序:4月1日
「緊急ニュースです。
今日、2025年4月1日午前9時ごろ、ジョーカー元大統領が何者かに銃撃されました」
リベラルで知られるニュースキャスターの横に動画が開く。
たまたま居合わせた一般市民の撮影だろう。
手ブレが酷いが、体格の良い老人が自分の胸に手を当てるのははっきりと見える。
その手の下から、抑えきれないほどの血が溢れはじめたのも。
誰かの――あるいは撮影者の?――の悲鳴。
崩れ落ちる老人を駆け付けた男が抱きとめた。
おそらくはSPか。
老人よりもなお体格がいい。
SPが口を開くと、彼らの周りに赤い靄がかかった。
しかし、老人が閉じかけていた目を見開いて何かを告げる。
何を言ったのかはマイクで拾い切れなかった。
すでに悲鳴に上げているのは一人ではなかったからだ。
「ジョーカー元大統領はフロリダ州立病院に搬送され、現在措置を受けていますが、病院到着時には既に心肺停止していたとの情報も入っています。
これはエイプリルフールではありません。
繰り返します。今日、2025年4月1日午前9時ごろ、ジョーカー前大統領が何者かに銃撃されました……」
ニュースキャスターの隠し切れていない「ざまぁみろ」感と、どう見ても必要ないエイプリルフールへの言及がネットでちょっと炎上したが、世界のほとんどの人間にとってはそれだけだった。
ここから先は、「それだけ」で済まなかった者たちの物語だ。
つまり、ごく一部の人間と――――吸血鬼の。