、度胸が過ぎるだろ?!”
焦燥とも瞠目ともつかない感情が過ぎるのも一瞬のこと。俺も遅れじと《第三の腕》で保持された重機関銃をひったくる様にして射撃を開始する。
Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow! Dow!
無駄弾を避けるため短い点射を繰り返しながら、故意にトーンを落とした声で指示を飛ばす。
「前衛は相互に援護射撃を繰り返しつつ後退を開始」「可能ならば銃身交換を」
前衛にはリロード無しに500発もの連続給弾を可能にするアイアンマン・アモ・バックパックシステムを装備させているが、銃器自体は銃身過熱の問題から逃れることは出来ない。もし仮に、このまま連続射撃を続行するなら銃身変形による命中精度低下はもちろん、暴発の危険性すらあった。
『チッ…02了解』『03了解です!』
骨伝導スピーカーを通して内耳を叩いたのは、不承不承といった感じの応答。
《指揮官》としての冷静な部分が未だ統制の効いている現状に安堵する中、俺は機動力を削ぐべく《人面獣》の脚部に12.7mm弾を集弾させて、《後衛》に向けても声を張り上げる。
「後衛! 84mm砲準備!!」
映像資料
《第三の腕》
https://www.youtube.com/watch?v=ueNjFzFpb_Q
重機関銃《M2HB》
https://www.youtube.com/watch?v=PjCEz9y0sVA
《アイアンマン・アモ・バックパックシステム》
https://www.youtube.com/watch?v=OKOt0nSpWEY