第弐話 お嬢様の挑戦
前回から時間がかかってすみません。時間がかかったぶん、これから投稿しようと思います。よろしくおねがいします。
それは、よく晴れた日曜日に起こった。
今の時刻は、午前八時半。
雨宮家は、というと。
「だからおとなしく寝ろよ。後は、私にまかして、さ。」
「そうもいきません。すべては、じいにおまかせください・・ごほっ。」
朝から雨宮由美子とその元・使用人・峰山が言い争っていた。いや、元お嬢様と元使用人の攻防と言った方がただしいか。どうやら両者共引けないようである。
「しかし、お嬢様にそのような事を・・。」
「・・・っ。うるさい。私が洗濯物を畳んだっていいどろ。私だって、それくらい・・。」
右から小柄な印象の少女の名前を雨宮由美子と、言う。腰まで届くまっすぐな栗色の髪と灰色の瞳。その灰色の瞳は、不安げに揺れていた。現在彼女は、明らかに体調が思わしくない峰山の変わりに家事を行おうとしている所である。
その隣にいるのが、元雨宮家の使用人・峰山は白髪の初老の容姿。峰山の仕えるべき少女は、一度言い出した ら、聞かない、ゆずらないと癖のある人物。彼女の不器用さが発揮される前に慌てていた。
「だから、あのぅ・・。」
(そうにもいかないのですが・・。)
「・・ううっ。どうしてこう、うまく畳めないんだろ。」
彼女はいつのまにやら、峰山の変わりに洗濯物を畳もうとしているが悪戦苦闘。彼女が着ていたと思われる水色のティーシャツやスカートが無残にもしわくしゃになり、床に転がっていた。彼女は、それを見てため息をつく。
「由美子様、だから私が・・。」
慌てて峰山は、ふらふらになりながらも洗濯物を畳もうとするが、
「だ~か~ら。私がするの!」
彼女は、鋭い目でにらみ,洗濯物を素早くひったくった。
そんな彼女の様子に峰山は安心するはずもなく、はらはらと見守っていた。
(本当は、このじぃがやったほうがはやいのですが・・。だいじょうぶでしょうか)
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あれから、彼女は峰山に変わりに家の掃除、料理・・・としようとしたが、失敗ばかり・・。
生まれてこの方、お嬢様として育った彼女には家事は初めてで、いつも誰かにやってもらっていた。
じぶんから何かしようとするが、そのたびに失敗してしまう。
(その度に落ち込んで・・。いつも峰山に励ましてくれたっけ?)
あの時も・・。
舞台は、彼女の回想により、彼女が五才の頃に戻る。
雨宮という家柄に生まれた自分は、今の党首夫妻には、彼女以外、子供が生まれなかった。そのため、彼女が次の後継者候補。周囲から期待の目で見られる。
しかし、昔から不器用さは付き物。
「あーあ。後継者があれじゃあねぇ。」
「いつかつぶれてしまうわ。」
失敗するたびに、ため息・怒声はかえって逆効果。彼女の心を蝕み始める。
じくじく
しまいに周りの者は自分を見ようとしなくなり、まるで自分が醜い異物になったような軽蔑した眼で見られるようになるまでに、時間がかからなかった。
(だったら、初めからそんな期待した眼で見ないで。勝手に期待して。落胆して見捨てる。人間って、愚かな生き物。)
ここは、自分を見てくれる人なんていない。うわべっつらな人間ばかり。誰もが、仮面をかぶっているの。何もしらないくせに。
だから、彼女を支配するのは、絶望感ともどかしさ。
この気持ちを誰に伝えよう。だれがわかってくれる?
五才の少女には、とても耐えられない仕打ちだが、雨宮家は、関係ない。明治から数々の優秀な人材を送り込む名門一族。たとえ小さい幼くても、容赦がなく。小さいころから英才教育が施される。そうして、将来有望な人材を政治家・音楽家・評論家等を送り込む。
だが、優秀な人材を送り込む半面、将来、雨宮の名を傷つけると判断された人間は、消される。雨宮家専属機関の暗殺隠密部隊によって・・。
このままでは、自分はいずれ、
ケ サ レ ル
存在そのものが消えてしまうだろう。
でも、なぜだろう。
最近のじぶんは、そうなったほうがいいと思うようになってきた。自分は失敗しかしないから、周りに迷惑をかけてしまう。
きっと、自分は
誰からも
ヒ ツ ヨ ウ ト サ レ ナ イ
ニ ン ゲ ン
(でも、峰山だけは違う。)
自分を励まし、人間扱いしてくれたのだ。
(峰山には感謝している。私をいつも助けてくれて。でも、今の私はお荷物になっている。ただ恩返しがしたいだけなのに・・。)
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「こんにちは、郁ちゃん。」
彼女は考えた末、同じマンションに住む笹木郁という女性の部屋に来ていた。
「こんにちは、由美子ちゃん。」
郁は、にこっと彼女に笑いかける。
「お願い私に協力して。ね?」
「えーと・・。」
どこから突っ込むべきか、突然、彼女に真剣な顔でがしっと、腕を掴まれた。もはや、逃げ場はないのか。こんな10歳の少女に押し負ける私って、もしかして情けない?彼女は、困惑中。頭がショート、5秒前。5・・4・・3って、なに数えている私。
「峰山が風邪で寝込んだ。だから、料理教えて・・。」
彼女は、うつむいており、下からのぞきこむと真っ赤に染まっていた。
確かに郁は、幼いころから料理を仕事の遅い両親の代わりに作っていた。料理に定評があると、ついっ、もっと勉強したくなるわけで、めきめきと上達している。おかげでだれかさんには頼られる日々なのだが・・。
日ごろから妹のようにかわいがっている少女だ。まあ、力を貸してもいいか。
「いいよ。峰山さんには私もお世話になっているし。」
その瞬間、彼女の眼がきらっと輝く。
「さすが、かおるちゃん。話がわかる。」
(ふふ――っ。喜んでいる。さっきまでの落ち込んだ顔は、無くなったみたい。)
「そうと、決まれば、買出し行くよ。」
続く