異世界兵器を拾った件
「目が覚めたか」
瞼を開けた男にそう尋ねた。仰向けのまま男は眼だけを動かして私を見る。今の状況も私が誰だかも分からないだろうに男が驚いた気配はない。まだ自身に起こった事態が掴めていないのか。
「…………だれ」
だいぶ間を開けてから静かに声を発す。その声は酷く拙い。言葉を紡ぐのが慣れていないようなそんな声。
「私はアッシュ。お前は?」
「P-188」
男、P-188は機械的で拙い声という矛盾している声色にはなんの感情も乗っていなかった。その顔にも。目にも。
☆ ★ ☆
P-188と名乗った男は触手性植物ヌートイェラの特異種に囚われていた。 繁殖のための苗床として。
フュージの森には今から150年ほど前から触手の大量発生が問題になっていた。その原因が彼なのだろう。
私はブラウとヴィルディの三人でパーティーを組んで活動している。今回はフュージの森の奥深くにある泉に用があった。だが、そのフュージの森には触手によって進行不可となっていた。そのため討伐することを決行した。それがまさかあれほど大変だとはそのとき思ってもいなかった。
準備は万全に整えた上での戦いだった。が、それでも数日間休むことなく戦闘を余儀なくされた。日をまたぐほどの長期戦は長く生きていたが初めてのことだった。魔力が減る度にポーションを飲む。空となった瓶はその場に捨てたために足元には瓶や割れたガラスの破片が散乱している。ポーションを連続摂取すると効力が減るなんてそのとき初めて知った。
触手の親であるヌートイェラは植物の魔物で特異種の個体だった。そのため触手は自ずと強い生物となり魔法までも放ってくる。それはそれで苦戦を強いられるが、今回はそれ以上に厄介なことがあった。それが毒だ。触手に触れれば触れた部分から内部に毒が侵蝕する。厄介なことにその毒は相当な猛毒で、状態異常耐性の付与をしていた魔道具を上回るほどに強力な毒だった。毒を防ぐために倒したらその都度燃やさなければならなかった。
そうして襲ってくる触手を殲滅し終えた頃には満身創痍もいいところだった。疲労が溜まりすぎて脳が、身体が休むことを訴える。親、本体であるヌートイェラは魔力持ちの苗床を捕らえたらその場から動くことはないので近くにテントを張り、そこから数日間は休息に当てた。
体調が整ったら本体のヌートイェラを討伐し、無事に苗床となった魔力持ちの男を助け出すことが出来た。だが、助けた男はとんでもないスキルを所持していた。
【ステータス】
名前:P-188
性別:男
年齢:165
種族:人間
体力:100
魔力:1000000
物理攻撃:10
魔法攻撃:30
物理防御:20
魔法防御:100
俊敏:30
スキル:【言語翻訳】【毒袋】【毒無効】【絶対服従(呪)】【感覚欠落(呪)】【精神虚無(呪)】【蔓の加護(呪)】【生命維持(呪)】【寿命増加(呪)】【魅了(呪)】【修復(呪)】【容姿固定(呪)】【肉体改造(呪)】【魔力過敏(呪)】【感覚共有(呪)】【真実(呪)】【魔法(火水土風氷樹雷金光闇)】【鑑定】
異世界転移者特有のスキル、言語翻訳と全属性魔法持ち。これらを確認した時点で異世界から来た人間と確定出来る。異世界転移者……100年前に異世界人が大量に転移されたのはまだ記憶に新しい。大規模な転移は数十人に及んだ。能力の高さから各国が進んで異世界人を保護し出した。この男もその時だろうと思ったが時期が違う。ヌートイェラが増殖し出したのは150年前。少なくともこの男は大規模転移より50年は前にこの世界に来ている。
彼ら彼女らを鑑定したことがあるがこの男は異常過ぎる。
まず名前。記号のみで表記された名前は思わず己の目を疑った。本人もその名前で名乗ったのだから間違ってはいないだろうが、これではまるで兵器ではないか。
次に魔力。異世界人は個人差はあれどみな一様にして魔力量は高かった。が、この男ほど魔力が高い者はいなかった。桁が違う。もちろん、私の魔力量も他より群を抜いて高いが彼ほどの魔力は持ち得ていない。
そして毒袋。これは毒持ちの魔物が共通して持つスキルだ。体内で毒を生成、循環させる器官がある。問題はなぜ人間であるこの男が持っているか、だ。毒無効のスキルのおかげで生きていられるのだろうことは想像するに難しくはないが。それに普通の魔物であれば所持しているスキルは毒耐性だ。だがこれで触手が何故毒持ちだったのかが説明つく。苗床にするためにわざわざ耐性をつけ、そして生まれた触手に苗床である彼の毒スキルが受け継がれた。
