第参話 買い物に行く前に
前回の続きです。今回から新キャラ登場です。肝心の料理シーンがなくてすみません。いつか番外編で・・。
ぐいっ。
「ほら、そうと決まれば、行くよ。」
そう言うと、目の前の人間は、彼女の腕を引く。
「ちょっと、お金は、峰山がすべて管理しているのに、どうしろって言うんだ。買い物は、却下だ。」
残念ながら、彼女は一銭もお金を持っていなかった。
お金がない今、買い物に行くのは不可能で・・・。
「そうなの?でも、私が小学生の頃は、おこずかい貰ってたよ?・・・それじゃあ、しかたない。この郁さまが日ごろお世話になっている峰山さんのためにお金を出すとしよう。」
ふふんっ、と郁は得意そうに言う。
もし、ここに郁の隣の住人がいれば、いったい誰のまねしてるんだ? と、つっこむだろう。あいにく、今日は仕事が入っており、いない。
「じゃあ、お金持ってくるから、待っててね。」
ぱたんっ。
郁は、ドアを開け部屋に入って行った。
「あーあ。郁ちゃん、張り切っちゃって・・。お人よしだなあ。」
(そこが、いい所なんだけど。)
☆★☆★☆★
ばたんっ。
「さてと、そろそろ始めないと・・・なあ?」
ドア越しに靠れた其れは、そばで控えていた闇に向かって、にいっと、口角を上げた。
「・・なあって、言われましても。単にマスターが今の状態に飽きたからだと。」
ぼそぼそと、小さな声で話す闇は、其れに財布を渡す。
「くくくっ。わかってるじゃねぇか。おっ、時間だ。そろそろ、物語を進めるか。」
財布を受け取った其れは、静かにドアを開けた。
★☆★☆★☆
がちゃっ。
「おまたせ。今度こそ、行こ。」
ドアを開けた郁とともに、買い物をすべく、これからスーパーに向かう。今まで、峰山に連れられて来たことは、ある。初めてスーパーに来た時は、新鮮さに驚いたものだ。
(だが、何か忘れてそうな気がする。)
財布を持ち、準備万端な彼女らだったが・・。
(何か重要な事を・・・。)
考えてみよう。彼女は、元々、料理を教えてもらえないか、郁に頼みに来た。よって、すぐ買い物をするためではない。このまま、あっさり、近所のスーパーに行っていいのだろうか。
「・・・・・・。」
しばらく、考え事をして、眉を寄せ始めた彼女に郁は気がつかないはずがない。
「どうしたの?由美子ちゃんってば。何かうわの空だけど・・。まだ、気がかりでもあるの?」
ここまできて・・・。
気がかりは・・・・。
ドドドド
今、彼女の脳内に青い雷鳴が鳴った。
「うわぁぁあああああああああ。大変だああああああ。」
彼女は、顔を真っ青になり、両手を頭に置き、ご近所の住人の迷惑も忘れて叫びだした。
「ど、ど、どうしたの?由美子ちゃんってば。ううっ。」
突然の大声に郁の頭は、きーんと脳内に響いる。このとき、郁は、ただ事ではないことを感じた。
「すっかり忘れるところだった。このまま買い物に行けば、峰山は、家中探し回り、いかにも高熱、体がふらふらにもかかわらず壁をはいつくばりながら私を探すことになる。家中にとどまわず、マンション中を探し周ることに・・・。きっと、再開するころには、病院のベットに決まっている・・・・・。それから、・・・・になって、・・・・。・・・・・で、・・・・・。」
と、彼女は、ぶつぶつと、おもわず意識が遠くなりそうな長いセリフをしゃべっている。
そんな彼女に、郁は、
「おーい。由美子ちゃん、戻ってきて~。ようは、病気で寝込んだ峰山さんに話さすに、買い物に行こうとしていたってことだよね。」
呆れながらも。彼女の言っていたことをまとめる。
「そういうこと。私としたことが、不覚。これじゃあ、何のためなのか、わからない。」
思いっきり、落ち込んでいた。
「落ち込んでいる場合じゃなくてぇ・・・・。でも、心配だよね。留守中、どうしようか。」
なんだか、よくわからない世界に飛べこんで行きそうな彼女をほっておくとして郁は留守中、峰山の容体が急変したらということを考えていた。こういうときに、誰かがいてくれたら、ありがたいのだけど。はたして、このマンションの住人にいたのだろうか。頭をひねって考えてみる。
「あっ。」
郁は何かひらめいたようだ。
「いたいた。年がら年中、マンションにいる人。」
―――彼に頼もう。
そうと決まれば・・・。
すたすた歩き出した郁に今まで妄想の世界に入っていた彼女は、眉をひそめる。
「おいっ。どこ行くんだよ。」
あわてて郁の後に付いていく。
「あっ。やっと、気が付いてくれたんだ。心配だったんだよー?もう、こっちに戻ってこない気がして。その間、それはもう、一生懸命に留守中の峰山さんをどうするか真面目に考えていたんだから。」
郁は、振り向かずに答えながら下の階に通じる階段を降りる。
「とりあえず、春日にでもまかせようかなと・・。」
ピンポーン
説明すると、ここは彼女と郁が住んでいた3階の下の階。つまり二階という事になる。
ガチャ
