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聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
長女アイラ

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42/50

 クレンベルでは毎年同じ時期に、強めの感染症が流行する。

 ちょうど寒さが強くなってきた頃で、気温の変化から体調を崩す者が多い。

 弱った所にその感染症は特に効く。

 症状は風邪とほとんど一緒だけど、強さは倍以上違うから、成人でも放っておくと命を落とす危険性がある。


「そうだったのですね。だから咳込んでいる人をよく見かけるのですか」

「ええ。毎年のことですが、中々厄介な病気のようです。年を経る度に形を変えて、昨年の薬も効かないとか」


 お昼休憩の時間に、ユレスさんから話を聞いていた。

 最近の聖堂にくる人たちの中にも、体調が優れないという方が多い。

 マスクという口と鼻を覆う布をして、感染症の予防に努めている人もチラホラ見受けられた。

 ユレスさんの話で、そこの疑問が解決された。


「流行期は二か月以上続きますから、聖女様もお気をつけください」

「はい、ありがとうございます」


 と答えつつも、自分は大丈夫だと確信する。

 なぜなら私は聖女だから。

 聖女は病にかからない。

 悪魔の呪いとか、そういう特別なものを除いて、あらゆる毒や病に抵抗力がある。

 聖女になってからは、私と姉妹二人とも、病気にかかったことはない。

 心配事があるとすれば、私よりも彼のことだ。


 その日の夕暮れ。

 私が裏庭で寛いでいると、ハミルが壁を越えてやってきた。

 いつも通りに隣へ座って、近況を報告し合う中で、流行病の話になる。


「ハミルは大丈夫なの?」

「まぁな、今のところは平気だ。元々身体は丈夫な方だし、あんまり風邪もひいたことないからな」

「そっか。もしも辛かったら早く教えてね? 私の祈りなら、病も治せるから」

「ああ、そうなったら言うよ。だが、街ではすでに流行り始めている。それも今年のはちょっと厄介らしいんだ」

「厄介?」


 ハミルが目を細め、真剣な表情を見せる。


「毎年薬が効かなくなるって話は聞いてるよな?」

「ええ」

「今年も例にもれずそうらしいんだが、今回は特に強力らしい。王城の医療班の話を盗み聞きしたら、例年の三倍の感染力って聞こえたからな」

「そ、そうなんだね」


 この際、盗み聞きという単語には触れないことにする。

 たぶんいつも通りなのだろうから。

 それより例年の三倍というほうが強烈だ。

 例年を知らない私でも、三倍と聞けばとても危険だと察しが付く。


「王城でもせっせと対策を練っている最中だな」

「そっか……ハミルもあんまり出歩かないほうがいいんじゃない?」

「……それは父上にも言われたよ」


 王子であるハミルが感染したら、いろんな意味で大事に発展しかねない。

 特に王城内でパンデミックでもしたあかつきには、国を揺るがす大騒動だ。

 不用意に出歩くのは良くないと、国王様がいうのもわかる。

 ただ、それでも会いに来てくれることにも、私は嬉しいと感じてしまう。


「なるべく迷惑はかけないようにするさ。今日もこれで帰るよ」

「うん」


 普段より時間の短い対面だった。

 ちょっと寂しいけど、立場があるし仕方がない。

 互いに手を振って、その日は別れた。


 その翌日から、街中で感染症が一気に流行し始めた。

 通り過ぎる人は全員マスクをしている。

 咳込んでいる人の数も、たった一日たらずでかなり増えた印象だ。

 高熱と倦怠感に襲われて、家から出られなくなる者も多いと聞く。

 そういった影響もあって、聖堂に訪れる人も減っていた。


「ごほっ……ぅ~」

「大丈夫ですか? ユレスさん」

「あ、あぁ……すまないね」

「司教様、もしかして流行病に?」


 ミスリナが心配そうに尋ねた。

 ユレスさんは辛そうな表情で答える。

 

「かもしれないですね。毎年のことで気を付けてはいたのですが……ごほっ!」


 ユレスさんは今年で六十になる。

 世間一般でいう高齢な彼にとって、流行病は命を蝕む。


「ユレスさん」

「聖女様?」

「主よ――我が同胞に癒しの力を与えたまえ」


 ユレスさん白いヴェールで包まれる。

 癒しの祈りは、どんな病でも感知させられる力。

 流行病にも、効果を発揮してくれる。


「どうでしょうか?」

「身体が……軽くなりました。ありがとうございます」

「いえ、ユレスさんは私たちの大切な司教様ですから」

「凄いですアイラ様! 流行病も治せてしまうなんて」

「ふふっ、ありがとう。他に体調が悪い人はいませんか?」


 修道女がポロポロと手をあげる。

 我慢していた子たちも多い様子だ。

 神に仕える者として、病に屈してはならない。

 私は修道女たちに癒しの加護を施した。


 そこへ――


 ガチャリと扉が開く。

 現れたのはハミルだった。

 裏庭の壁を登ってくる彼が、堂々と正面から入ってくるなんて珍しい。

 それも王城の兵隊を一緒につれている。


「ハミル王子?」

「急な訪問ですまない。聖女アイラ、君に王子として話があるのだが」


 彼は王子として、と前置きをした。

 つまりそれは、王族として頼みたいことがあるという意味だ。

 私は頷き、それに答える。


「わかりました」

「感謝する。司教殿、奥の部屋を借りてもいいか?」

「ええ、もちろんでございます」


 私たちは応接室に向う。

 お連れの兵士は部屋の外で待たせて、私とハミルだけが部屋に入った。

 そして、ハミルが真剣な表情で私に言う。


「単刀直入に言う。聖女としての君に、協力してもらいたいことがあるんだ」


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