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8

 追放の猶予期間はあっという間に過ぎる。

 三日後の朝、私たちは陛下と謁見するため王城へ訪れていた。

 私を先頭にして、妹二人が後に続いている。

 二人とも普段以上に緊張している様子がみてとれる。


「大丈夫よ。私たちはずっと一緒だから」

「アイラ……」

「うん!」


 準備は済ませてある。

 後は手はず通りに行動するだけだ。

 その前にまず、陛下と王子に直接伝えなくては。


「任せておいて。聖女らしく振舞うのは慣れているから」


 決して感づかれてはいけない。

 バレれば重い罪をかぶることになるだろうから。

 でも、きっと大丈夫。

 そのために必要なものは、ここでの生活で身につけてある。


 王座の間にたどり着き、扉の前で深呼吸をする。

 何度も訪れている場所だけど、自分の手で扉を開けるのは初めてだ。

 扉に触れ、押し開けるときに思う。


 この扉、こんなに重かったんだな。


「失礼いたします」

「……来たか」


 陛下の声には疲れがのっている。

 その発言は二重の意味で、来てしまったのかと口にしたようにも聞こえた。

 隣にいるデリント王子は、変わらずニヤニヤといやらしく笑っている。


「さっそくだが、結論を聞かせてもらおうか?」

「はい。私が聖女として残ります」


 私はハッキリとそう告げた。

 真っすぐに陛下の目を見て、嘘はないと訴えかけるように。

 陛下はしばらく黙っていたけど、長くはいた息の後で言う。


「そうか。では、他二名を偽聖女とし、国外へ永久追放とする。それで構わないのだな?」

「……はい」

「わかった。二人は明日の朝までに準備をしておくように」

「「はい」」


 さて、次は王子に言う番だ。

 私は王子に視線を向ける。

 すると、王子はニヤリと笑っていた。

 彼の頭に何が浮かんでいるのか、嫌な想像が脳裏をよぎる。

 本当に嫌気がさす。

 だから、こちらもキッパリと言ってあげよう。


「デリント王子」

「ん? 何かな?」

「先の相談ですが、丁重にお断りさせていただきます」

「ぅ……そ、そうか」

「はい。ですので、私一人です」


 妹二人は渡さない。

 そう言っていることが伝わるのは、王子だけだ。

 陛下は事情を知らなくて、キョトンとした顔をしている。


「デリント、相談とは何のことだ?」

「えっ、あー別に大したことじゃないよ父上。そうかそうか、実に残念だが仕方がないね」


 王子は誤魔化しているが、焦っているのが丸見えだ。

 陛下は王子に甘いせいで、これ以上の追及はなかったけど。

 きっと王子は心底怒っているに違いない。

 そうなると、追放される日が明日なのは、ある意味ラッキーかもしれないな。


「陛下、最後に一つだけお願いがございます」

「何だね?」

「まことに勝手ですが、しばらく一人にさせていただけないでしょうか?」

「……良いだろう。落ち着くための時間は必要だろうからな。明日からしばらく、屋敷への出入りは控えさせよう。デリント、お前もだぞ」

「わ、わかっているとも! アイラは私の大切な婚約者候補だ。うんうん、落ち着くまでゆっくりすると良い」


 陛下が王子にくぎを刺してくださった。

 ありがたい。

 王子に勝手をされては、私たちの作戦がバレてしまうかもしれないから。


「ありがとうございます」

「お礼など……言われる立場ではない」


 陛下はぼそりとそう言った。

 この決断は、陛下としても不本意なのだろう。

 私も陛下も、本当に伝えるべきはありがとうではなくて……


 ごめんなさい陛下。

 私たちは、貴方のやさしさを裏切ることになります。

 それでも、三人で幸せになる方法はこれしかないから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 運命の朝がやって来た。

 二人は聖女の服から地味な女性服に着替えて、馬車の荷台にのり込む。

 運転は騎士の一人がやってくれて、門を出たら二人の内どちらかに交代する予定だ。


「準備はよろしいですか?」

「はい」

「大丈夫です」

「……わかりました。では出発いたします」


 騎士の一人は心配そうに屋敷の二階を見ていた。

 きっとアイラが見送りにきていないことを案じていたのだろう。

 彼女は昨日から、自室にこもりっきりで出てこない。

 陛下からの命令で、使用人も中へは入れないので、様子もわからなかった。


 屋敷を出た馬車は、王城を出発する他の荷馬車と合流する。

 六台に紛れて、王城の外へと出る。

 王城周辺は他の騎士たちが警備にあたり、暴動の被害にあわないように配慮されている。


「偽聖女を出せぇ!」

「裏切者め! 俺たちを騙してやがったなぁ!」


 荒れ狂う国民の声が響く。

 日に日に暴動は激しさを増している。

 それも今日で終わるはずだと、誰もが思っていた。


 馬車は貴族街を抜け、商店街を抜けていく。

 首都を囲う巨大な壁の向こう側は、広大な草原が広がっていた。

 門を抜けると、一台だけ馬車が道を外れる。

 ある程度の距離まで来ると、騎士が馬車を停めて降りる。


「お二人とも、私はここまでになります」

「ありがとうございます」

「運転はボクが代わるね」

「はい。では、お気をつけて」


 騎士は深々と頭を下げた。

 色々と思う所はあるのだと伝わってくる。

 サーシャが運転を代わり、さらに離れていく。

 しばらくして、一本の木が見えてきた。

 後ろを振り向いても、首都は小さくて見えなくなっている。


「ここまでくれば大丈夫かな?」

「たぶん」

「じゃあ出してあげようよ!」

「そ、そうだね。きっと暑苦しくて大変」


 そう言って、二人が荷台へ向かう。

 荷台にはたくさんの荷物が積まれているが、一つだけ新たに追加した袋がある。

 袋を開くと、その中身は――


「ぷはっー! やっと出れたわ」


 元気なアイラだった。

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少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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