表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

終:トーキョームーン

 侯爵夫人はベッドの中で目を覚ました。


 いつの間にか日はとっぷりと暮れていて、満月から半分細った月が彼女の顔を照らしたからだ。


 ふと横を見れば、愛しい英武の寝顔がある。

 マスクを外した英武の口から、長い牙がこぼれている。


 侯爵夫人は、爪の先で英武の口を閉じさせた。

 寝ている間に口の中が乾くのはよろしくない。


 常であればこの時間にはとっくに目を覚ましているのだが、よほど疲れているのだろうか、唇に触れられてなお英武が起きる気配はない。


 起きる気になれないのは侯爵夫人も同じだった。帰ってきた彼にたっぷりと血を与えたからだ。


 気だるさに身を任せようとした時、自分を起こした月明かりが英武の顔に忍び寄るのを見て、侯爵夫人はぷぎぃと鳴いた。


 音声操作に反応してカーテンがひとりでに閉まるのを確認し、侯爵夫人は瞼を閉じる。


 彼女は豚だ。

 遺伝子組み換えで人間の骨髄を持ち、人と同じ血が体を巡っていても。


 だから、英武がどこで何をしてきたのかは知る由もない。

 しかし、英武が彼女を必要としていることは知っていて、それに満足していた。


 体の大きい彼女は英武が多量の血を吸っても死にはしない。

 人間では無い彼女は、長く血を吸い続けても吸血鬼になる事がない。

 吸血鬼を『人食いの化け物』ではなくすことができる存在。

 それが侯爵夫人だった。


 侯爵夫人の爪が英武のはだけた胸を撫でる。

 そこにはもう、何の傷跡も残っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