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 デリント王子が去っていく。

 その様子を窓から眺めながら、出された条件を頭の中で反復する。


 三人のうち一人が王子と正式に婚約すれば、残り二人の居場所は確保される。

 ただし、匿われる形になるため、しばらく人前には出られない。

 加えて、二人は王子のお世話をしなくてはならない。

 拒否すればどうなるかなんて、考えるまでもなく予想がつく。

 そしておそらく、このことを陛下は知らない。


「……アイラ」

「アイラお姉ちゃん」


 二人が心配そうに私を見つめてくる。

 私は安心させるためニコリと微笑み、二人の頭を撫でて言う。


「大丈夫よ。もう少し考えましょう」

「わかった」

「……うん」


 と言っても、あまり時間はない。

 残り三日間で、私たちは結論を出さなくてはならないから。

 私は自分の胸に手を当てて考える。 


 どうする?

 王子の提案を受け入れれば、一先ず王国内で生きていくことは出来る。

 でも、その代償が大きい。

 何より嫌なのは、婚約した人以外の二人が、その役目を負うことになることだ。

 私も嫌だけど……せめて私なら良い。

 だって私は長女だから、妹二人のために身体を張るくらい出来ると思う。

 

 率直な気持ちを言えば、そんなのは嫌だ。

 婚約者になっても、たぶん私は言いなりになるしかない。

 弱みを握られている以上、対応は二人と変わらないと思う。

 それでも彼は王子だから、最低限の安全と生活はきっと許される。

 

 でも、だけど……

 これしか方法はないの?

 私たち三人が幸せになるには、彼に従うしかないの? 


 考えがまとまらない。

 悩みに悩んでいると――

 

 トントントン。

 

 部屋の扉をノックする音が聞こえて、私はびくっと反応する。


「聖女様方、陛下よりお荷物をお届けにまいりました」


 男の人がそう言った。

 陛下からの荷物……と疑問を感じたが、すぐにピンときた。

 あの時話していた二人分の活動資金のことだろう。


「どうぞ」

「失礼いたします」


 扉がガチャリと開き、使用人の男性が中へ入ってくる。

 手には大きな袋を持っていて、近くの机に置く。

 置いたときに聞こえた金属音で、中身がお金であることを察した。


「こちらになります」

「はい、ありがとうございます」


 確認のため、私が中身を見る。

 予想通り、中身はお金だった。

 ただし、予想した以上の大金が、袋一杯にびっしりと入れられていて驚く。


「こ、こんなに?」

「外に馬車が止められています。そちらにも荷物が用意されていますので、後でご確認ください」

「は、はい。わかりました」

「では私はこれで失礼いたします」


 ささっと使用人の男性は部屋を出て行く。

 三人だけになった私たちは、こぞって袋の中身を確認しなおした。


「二人とも見て」

「全部お金?」

「こんなにたくさん……」

「ええ」


 正確に数えていないけど、街で部屋を借りて、普通の生活が五年は出来る金額が入っている。

 陛下は二人分とおっしゃっていたけど、三人でも三年くらいなら余裕で暮らせる金額だった。

 大金を見せられて、妹たち二人は目を丸くしている。

 こんな状況じゃなかったら、サーシャなんて大喜びで飛び跳ねているだろう。


「アイラ、外にも馬車があるって」

「そうね。確認してみましょう」


 先に窓から見下ろす。

 サーシャが見つけたようで、指をさして言う。


「あれじゃないかな?」


 思ったより大きい馬車だ。

 見た目は確か、荷物の輸送で使う物と同じ。


「なるほどね」


 この状況で、二人をどうやって国外へ連れていくのか疑問だったけど、これで納得した。

 四日後の朝に、王城を出て行く積み荷がある。

 それに紛れさせて、二人を乗せた馬車を国外で出すつもりみたい。

 だから陛下も、三日間を期限に設けたのだろう。


 私たちは屋敷を出て、庭に止められた馬車へ近づく。

 後ろの布で覆われた積み荷を開けると、衣類や生活に必要な物品が数多く乗せられていた。

 ちゃんと人が乗れるスペースも確保してある。


「いっぱいあるよ」

「これ全部……わたしたちに?」

「そうみたいね」


 陛下なりのやさしさだとわかる。

 申し訳なさそうな陛下の顔が頭に浮かんで、余計につらくなる。

 これだけお金と物が揃っていれば、追放されても不自由なく生活は出来そうだ。

 もしかすると、王国に残るより幸せかもしれない。

 二人がそれで良いなら……ううん、やっぱり三人じゃないと――


 ふと、私の頭に一つの案が浮かぶ。

 それは名案かもしれないけど、いろんな人に迷惑をかける案だった。


「ねぇ二人とも、少し聞いてくれるかしら?」

「どうしたの? アイラお姉ちゃん」

「……何か思いついたの?」

「ええ。一つだけ、私たちが三人で一緒にいられる方法があるわ」

「それって王子様の話?」


 カリナの質問に、私は首を横に振って答える。


「違うわ。安全で言えば、デリント王子の提案のほうが良いと思う。だけどたぶん、それじゃ私たちは幸せになれない。私の考えてる方法は大変で、たくさん頑張ることがある。それでも三人で一緒にいられる……二人が――」

「「そっちが良い!」」


 二人は口を揃えてそう言った。

 わかっていたけど、ちゃんと言ってくれると嬉しい。

 私はニコリと微笑む。


「決まりね」


 ごめんなさい陛下。

 それと王子……貴方の思い通りにはならないわ。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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