表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
長女アイラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/50

 彼の顔の近さが恥ずかしくて、思わず突き飛ばしてしまった。


「いった! いきなり何するんだよ!」

「か、顔が近すぎるから!」

「そっちが転ぶからだろ? 助けたのに酷い仕打ちだな」

「そ、それは……」


 よく見ると、彼の膝が擦り剝けている。

 さっき助けてくれた時、膝を地面にこすりつけてしまったのだろう。

 私の視線に気づいた彼は、自分の膝を見て言う。


「ん? あー擦りむいてるな。まぁこれくらい平気だろ」

「駄目だよ」


 私はハッキリとそう答えて、彼の膝に手をかざす。


「ごめん。私の所為で出来た怪我だから、私が治すわ」

「何だお前? 治癒魔法が使え――」


 祈りの光が彼の膝を包み込む。

 それを一目見て、彼は驚き目を丸くしていた。


「これで大丈夫ね。痛みはない?」

「……お前」

「ん?」

「何だよ今の……魔法じゃないよな?」

「えっあ……」


 しまった、と心の中で思う。

 聖女の力を見せびらかせば、どういう反応をされるかわかっていたのに。

 身体が勝手に動いてしまった。

 私は目をそらし、回答を濁らせる。


「た、ただの魔法だよ?」

「侮るなよ。今のが魔法じゃないことくらい俺でもわかる。そもそも見ない顏だな?」

「そ、それはこの間来たばかりだから」


 じーっと彼が見つめる。

 疑いの目にさらされ、私は追い詰められた子ウサギの気分だ。


「まっ、いいか」

「えっ」

「話したくないなら無理には聞かないさ。それより何でこんな場所にいたんだ? 俺が言うのも変だけど、ここってあんまりおもしろい場所でもないぞ」


 それは見ればわかる。

 ただの空き地だし、人気も少ない。

 ここにいたのは単に、人から離れたいと思ったから。

 盛大に落ち込んでいたからだ。


「何かしてたのか?」

「ううん。ただ、現実は厳しいなーって思ってただけ」

「はっ、そりゃそうだろ。何もかも思い通りにいくとか、そんな風にはならない」

「そうだね……思い知ったよ」


 この時は知らなかったけど、ハミルは王子だから、私以上に儘ならないことが多かったに違いない。

 彼の言葉には、それくらいの深みがあった。


「でも、無理だーって諦めるのは悔しいからさ。俺は現実(それ)を、甘んじて受け入れるなんて御免だね」


 だからこそ、彼がそう言った時は心が震えた。


「行きたい場所があるなら突き進め。ほしい物があるなら掴み取れ。何かを成し遂げたいなら、それに見合った努力をしてみる。そうやって現実に挑んでみるのも、悪くないんじゃないかって思うんだよ」


 真っすぐで強い意志を感じる。

 彼の中には最初からあったんだと思う。

 何があっても揺らがない自分が。


「何か変な話になったな。まぁあれだ、ここであったのも何かの縁だし、相談くらいにはのってやれるぞ?」


 ハミルは笑顔でそう言ってくれた。

 嬉しかったし、心強いと思えた。

 だから私は、精一杯の感謝を言葉と笑顔に込めて返した。


「ありがとう」


 その後は彼に、ここに至るまでの話をした。

 不思議なことに、彼には秘密もすんなり話せてしまったんだ。

 聖女であることには驚いていたけど、態度を変に変えたりしない。

 大聖堂を紹介してくれたのもハミルで、お陰でこの街でやることを見つけられた。

 あの日からずっと、私とハミルは関わるようになった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 懐かしい記憶を思い返す。

 あの出会いがなかったら、私はどうしていたのかな?

 今となっては考えられないし、考えたくもない。


「変わらないよね、ハミルは」

「そんなことないさ。少なくとも一つ、確実に変わったことがあるぞ」

「そうなの?」

「ああ」


 そう言って、彼は私の手を優しく握る。


「お前のことを、もっと好きになれた」


 不意打ちの告白に、何も言葉が出てこない。

 私は口を開いたまま、ぼーっと彼を見つめる。

 そんな私の手をさらに強く握って、彼は続けて言う。


「今だから言うけど、最初は一目ぼれだったんだよ」

「そ、そうなの?」


 ハミルはこくりと頷いて続ける。 


「容姿に惹かれて、声に惹かれて、性格に惹かれて、生き方に惹かれて……今じゃお前との未来しか考えていない。そのくらい好きになったよ」


 なんて……恥ずかしいセリフを堂々と言えるのだろう。

 聞いている私のほうが恥ずかしくて、彼の顔を直視できない。


「前にさ。兄上に言われたんだよ」

「お兄さん?」


 王族である以上、感情だけで決められることは少ない。

 私もお前も、王族としての責を背負っているからな――


「あの時はちゃんと言い返せなかった。気持ちは決まっていたのに、情けないと思ったよ」


 メルフィス王子が私の所に来る前だろう。

 身内には厳しい人だと聞いていたけど、ハミルにとっては痛い言葉だった。

 そしてそれは、私にも関係していることで、だからメルフィス王子は私にも助言をくれたんだと思う。

 やっぱりメルフィス王子は優しい人だ。

 弟のハミルが後悔しないように、陰で支えてくれている。


「だけど、今なら言える」

「ハミル?」

「アイラ、俺と婚約してくれないか?」

 

 それは、私が一番ほしかった言葉だった。

 今日まで頑張って来たのも、その一言を聞くためだった気がする。

 思い出がよみがえり、想いが激流となって全身を巡る。

 気を抜けば涙が出そうになるくらい、私の心は嬉しさで満ち溢れていた。

 私の答えは、ずっと前から決まっている。


「はい」 


 王子様と出会えた日から、私の物語は始まっていたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