それとは別に思わず額を抑えたのはこの呪のスキルの多さだ。スキルの半分が呪とかあり得るのか。いや、目の前に居るんだったな。ヌートイェラに付けられたであろう呪は10個。特異種はここまでするのかと本気で考えた。過去に被害にあった者の記録がないから一般的……と言っていいか分からないが、ともかく基準となるものがない。ヌートイェラからの呪もそうだが恐らく元の世界からのだろう呪もなかなか効力だ。
☆ ★ ☆
静かに上体を起こして私に正面を向ける。その際、被せていたローブが捲れて何も身に纏っていない肌が露わになっているのだが、男に気にした様子はない。さて、名前は何と呼ぶべきか。そのまま呼べばいいのだろうが、なんともな。
「お前は今の状況が理解出来ているか?」
コテンと首を傾げる。想像通りだったから驚きはない。
「初めに断言するがここはお前が住んでいた世界ではない。元いた世界からこの世界に転移して来たんだ。異世界、と呼ばれている」
「いせかい」
「そしてお前はヌートイェラと呼ばれる魔物の苗床にされ陵辱されていた」
「ぬーといぇら」
復唱するように呟く。その表情に変わりはない。表情筋が動かないのかと思ったが目を見ても動揺している様子もない。真実(呪)から考えていることはすべて言葉に発せられるから現状について思考を凝らしているわけでもない。
「鑑定を使ってみろ。スキルにあったから使えるはずだ。自分の手を見て鑑定、と言えば使える」
指示を送ればその通りに「かんてい」と呟かれる。自分の前に表示されたステータスを見ているだろう、目が動いている。だがやはり表情には変化は見受けられない。
「スキルに魅了(呪)という表記があるだろう。だから肌を一切見せない格好でなければ出歩くな。横にお前の衣服を用意しておいた」
裸の状態でいることになんの疑問も抱いていないような男に対して衣服を積んである場所を指さす。視線で辿っては見つけた服をノロノロと着ていく。
その間にマジックバックから先程加工した紙袋を取り出す。魅力(呪)は眼を見詰めると効果が表れるので単純に穴を開けるだけでは意味が無い。内側からは普通に穴が空いているように外が見えるが外側からだと目元が見えないようになっている。着替え終わった男に紙袋を被せ、さらにグローブ、靴を身に付けさせる。これで一切の肌の露出はなくなった。ちなみに発見時は何も身につけていなかった。全裸だ。寝ているときはヴィルディのローブを掛けただけ。
「紙袋を取るな。そして肌は絶対に出すな。特に眼。その眼を見ただけで相手は魅了に掛かるからな」
肯定するように頷く。
「テントを片付けるから外に出ろ」
指示を出すと文句も何も言わずに従う。この従順さは元からなのだろうか。それは判断出来ないが絶対服従(呪)の能力ではないことは確かだ。対象者は文字化けしたように書かれていて名前は判らないが定まっていることには違いない。
テントを片付けるとちょうどブラウとヴィルディが起きてテントから出てきた。
「あぁ、目が覚めたんだ。僕はヴィルディ。よろしくね」
「オレはブラウだ。よろしくな」
「……P-188」
「ぴー……え? えっと……アッシュ?」
ヴィルディが戸惑うように私を見る。名前のことだろう、頷くことで是と示す。
「えーっと名前が、名前じゃない……? あれ、僕何言ってるんだろう。うーん、なんて呼べばいいかなぁ」
「それならオレたちが呼び名、付けてもいいか?」
ブラウが尋ねると紙袋で分かりにくいが頷いたようだ。
「188……いちは、いは、あっ! イハヤってのはどう?」
「イハヤ……イハヤか。うん、いいんじゃねぇか。イハヤもそれでいいか?」
コクンと頷いた。否やはないようだ。というか喋らないな、こいつ。
「ねぇ、コレって髪、だよね? 僕が切ってもいい?」
コレ、とはイハヤから出ているピンク色のことだ。イハヤの身長の倍以上ある長い髪をそのまま引き摺って歩いていた。
ヴィルディがチラリと視線をこちらに向けてきたので魅了を解く魔法を発動して問題ない、とアイコンタクトを送る。 ヴィルディがイハヤに被せた紙袋を取ろうとしたらイハヤが紙袋を押さえた。
「あれ? イハヤ?」
「だめって」
……あぁ、私が言ったからか。
「今はいいぞ」
それを聞いたイハヤは押さえている手を引っ込めた。
「うっっわぁ、可愛い。わぁ、眼もピンク色なんだね。あ、ここに座って。それじゃあ髪切るよ」
「改めて見ても可愛いな。そこらの女より可愛いんじゃないか」
最初にイハヤを発見したのはブラウだ。その姿を見た瞬間、魅了に掛かっていた。助けたときには意識を失っていたので眼を見るのは初めてとなる。
