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ゼリービーンズをつむぐ  作者: Bunjin
第一章 武鎧 摩唯伽
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「武鎧さん。明日の誕生会の食材、買い出しに行こうぜ」


 白井君が森田さんと連れ立って、私を誘って来ました。新入社員間の親睦を深める為に、私たちは一年間だけ毎月の誕生会を開催することを決めたのです。これは研修課題だったけれど、何をするかは私たちで決めたことだった。


 私は同性なのに森田さんに見惚れてしまう。すらりと背が高くて、手足が長い。特にスカートから伸びる綺麗な脚は魅力的でした。同じ人間でもこれ程の差があるものなのかと、私は自分と見比べて溜息を吐いたのです。


 白井君もそうだ。ハーフかクオーターっぽく、日本人らしからぬ容姿をしています。だからグローバルなこの会社には打って付けで、研修生の中ではとても期待されていました。


 二人とも只々羨ましい天与の賜物を持っている。私に少しでもそれがあれば、人生の色は違って見えたのかもしれない。


「ちょっと待って、お金を持って来るから」


 会計係をしている私は、会社から預かった開催費を管理していました。


 保養所の車を借りているので駐車場に出ると、目の前に広がる穏やかな海の景色は朝とは違った壮大さがあった。私にとっての海は、まるで海外に行った気分になれる。裸足で砂浜を歩くのに憧れている頃もあった気がします。


「富士山が綺麗だ。やっぱり本物は違うなぁ」


 突然に白井君が大声で言いました。自己紹介で確か秋田県出身だと言っていたと思う。白井君は大袈裟に夕焼けに赤く染まる富士山を見て興奮していたのです。でも、私も綺麗だと思うけれど、海ほどの感動はしませんでした。


「本物って?」

「実家から秋田富士が見えるんだよ。鳥海山なんだけど、本物には敵わない」

「ふーん、白井君は富士山を初めて見るの?」

「東京から西に来たことがない」

「おらも岩手出身だっけ同じだあが」


 森田さんの方言が出た。気を許した時に癖が出てしまうと言っていましたが、特に男子の前だけなのでわざとらしさを感じています。


「おい、森田。訛ってるぞ」

「あっ。ご免ご免、白井。気を付けるね」


 もう互いに呼び捨てで仲良くしている。東北地方出身同士だからなのかと思うのと、二人とも私とは違って異性に対する距離が近いからなのかなと思う。


「武鎧さんは岐阜だったかな」


 白井君が私に近付いて来る。既に腕が届く距離になって歩いていました。


「うん、そう」


 何気なく一歩下がって、私は距離を保ちました。ここから先は男性を踏み込ませない。私はその意識が強いのかもしれません。しかし、白井君にはそれが伝わらない。私が下がった分だけ踏み込んで来る。


「だから富士山よりも海を見ているわけだ」


 言いながらぐいぐいと迫って来る。苦手なタイプに私は辟易しました。


「早く行こうよ」


 私が白井君から離れたがっているのを見て、森田さんは笑っている。嫌っているのを気付かれたのかもしれない。でも、それならそれで女性同士なのだから助けてくれても良いのにと思うのでした。


 車は当然のように白井君が運転してくれたのは、男性としての優しさと言うものなのでしょうか。更に森田さんが助手席に先に乗って、私を後部座席にしてくれたのには素直に感謝しました。


 車で二十分ほど行くと、ショッピングセンターに到着した。広い駐車場はほぼ埋まっていて、入り口から離れている場所しか空いていませんでした。


「おい、ここからは富士山が目の前だぞ」


 白井君が惚れ惚れと見入っていますが、私には海が見えなくなったので残念で仕方ないです。


「早く行こうよ。帰ったら今日の課題をしなくっちゃ」


 そう言って白井君の腕を取る森田さんは方言を無くしています。本当に二人は仲が良い。もしかしたら付き合っているのでしょうか。私はそういうことに無頓着です。今までに男子とそうなりたいと願ったことがない。勿論興味がない訳ではなくて、そういう人がまだ現れていないだけのことでした。

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