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ゼリービーンズをつむぐ  作者: Bunjin
第一章 武鎧 摩唯伽
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「おはよう、きららちゃん」


 朝からどんだけ食べるのよ。寮の食堂で予約した朝食を前にしている佐藤さんを見て、私は驚いてしまった。大きなお茶碗に御飯が山盛りになっている。まさかこれが普通サイズってことはないでしょう。少し心配になって周りを見回した。大勢の社員が一緒に食事をしているけれど、ご飯の量はいろいろでした。


「トレイにおかずの皿を押せて、御飯と味噌汁は自分で好きなだけ盛っていいよ」


 えーっ、そうすると佐藤さんは自分でこんなにたくさん盛ったのですか。そんなに食べてどうするの。馬鹿みたいに多い―――


「――― 御飯ですね」


 ついつい抑えている言葉の最後の部分が出てしまう。馬鹿みたいの部分から口にしなくて助かった。でも、危ういところでした。もし、そんなことをしてしまっていたら、私の研修はここで終わってしまうわね。


「もしかして朝はパン派?」


 ん? 私って嫌そうな顔をしている? それって、御飯が嫌なんじゃなくて、佐藤さんに驚いているだけですからね。


「いいえ、私の朝はいつも和食ですよ」


 ここは模範解答をするのが当然の場面だと思いました。それなのに佐藤さんの表情が曇ってしまう。こんなことでは何を答えて良いのか判断が出来ないじゃない。


「そうかそうか。でも、きららちゃんはブラックコーヒーが好きみたいだから、僕はてっきりね」


 ブラックコーヒー好きをチェックされている。嫌だなぁ、そういうの。監視されていたら大変なことになる。これは犯罪ですよ。私の教育担当者がストーカーになるなんて洒落にならないわよ。


「そうですよね。女の子ならカフェオレでしょうってことですよね」

「いやいや、そうじゃなくて」


 あぁ、そうだったわ。朝食は和食か洋食かって話をしているのに、外れた返事ばかりをしていたから、私が悪かったのかもしれません。


「食後のコーヒーなら自由に飲めるからね」


 何故か佐藤さんが申し訳なさそうに教えてくれる。やはり気を悪くしているに違いない。知り合って一日と少々。こんなにも早く行き違っていては後が思いやられる気がしました。


 ハムエッグと野菜サラダ。お豆腐とわかめの御味噌汁。御飯と納豆のパック。トレイに取ってテーブルに戻りました。


「いただきます」


 ちゃんと丁寧に手を合わせて言うのが私の習慣なのです。お父さんとお母さんにはそう教えてもらってきた。だからこれからもずっとそうしようと決めています。


 納豆をパックの中で掻き回していると、佐藤さんがそれを不思議そうに覗き込んでくる。


「あれ?」

「何ですか?」

「御飯の量はそれだけでいいの?」


 何ということでしょうか。佐藤さんには学習能力がないのでしょうか。それはハラスメントでしょう。ここがお店なら、また奢らせてあげるのにね。


「これでも多いくらいですよ。佐藤さんはさすが男の人だって量ですね」


 本当は馬鹿みたいに食べてるんじゃないわよと言いたかった。でも、それだけ言えて気分が良くなった。楽しくなって、お腹の底から笑いが込み上げてきてしまいました。抑え切れない程に私は笑ってしまう。こんなに笑ってしまったら、まるで佐藤さんを笑っていると他の人たちに勘違いされてしまうわ。


「ちょっと食べ過ぎだよね」


 ほら、やっぱり佐藤さんが気にしている。私もハラスメントをしている。御免なさい。


「でも今日と明日は泊りになるから、ずっとここの食事だけで間食はしない」


 あれ?


「えっ、明日もですか」

「昨日そう言ったでしょ」

「聞いてませんよ」

「あれ?」

「何ですか?」

「言ってなかったっけ」

「はい、一言も言ってませんでしたよ」


 どうやら佐藤さんにとっては、馬鹿みたいに食べてると直接言ってもハラスメントにはならないみたいと分かった。それを気にする男の人ではないのでしょう。だったら私も気にせずに食事をしようと決めました。


「美味しいですね。私って、御飯だけでも食べられるんですよ。でも、おかずがいっぱいあるから嬉しいです。朝から栄養満点!」


 女子寮でも自炊をしても碌なものを食べていない。まだ日も経っていないのに、朝食はおにぎり一つだけでした。だからちゃんとした朝食をここで食べられて嬉しい。

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