「……よしっ、出来た。えへへっ、僕と同じ髪型」
「あっずりぃぞ!」
目の前で言い争っている二人をぼんやりと眺めているイハヤに再び紙袋を被せる。
「それじゃあご飯にしよっか。すぐ作るから待ってて。ブラウ手伝って」
「おう」
マジックバックから鍋や食材を出して調理を始める。私も机や椅子を出していると突然イハヤが椅子から立ち上がりフラフラしながら歩き出した。
「何処に行く」
肩を掴み問いかける。
「マスターのとこ」
「ここは異世界だと言っただろう。そのマスターとやらはこの世界にはいない」
マスターという人物が絶対服従(呪)の対象者なのだろう。酷なことだが誰がなんと言おうが転移したという現実は変わらない。だから早く現実だと受け止めるべきだと私は思う。言い聞かせるように一語一語丁寧に言う。
「ここは、お前のいた世界とは、違う世界だ。だから、ここにはお前しかいない。お前の言うマスターは、ここには、いない。この世界には、いない」
「っ」
マスターとやらがこの世界に転移しているのかは分からない。だが、100年前に転移して来た異世界人はみな天寿を全うして生きている者はいない。だから、言っていることはあながち間違っているわけでもない。
初めてイハヤの感情らしい言動が見れた。それは動揺かそれとも困惑か。或いは両方か。
「ようずみ……?」
小さく呟かれた声は震えていた。呪われていてもなお、マスターなる人物を慕っていたのか。
またフラフラと森の方に歩き出す。傷心しているだろうから少し放っておこう。一人の時間も必要だ、と元の場所に戻ろうとした。あろうことかイハヤは落ちている枝を拾い、その切っ先を躊躇うことなく自身の首に向かって突き刺した。
「なっ! 何をやっている」
切っ先は喉を貫くことはなかった。肌に当たる前にどこからかピンク色の触手が現れ出てきて防いだ。あれが蔓の加護(呪)か。もしその加護(呪)がなかったら確実に生命を落としていただろう。それほどに正確で、躊躇いがない一突きだった。
素早く近付き、枝を奪い取る。すると触手も消えていく。遠くに投げた枝の方に歩いていこうとするイハヤの腕を掴んで二人の元へと引き摺る。
「あっ、ちょうどタイミング良かった。ご飯の準備できたよ。……何かあったの?」
「ヴィルディ、スキルをイハヤに使え」
「えっ、うん。分かった」
昼食を後回しにしてイハヤを椅子に座らせ、その目の前に椅子を持ってきて腰を下ろす。ヴィルディは相手の思考や心意を読むスキルがあるので考えていることが筒抜けだ。これで嘘や誤魔化しも意味を成さない。……と考えて真実(呪)があることに思い当たる。しまった、つい癖でヴィルディに頼んでしまった。
ブラウも陰険な空気を察したのか作業を中断して席に着く。
「質問に応えろ。何故、あんなことをした」
言っている意味を理解出来ないのか首を傾げる。その様子に苛立ちが募る。
「さっきのことだ。自殺しようとしただろう。何故そんな行動をとったのかを聞いている」
自殺、と聞いて状況を理解していなかった二人が息を呑む。
「…………マスターのめい」
それ以外は何も言わず、口を閉ざした。ヴィルディを見遣る。
「嘘は言ってないよ」
それは真実(呪)により分かっている。
「記憶は」
「見たけど……なんて言うか、どうやって生きてきたのって疑問に感じるぐらい、記憶がない」
「見た範囲でいい。教えろ」
本人から問いただしても意味がないと判断した。他人の記憶を覗けるのもヴィルディのスキルの一つだ。
「……分かった。イハヤの記憶は三つだけ。驚くべきことにたったの三つしかなかったよ。一つ目は男、イハヤの言ったマスターかな? に命令されてる記憶だね。ジザァルに向かえ。そう告げられた途端その場にいた全ての人間が動き出した。その場にいる人の数は百は超えていると思う。皆似たり寄ったりな平凡な容姿をしている。イハヤも今とは姿が全然違うし。何か、筒状の乗り物に乗り込んでそれが空を飛んでいった。着いた場所は多分ジザァルと呼ばれた場所だと思う。そこは人同士が争っていて、イハヤ達はまっすぐその戦場へと突撃している。仲間が倒れても誰も気に止めている様子はない。血が飛び散り悲鳴や怒号が響き渡るなか、無言で走るイハヤ達。見ているだけで気味が悪い。二つ目はこの世界に来た当初の記憶。フュージュの森で目覚め、すぐにヌートイェラに囚われたみたい。三つ目はさっき起きてからの記憶。それ以外の記憶は一切なかったよ」
記憶が三つだけ。そんなことがあり得るのか?