出てきたのは、黒髪の少年。外見は、中学生ぐらいだろうか。彼の名前は、星野春日。女みたいな名前だが、断じて違う。立派な中学二年の男子生徒である。彼の特徴といえば、首からホワイトボードをぶら下げ、右手には黒いサインペンが握られていた。なぜなのか今の段階では分からない。まあ、そのうち明らかになる。彼は眠いのか、はたまた不機嫌なのか、何とも言えない表情で彼女達をを見ていた。
「春日。お願いがあるんだけど・・。」
郁は今までの事を説明した。
「・・・って、言う事なの。峰山さんは風邪で寝込でて一人にするわけにもいかないでしょ?」
この状態だと、郁がどのように春日に説明したのかは、わからないが、まあここは、これをいままで読んでいた人の想像におまかせしよう。
ここで、春日は何かを言うのかと思ったら、ホワイトボードになにやら書き始める。彼曰く、『・・・それは、大変な問題。峰山さんに日ごろの感謝をこめて何かしたいのはわかるけど、ほっとくのは、まずい』と。
「そう。だからね、ようは一人にしなかったらいいわけなの。だからね。春日、あんたにその役目を頼もうと思って・・。」
にこにこ。
郁は、普段、双子の片割れ以外にはおっとりとしているが、時々とんでもない、はたまた厄介な事を思いつき、振り回す。いっけん、純粋そうな微笑みに見えるが、それは、小悪魔な微笑みではないの・・・と、これ以上好き放題に書いていたら彼女の機嫌を損ねることになるので止めておくが。
「ちょっとの時間でもいいんだ。お願い。」
彼女も、真剣な顔つきで頼んだ。
春日は、彼女の表情を見てホワイトボードに書きだした。彼が書いたものは、『・・・ちょっとの時間なら、いい。僕だって、普段お世話になっているし。』と。
「ほんと?ありがとう、春日。留守番よろしくね。」
こうして、半ば強制的におしつけて、買い物に行くことになったのである。
*******
彼女達がスーパーに行き、買い物をしている頃、物語は打って変わり、なぜか隣町に移り変わる。メインストリートでは、部活帰りであろう学生たちの姿や休日を楽
しむ親子ずれといった人々で賑わっていた。それをメインストリートから離れたビルのおく上から望遠鏡を持ち、眺める姿があった。
「つまらんなあ・・・。どこも人、人、人。」
その姿は左右対称に赤と緑で統一されていて、上から道化師が被るような帽子と上、ショートパンツ、尖がったショートブーツ。そして黒色の髪と瞳。瞳に関しては光に当たると少し茶色い感じがする。格好的には、まさしくサーカスで活躍してそうな道化師である。彼は一変、外見からは女性でもいけそうな気がするが男である。
「本当にこんな人通りが多い中、見つかるわけ?無理でしょっ。」
はあっと、ため息をついたのは、上から黒頭巾と白いリボンと夜の風景が描かれているワンピース。最も特徴的なのは、黒頭巾から飛び出したウサミミと、尻尾。これは、飾りではなく、本当に生えているのである。実は、黒頭巾には、穴が空いていてそこからウサミミが突き抜けている。本人曰く、別に萌えキャラになりたいわけではないが、ウサミミと尻尾に関しては、生まれつき。つまり、どうしようもない。まあ、以上のこの場所に似つかない怪しい道化師と、ウサミミ少女のコスプレ二人組であるが、本人たちは別にこれが普段の格好でもあり普通である。なんせ、これを書いた人間の表現不足があるので、この怪しい二人組に関しては、読者の自由な想像におまかせする。言っておくが、先ほど出てきた死神には全く関係がない。
「わかっているのは、この当たりに住んでいるという事。あの使用人め、うまいこと隠したなあ。」
彼らは、とある名家で雇われている秘密にこっそり活動している部隊の構成員である。道化師の格好をした彼の話から、ある人物を探しているようである。
「ねえ、ジョーカーちゃん。やっぱり、あの時、殺しておけばよかったね。なんで、逃がしたんだろう??あの・・・雨宮の小娘。」
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「いやー。いっぱい、買えたねえ。」
さて、謎の怪しい二人組の意味ありげな発言は、これからの物語にどう影響するのか知らないが、物語は再び、彼女達に移る。
作者が彼らのシーンを意味もなく書きたかったために買い物中、何があったのかはわからなかったが、野菜や肉といったものが入ったスーパーのビニール袋を抱えている所を見ると、買えたようである。彼女達は、マンションに帰る途中である。
「どうみても、買いすぎじゃないか?これ?」
あまりの量の多さに、疑問を抱く彼女だったが、
「まあまあ、何日かは保存できるし、当分、食糧にはこまらないよ。きっと。」
果たして、そういう問題なのか?は、わからないが郁はちゃんとこれからの事も考えて買っているのでなんとかなるだろう。
「たしかに、これで買い物にはしばらく行かなくていいし、なんとかなるかも。」
数々の疑問を残しつつも、二人はマンションに向かって歩き出した。
続く