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ゼリービーンズをつむぐ  作者: Bunjin
第一章 武鎧 摩唯伽
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「佐藤さん。これからの予定って、どうなっているんですか?」


 まだ就業時間になっていないのに、仕事の話をするのは躊躇われたけれど、佐藤さんが何を教えてくれないのが悪いのよ。


「昼までに機械をばらした後、使えそうなものを仕分けたいと思っているけれど、全部交換かもしれないね。明日中に新しい部品を組み立てて機械に取り付ける。明後日には動作確認をして終了かな」

「うぅ」


 思わず唸り声を上げてしまう。やっぱり明後日までいなきゃいけないみたい。まぁ、それならそれで楽しみながら仕事をしよう。どうせまだ役には立てない私なんだから、出来ることを考えよう。


 食事を終えて、佐藤さんとコーヒーを飲みながらも、あれこれと考えることがあります。昨日佐藤さんに教えてもらったことは、ノートに書き込んである。それを思い出しながら質問を考えるのに没頭しました。


「そろそろ行こうか。始業十分前」

「はいっ」


 私は元気に返事をして勢い良く立ち上がった。佐藤さんがそれを見て、口元を歪ませている。はしゃいでいると思われたんでしょうか。でも、私は若いんだから当然なんですよ。


 工場の入り口で勤怠管理のタイムレコーダーに記録をした。今日からの三日間はここに出勤になるので、配属先に出勤するのと同じようにすると教えてもらった。


 昨日のレーザー加工機のところに行くと、何だか様子が変わっている。カバーが外されて、厳つい鉄骨の柱や黒いホースがぶら下がっているのがたくさん見えました。私たちが帰った後も、誰かが遅くまで残業をして作業をしてくれていたんだと感動しました。


 野山係長が機械の陰から現れた。しかもそれは隠れていたのかしらと思えるタイミングでした。


「おはようございます」

「おはよう。二人とも朝礼に参加してくれ。KYKを実施する」


 KYKって、あれだよね。保養所での研修で叩き込まれている。危険予知活動で、作業開始前にそこに潜む危険要因と誘発現象を話し合うことです。


 朝礼に参加する作業者たちが円陣を組んで一人ずつ順番に発表していく。それを聞いていると成程と感心します。そんなところにも危険が潜んでいるなんて思いも付かない。皆さんは素晴らしいなぁって感じました。普段の生活にも関連するような危険も指摘されている。保養所で習ったこととは、ひと味もふた味も違っていて面白いわ。


「武鎧さんは、何かあるかね」


 それは私の順番だった。野山係長が質問してくれます。


「はい。機械が稼働して体が挟まれる」


 間髪を入れずに言ってみた。うんうんと頷いてくれている係長が嬉しそうでした。


「分解をするときは整理整頓して足元を確保しよう、ヨシ!」

「本日もご安全に」


 結局、佐藤さんの言ったものが最終の行動目標になった。流石は佐藤さんだねぇ。教育担当をしてもらっている私も鼻が高いわ。


 朝礼後の作業は佐藤さんと二人だけになった。私はまず工具の種類と名称を教えてもらえた。手伝いとしてあれを取ってと言われれば間違わずに渡せるように、手帳に図解入りでメモを取りました。何に使うのか用途はまだ不明だけれど、それは佐藤さんの作業をよく見て覚えれば良いと思う。新入社員なのだから分からなくて当たり前、出来なくて当たり前だと私は開き直っているのです。


「きららちゃん、これで金具のところのボルトを外してよ」

「はい」


 L型に曲がった六角形の棒を手渡された。これはえぇっと、六角レンチ。私は手帳のメモ書きを確認しました。サイズは六角棒の真ん中に6mmと書かれている。


 さぁ、どこのボルトのかな。私は佐藤さんが指差した辺りを探した。たくさんのケーブルが配線されている。これのどれかを外すのに違いない。


「どこの電気を止めましょうか?」


 ケーブルに金具が見当たらない。佐藤さんはどの金具を外せと言っているのかな。


「電気?」

「はい、電気のスイッチ」


 その途端、佐藤さんがじっと私の顔を見詰めた。えっ、私は何かへまをしたのかな。


「あのね、ボルトと言ってもボルトアンペアのボルトじゃないんだよ。機械屋ではボルトナットのことで、部品と部品を締め付けるもののことだよ」


 困ったように佐藤さんが教えてくれた。私はそれを聞いて思い出した。研修で習ったことだったのです。食堂で見ていたノートにもちゃんと書いていたのに忘れていた。


「あぁ、ねじのことですね」


 私はそそくさとケーブルベアの金具のねじにレンチを差し込んだ。


「うーん、正確にはねじっていうのは、ボルトの一部分だね」


 ! レンチで外しながら驚いてしまいました。


「あれ、これってねじじゃないんですか?」


 外したねじは、どこからどう見ても普通のねじにしか見えない。ボルトって何なの?


「ねじはこの軸の螺旋の溝がある部分。ボルトはそのねじに回す為の頭が付いたものだよ」

 !

「ほえぇ。面白いですね、機械って」


 何ということでしょう。正しいことであると疑いもしなかったのに、あっさりと否定されてしまいました。


 私が四つのボルトを外すと、ケーブルベアが外れました。でも、ホースやケーブルが繋がったままなので、それも外さないといけないと思う。


「ケーブルから片付けようか。まずは、ここの鍋小ねじを外そう」


 ドライバーを渡されて、鍋小ねじのキーワードを考えた。ねじなのだから、螺旋の溝のねじだけがあるのかしら。そう思って、佐藤さんが指示してくれた場所を見詰めた。


 何かの蓋がねじで止まっている。そのねじの形はさっきのボルトとは違っていた。レンチで外すような六角穴ではなくて、ドライバーで外せるように十字の溝がありました。


「頭が丸いから鍋なんですね」


 幸平鍋を引っ繰り返したみたいな形と思った。


「でも、小ボルトじゃないんですか?」


 ねじに頭が付いてボルトと呼ぶって説明されたばかりです。


「小さいのは、ねじって呼ぶ」


 さも当たり前だというように佐藤さんが言いました。何なんですか。意味不明ですよ、佐藤さん。


「あははは、同じようなものでも奥が深いんですね」


 佐藤さんからはそれ以上の説明をしてくれそうになかったので、私は取り敢えず笑っておくことにした。こうしておけば、お互いに気まずい思いをしなくて済む。いつも私はそうしてきたのです。

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