二つ目と三つ目の間は恐らくヌートイェラが記憶を消していたのだろう。
イハヤのいた世界に魔法があるかは分からないが、忘却魔法に似た記憶を消す方法があったのだろうか?
「……そうか。苗床になっていた150年間はヌートイェラが消していたのだろう。問題は……」
「前の世界のこと、てか」
「これは、本人に聞くしかないだろう。記憶がないから話せるとは思わないが
「ヴィルディ、イハヤは今何を考えているんだ?」
「何も考えていない」
「は?」
「何も聞こえないんだよ。思考と言動が一致してる。それこそ、幼い子供みたいにね」
「そんな人がいんのか……?」
「僕だって驚いたよ。アッシュみたいに防がれてるわけじゃない。……信じ難いことにね」
沈黙が場に満ちる。スキルだけでも厄介なのに人格、いや出生か、もどうやら普通ではないようだ。ここからは本人に聞かねば分かりようがない。 答えられるかはまた別の問題。
気を取り直してイハヤに向き直る。
「イハヤ、ここに来る前のことを教えてくれないか」
「マスターのめい。じざぁる」
「そこでは何をしていた」
「せんそう」
「…………どうして、戦争に」
「マスターのめい」
堂々巡り。絶対服従(呪)で拒否権はないにしても嫌々従っていた、わけでもなさそうだ。
「……マスターとは誰だ」
「マスターはマスター」
「イハヤにとってマスターとはどんな存在だ」
「マスターはそうぞうしゅ」
「お前は何だ」
「兵器」
これには目を瞠った。自分で兵器と言うのか。
「日本って知ってる?」
ヴィルディの問いに首を横に振った。
「イハヤのいた世界には魔法は存在してた?」
これにも首を横に振った。
「マスターはどうやってお前を作った」
「……しらない。マスターはてんさい」
…………。
………………。
「どう思う」
「どうって、そのマスターって奴、凄いんだなって?」
「少なくても100年前の異世界人が居た世界とは別の世界だとは思うよ。紛争はあったけど戦争は遠い昔に終わったって言っていたから」
大規模転移時に来た異世界人は皆、日本から来たのだと言っていた。もしかしたらと希望的観測が頭に過ぎったが残念ながらもう生きている者がいないので仮定の話にしか過ぎない。
「なぁ、イハヤ、どうするんだ?このままって訳にはいかねぇんだろ」
「生かすか殺すか」
「殺すって……」
「蔓の加護(呪)があるから物理で殺すのはまず無理だろう。さっきもそうだったからな。殺意はなかったがそれでも防がれた」
「大人しく寿命が来るのを待つしかないってこと?」
「それか栄養を取らないで衰弱死するか、の二択といったところだな」
「寿命って、そういやイハヤって何歳なんだ?」
「165歳だ。ヌートイェラの繁殖を考えてもここに来たのは恐らく150年ほど前」
「じゃあ15歳かぁ。えっ、そんな子供が戦争に送られたってこと!?」
「寿命増加(呪)のスキルで500歳まで生きられるようになっている」
「てことはあと335歳……結構先だな。栄養を取らないってのは?」
「生命維持(呪)で固形物を一切受け付けない身体になっている。しかも他人の体液を直接摂取しなければ栄養を取れない」
「ここに放置すれば弱って死んでいくってことか」
「人が寄り付かなければ、な」
「魅了があるから、でしょ?」
「さらに毒持ちだ」
「それがなんか問題なのか?」
「魅了(呪)によって魔法抵抗がない者は強制的に性的欲求が刺激される。そしてイハヤは毒袋を持っている。しかもその毒は猛毒だ」
「つまり……?」
「イハヤと行為を及ぼそうとした者の殆どは死ぬだろう」
「えっ、じゃあオレ、あの時やばかった……?」
頷くとブラウが真っ青になった。
このなかで魔法防御が一番低いのはブラウだ。次いでヴィルディ。私は魔法で常時防いでいるので効かない。
イハヤの毒は猛毒のため毒耐性を持ってしても危うい。そのため魅了(呪)に掛かったらほとんどの者は抵抗できずに死ぬことになる。
魔法防御が人より高いヴィルディですら生命維持(呪)の飢餓時の発情状態に耐えられるかどうか、といった具合だ。呪の効果は強力で本人の意思など関係ないし抵抗する余地もない。
まさに天災級の兵器が厄災級の化け物へと成った。
国が保護しようものならその国自体が滅びる。仮に軍事目的で使おうとしてもメリットよりデメリットの方に大いに傾いている諸刃の剣となる。
「待って待って、イハヤっていくつ呪を持っているの?」
「ヌートイェラによって付与されたであろう呪は全部で10個。蔓の加護(呪)、生命維持(呪)、寿命増加(呪)、魅了(呪)、修復(呪)、容姿固定(呪)、肉体改造(呪)、魔力過敏(呪)、感覚共有(呪)、真実(呪)だ」
「だろうってどういうこと?」
「元の世界からの呪だと予想される呪スキルが絶対服従(呪)、感覚欠落(呪)、精神虚無(呪)の三つある」
まあ絶対服従(呪)に関してはマスターがいないので問題はないが。
「そんなにあるの!?」
「マジか……」
「生かすにしろ殺すにしろ、一苦労だろうな」
生かすなら猛毒に対抗出来る者が彼の寿命が尽きるまで体液を供給しなければならない。逆に殺すなら魅了(呪)に対抗出来るほどの魔法防御を備えている者が周囲に人が寄り付かないように監視、誘導しなければならない。
「……オレは、イハヤに生きて欲しい。助かった命を蔑ろにして欲しくないし……何より兵器のまま、なんの思い出もなく死ぬなんて哀しいだろ」
「僕もイハヤに死んで欲しくないなぁ。まったく裏表ない人に会ったなんて初めてだったし、なにより可愛いしね!」
「それなら、誰がアレの面倒を見るんだ」
誰って、ねぇ、とブラウとヴィルディが視線を合わせる。そして二人の視線が私に向けられる。
「魅了も毒も効かない人なんて、僕はアッシュ以外検討もつかないけど?」
「それに寿命もあるからな。アッシュの他に適任はいねぇんじゃねぇか?」
二人の言い分は理解出来る。私と同等、もしくはそれ以上の魔力持ちかつ常時防御魔法を発動出来る人にあったことはない。いや、探せばどこかにいるかもしれないが。
「……はぁ、分かった」
まぁ、国に保護させたところで壊滅するのは目に見えている。それなら私の目の届く範囲に留めた方が対処しやすい。
「イハヤ、お前は私が保護する」
三人で話していることに興味を示さないのか。どこを見ているのか分からない、いや、何も映していないのかもしれない。身動ぎ一つしないイハヤに結論のみを告げる。
「わかった」
特に理由も聞かずに受け入れた。それはもう、呆気ないほど簡単に。自殺を図ろうとしたのに、これでは拍子抜けもいいところだ。生きることに疑問を抱かなのか。
「イハヤ、いいの……?」
ヴィルディの問に首を傾げる。
「僕たちはイハヤの意思も聞かずにきみの未来を決めた。死のうとしたきみを生かすと勝手に決めたんだよ?」
「それが」
「それがって……」
「しねないのなら、なんでもいい」
諦観、か? まあ、生きると言うのならなんでもいいか。
「んじゃま、これで決定だな。あー昼飯遅くなっちまったな。腹も減ったし食べようぜ。アッシュ、昼食後は予定通りに移動するか?」
「そうだな。当初の目的通り泉へと向かう」
ブラウは立ち直りが早い。一方、ヴィルディは未だ納得いかないのかむくれているが、まぁそのうち平常に戻るだろう。
成り行きで異世界の兵器を拾って保護することになった。兵器として生まれ育った彼には情緒がないが指示を送れば忠実に動く。まぁ雑用として使う分にはちょうどいいかと私は割り切った。
設定が殆ど生かされなかったので人物紹介
イハヤ(P-188)
人間
栗髪栗眼褐色肌→桃色髪桃色眼雪のような白い肌
15歳→165歳
戦場に投下されたらいつの間にか異世界に来てしまった兵器少年。人間でありながら体内に毒を持つ。文字通り腹に一物(爆弾)あった。転移直後は自害しようと爆弾を起動させるも、爆発する前にヌートイェラに囚われる。自身の毒耐性が強くて猛毒を宿したその体は同じPの兵器の中でも最上位に位置するほどに上出来な個体。生まれてから初任務までスリープ状態で育てられたので記憶はない。言語と極めて最低限の知性と洗脳プログラムが脳にインプットされている。倫理観や道徳観はもちろん備わっていない。洗脳が絶対服従(呪)として変換された。マスターの情報は噂程度しかインプットされていないので名前も住んでいる場所も分からない。数々の呪が白い肌に刻印されているため全身に刺青をしているような感じになっている。アッシュ以外は現状見ることが出来ない。実年齢165歳、肉体年齢10歳、精神年齢0歳の色々な意味で年齢詐欺。
アッシュ
エルフ
肩で一つに括って垂らしたプラチナブロンドの髪に碧眼
263歳
エルフのため長寿。およそ1000歳まで生きるとされている。鑑定持ち。突出した魔力量と魔力操作により常時多くの魔法を展開し鉄壁の守りを築いている。そのためイハヤの状態異常は効かず、またヴィルディの思考を読むスキルなども防いでいる。基本無表情で冷たい印象を与えるが根は優しい。
ヴィルディ
ハーフエルフ
マッシュルームヘアのプラチナブロンドの髪に薄紫色の眼
97歳
エルフと100年前に召喚された異世界人の間に生まれたハーフエルフ。寿命はエルフの半分の500年。親が異世界人のため日本の話をよく聞いているので他の人よりは詳しい。他人の思考を読むスキルや言葉の真偽を判断する真意を見抜くスキル、記憶を見るスキルなどを持っている対人チート。幼い頃はそのスキルのせいで何かと苦労したが今では人の裏表の差を楽しんだり、黒歴史をこっそり覗いたりと私的に有効活用している。明るい性格と言動をしているが腹黒。分別はあるため個人情報を勝手に明かすことはない。
ブラウ
人間
短髪の朱髪に橙色の瞳
23歳
筋骨隆々で力が強い。思考力は人並みだが気持ちの切り替えが早い。自身の身長よりも大きい大剣を扱い、その威力、破壊力は抜群。魔力は他二人よりかは劣るが人間という括りの中では高い方。イハヤを救い出したときにあまりにも妖艶な容姿に一目惚れをしたが容易に触れることが出来ないと知り傷心。
マスター(???)
人間
年齢不詳
イハヤの創造主。自他ともに認める天才であり真正の狂人。どの国にも属しておらず、無人島を拓いて研究施設を建てそこに籠っている。兵器を造ることが目的でその後は考えていないし一切興味ない。戦場に兵器を投入するのは数減らしのため。たまに適当な国にも投入しているが特に目的はない。超迷惑イカレ野郎。兵器は施設から出すイコール死を示すため、生き残ることはまず無い。殺されなくても捕まったとしても洗脳プログラムによって自害する。全世界の人間から恐れられてい、災害レベルの極悪な異人と認知されている超危険人物。島全体を特殊な電磁波で覆っているため、外部からの侵入、攻撃、その一切を防がれているために手出しが出来ない。造っている兵器のほとんどがアンドロイド。ヴィルディが見た記憶でもアンドロイドが大半を占めていて、人間は数える程しかいなかった。兵器は年々改良されていき、苛烈さが増していく。現在は合成獣を作成中とのこと。
ヌートイェラ
触手性植物の特異種
高魔力持ちの人間を苗床にして繁殖する。自身の活動範囲に突如として高魔力持ちが現れたので嬉々として回収。しかし、毒により接触が出来ず落胆した。高魔力と毒を天秤にかけ悩んだ末に高魔力をとった。接触出来る(毒耐性取得)まで結構な月日がかかった。苦労植物。